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ファクト ~真実~  作者: 華ノ月
第四章 黒い鴉に尽くしていた白い鳥

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8.


「……基頼……さん……」


 声を掛けてきた基頼に絵美は言葉が上手く出ない。


「元気だった?どれぐらいぶりかな?奏ちゃんが出て行ってから絵美ちゃんとも会う機会が無かったからね。あ、良かったら荷物持とうか?」


 基頼が柔和な笑みを浮かべながら絵美にそう声を掛ける。


「……別に必要ないですよ。で、私に何か用ですか?」


 絵美が警戒しながらそう言葉を綴る。


「そんなに警戒しなくても……。あっ、今でも自炊はよくしているの?絵美ちゃんの作った唐揚げ、また良かったら作ってよ。すごく美味しかったからさ」


 基頼が柔和な笑みを浮かべたままそう言葉を綴る。


「……あれは奏に作っていただけで、あなたに食べてもらうためじゃないから……」


 絵美がどこか怒りを発しながら低い声でそう言葉を綴る。


「そう?よく僕にも良かったらどうぞって言ってくれていたからさ。また機会があったら作って欲しいな」


 基頼が笑顔でそう言葉を綴る。


「……そんな事より、私に何か用ですか?忙しいんですけど……」


 絵美が苛立ちを感じながら、そう言葉を綴る。


「そのさ……、奏ちゃん、元気にしてるかな?あんなことがあったとはいえ、僕の方にも非があったかもしれないから謝りたいんだ……。あんな事、本気で言ったわけじゃないし……。まさか、それで本当に部屋を出て行くとは思わなかったから……。でも、奏ちゃんの事を考えてやり直したいとは言わないけど、せめて今までしてきたことをちゃんと謝りたいんだ……」


 基頼が目を伏せながら申し訳なさそうにそう言葉を綴る。


「……それ、本当に本音ですか?」


 絵美が基頼の言葉に怒りを含みながらそう言葉を発する。


「勿論だよ!本当に謝りたいんだ!だから、頼むよ、絵美ちゃん!何とか奏ちゃんに会わせてくれないかな?!」


 基頼がそう言って深々と頭を下げながら懇願するように言葉を綴る。


「……伝えるだけは伝えとくよ。でも、それ以上はしないから」


 絵美がそう言葉を発して踵を返すとその場を去って行く。


「よろしくね!絵美ちゃん!」


 基頼が去って行く絵美にそう言葉を掛ける。


 絵美はその言葉に聞いていないふりをして、足早にその場を離れていった。



「……とんだ災難だったわ……」


 絵美がアパートに入るなり、そう言葉を呟く。


「念のため、奏には連絡しておいた方がいいかもしれないわね……」


 絵美はそう言ってスマートフォンを鞄の中から取り出すと、奏に電話をした。




「はい、奏です」


 奏が掛かってきた電話にそう声を発する。


 奏に電話してきたのは絵美だった。仕事中だったが、冴子たちに絵美が基頼の事を少し調べてみるという話をしてあったので、その事に何か関連があるかも知れないからと言うことで、電話に出ていいという事になった。


「え……?基頼さんが……?」


『うん……。私のアパート近くで待ち伏せしていたのか分からないけど、声を掛けられたよ』


 そして、絵美が先程の基頼との会話を電話越しに話す。


「……うん。分かった……。夏江さんの件に関連があるかどうかは分からないけど、きっと、何か別の狙いがあると思う……」


『その可能性の方が高いからね……。奏も気を付けてね』


「……うん、気を付けるよ。絵美ちゃんも気を付けてね。恐らくまた接触してくると思うから、その時はまた連絡を貰える?」


『分かった。またそのときは連絡するよ』


 そう話して電話を終える。


「……冴子さん、提案があるんですが……」


 先程の絵美の話を聞いて、奏がそう言葉を発してあることを語る。その内容に冴子たちは驚きを隠せない。


「……でも、危険じゃないか?」


 槙が奏の提案を聞いてそう言葉を綴る。


「危険は危険です……。でも、それが一番良いかもしれません……」


 奏がそう言葉を綴る。


「……分かったわ。じゃあ、とりあえずその方向で話を進めてみましょう……」


「その前にある程度の情報収集だな」


 冴子の言葉に付け足す感じで透がそう言葉を綴る。


 こうして奏たちは明日から聞き込みを開始することにした。




 次の日、奏たちは準備をすると、捜査のために聞き込みに繰り出した。とりあえず、夏江の事を知っている奏の友達、安倍あべ 由紀子ゆきこに話を聞きに行くことになったので奏が由紀子に連絡を取り、会う約束を取り付ける。


 由紀子とはよく二人で行く、カフェで落ち合うことになった。奏と透が話を聞くことになり、紅蓮と槙はカフェの外で待機する。


「久しぶりね、奏ちゃん」


「ゆっちゃん!久しぶり、元気してた?」


 カフェに由紀子がやって来て奏を見つけると笑顔で手を振り、席に着く。


「初めまして、奏ちゃんの友達の安倍由紀子です」


 由紀子がそう言って透に深々とお辞儀をする。


「今日は時間を作ってくれてありがとう。早速だけど、話を聞かせてくれる?」


 奏がそう切り出す。


「私も詳しいわけじゃないけど、奏ちゃんと別れた後、周りには奏ちゃんが他に男を作ってアパートを出て行ったっていう風に聞いたのよね。でも、直ぐ後に職場で仲良くなった夏江ちゃんと暮らすことになったのよ。夏江ちゃんと基頼さんは年齢が離れているし、職場でも基頼さんはロリコンじゃないかと言う話も出たくらいよ。夏江ちゃんは発育に障害があって見た目も中身もかなり幼い子だから……。全く……、夏江ちゃんも何で基頼さんと暮らすことにしたのかが疑問なくらいよ……」


 由紀子がそう言ってため息を吐く。


「……ちなみに、奏が男を作って出て行ったという話は……?」


 先程の由紀子の話に透がそう尋ねる。


「その……、元々は基頼さんが『出てけ!』って言ったのがきっかけなのですよ……。私がしつこくアルコール依存の可能性があるから治療しようって何度も言ったのが気に入らなくて、怒った基頼さんがそう言って飲んでいたアルコールを叩きつけるように私に浴びせたんです……」


 奏がその時のことを思い出しているのか、辛そうに言葉を綴る。


「……周りに私が出て行った理由をそう言っているだろうな……と言うのは予想できました。基頼さんは都合が悪くなるといつも私がやった、言った、という事にして責任転換していましたから……」


 奏が苦しそうにそう言葉を語る。


「本当に酷い人だったのよ……。表向きは良い人を演じているけど、分かる人には分かるはず……。だって、奏ちゃん、基頼さんと居るようになってからどんどんやつれていったもの……。見ている私も凄く心配になったわ……。でも、二人の事だから私は介入できないし……。だから、別れたという話を聞いたときは本当に良かったって心の底から思ったものよ……」


 由紀子が最後はどこか安心したように言葉を綴る。


「……かなりの悪人なんだな、そいつ……」


 透が奏と由紀子の話を聞いてそう言葉を綴る。


「その……、私のせいにしてしまうのは確かに責任転換なのですが、基頼さんの中では、本当にそういう事になっているんですよ……」


「どういうことだ?」


 奏の言葉に透が疑問を抱く。


「基頼さんになぜしつこくアルコール依存の治療を進めていたかと言うと、アルコール依存がある場合、脳の中で責任転換をするために本当に脳がそうだったという風に認識してしまっているんです。だから、基頼さんの中では自分が言ったこと、やったことで都合が悪くなったことは、症状の関係で本当に私が言ったことやったことに書き換えられているんです……」


「……つまり、責任をなすりつけようとしているわけではなく、そいつの中では本当にそれが真実になっている……という事なのか?」


「はい……」


 奏の言葉に透が驚いたようにそう言葉を綴る。


 基頼が自分で言ったことややったことで都合が悪くなると奏のせいにするのは基頼の中でそれが本当に奏が言ったことややったことになっているからだった。自分が言った事とは全く思っていない。自分が責められるのを避けるためではなく、基頼の中ではそれが真実だという事になっている。それ故に、基頼がやったことで都合が悪くなると、奏がやったことになり、何度も奏はそれで責め立てられた。そして、責められ続けることでどんどん心が蝕まれていき、体はやつれていった。


 そして、「出てけ!」と言われた時に、限界をとっくに超えていた奏はアパートを出て行ったのだった。


「……よくそれまで耐えたものだな……」


 奏の話を聞いて透がそう言葉を綴る。奏はその言葉に少し惑ったような表情を見せる。


「本当にそうよ……。私もよく耐えていたと思うわ……」


 由紀子がしみじみとそう言葉を綴る。


「……ところでゆっちゃん、夏江さんの事で他に何か知っていることはない?例えばご両親の事とか……」


「そうねぇ~……。私が知っているのはご両親は元々体が弱い人だったみたいで、遠方に引っ越したっていうことは聞いているけど、それ以外は何も……」


 由紀子も他には何も知らないという事で、由紀子の聞き込みは終わった。そして、カフェを出て由紀子とさよならをする。その後、奏と透は紅蓮と槙に合流して先程の由紀子の話を二人にした。


「……なんていうか、とんでもない男だな……」


 話を聞いて紅蓮がそう言葉を発する。


「あぁ。まさかそんな男がいるとはな……」


 槙も話を聞いてそう言葉を綴る。


「奏ちゃん!辛かったね!そんな男なんかに引っ掛かって……。でも、安心してくれ!俺が奏ちゃんを守るからね!!」


 紅蓮がそう言葉を綴りながらキラキラモードの笑顔を見せる。


「おまえもある意味悪い男だろ。女をとっかえひっかえしている女たらしじゃないか」


 槙が紅蓮を馬鹿にしたような目つきで淡々と言葉を吐く。


「槙!俺は女たらしじゃない!最高の女を見つけるために今は女の旅をしているところなだけだ……」


 紅蓮がまたまた何処から取り出したのか、赤いバラの花を一輪持ちながら芝居がかった口調でそう言葉を語る。その瞳は恍惚としており、物憂げに遠くを見つめている。


「「アホはそれまでにしとけ」」


 その紅蓮に透と槙が突っ込みを入れる。


「……話を戻すと、その男がどういう男かは大体わかったな。てことは、奏の例の推測はハズレでない可能性も否定できないな。しかし、その男と接触するにしても奏の提案を飲むのはやはり危険な気がする」


 槙の言葉に透が奏の提案したことを「やはり止めといたほうが良いのではないか?」と言う話になる。


「しかし、夏江さんを放っておくわけにもいきません……。基頼さんの性格は把握しています……。なので、その方が心配なのです……」


 奏が辛さを感じさせながらもどこか強い瞳で言葉を綴った。




(……さて、次の仕事までにやる事やらなきゃ……)


 絵美が次の仕事までに時間が空くのでその間に買い物を済ませて一旦アパートに戻って来る。そして、アパートにある駐輪所に自転車を止めて荷物を荷台から降ろした時だった。



「こんにちは」




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