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ファクト ~真実~  作者: 華ノ月
第四章 黒い鴉に尽くしていた白い鳥

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6.


「……じゃあ、その部屋では毎日のように泣き声が聞こえているの?」


 絵美の言葉にその人が頷く。


 絵美は隣の住人である今野こんのに声を掛けて、話を聞いていた。そして、今野からある事がきっかけでその部屋の様子が分かるという話を聞き、不思議に思ってその事を聞くと、今野は困った様子をしたが、何があったのかを話してくれた。その話に絵美は驚いだが、とりあえず黙っておくということを伝える。そして、それがきっかけで知ってしまった事を聞くと、女の泣き声がよく聞こえるという事だった。


「それに、お隣さんの怒鳴り声もよく聞こえるよ。言葉でいくと、罵倒しているような言葉がよく聞こえるんだ。『馬鹿』とか『ノロマ』とか……。正直、お隣さんが意外だな~って思ったよ。なんていうの?偶然会うと、とてもニコニコしていて挨拶もしてくるし、人当たりが良さそうな優しい人だと思っていたんだ。でも、それって表の顔だったんだな~って感じてさ。もしかして、前に一緒に住んでいた子が出て行ったのもそのせいなんかな?って思ったよ」


 今野はそのアパートに暮らし始めてかなり長い。なので、奏の事も知っている。


 そして、絵美は今野に他に何か気付いた事がないかを聞いていった。




「お疲れ様、奏」


 今日の仕事が終わり、警察署を出ると、広斗がスーツ姿でそこに立っていた。


「広斗さん!」


 奏が嬉しそうに声を上げる。そして、広斗の車に乗った。


「お仕事、大丈夫?」


 奏が迎えに来ることで広斗の仕事が滞っていないかを心配してそう声を掛ける。


「大丈夫だよ。まぁ、送っていくだけにはなるけどね」


「あの……、紅蓮さんの事なら大丈夫ですよ?」


 奏の問いに広斗は「えっと……」と言うだけで特に答えない。


「……他に何かあるのですか?」


 奏がそう問いかける。


「いや……特には……」


 その問いに広斗の声がどもる。


「……本当に紅蓮さんの事が心配なだけ?」


「うん……まぁ、そんな感じかな……」


 広斗の返答に奏は違和感を覚えるが、これ以上追及しても何も話しそうにないのでその話をしないことにする。


「そうそう。この前、絵美ちゃんと会ったのだけど、孝君にも会ってね!三人で夕飯がてら飲みに行ったんだよ!」


 奏が笑顔でその話題を振る。


「そうみたいだね。たかやんから聞いたよ。楽しめたみたいだね」


 広斗が奏の話にどこかホッとしてそう言葉を綴る。


「今度は広斗さんも含めて四人で行けるといいね!」


「そうだね。その時はちゃんと時間を作っておくよ」


 奏の言葉に広斗が笑顔で言葉を綴る。


 そして、話をしている内に奏の家に着き、奏がお礼を言って車を降りる。


「送ってくれてありがとう、広斗さん。まだお仕事はあるんだよね?」


「うん、これから夜の授業が始まるからね。急いで帰って授業の準備をするよ」


「授業頑張ってね!」


「ありがとう」


 広斗がそう言って帰っていくと、奏は家に入っていく。


「ただいまー!」


「あら、おかえり。いつもより帰りが早いのね」


 家に入ると玄関で雫が出迎えてくれた。


「うん!広斗さんが送ってくれたんだ!」


 奏がピースサインをしながら嬉しそうに言葉を綴る。


「そうなの?もしかして、奏が送って行って欲しいって我が儘言ったの?」


「違うよ~!なんか急に広斗さんが送っていくって言いだしたんだよ!」


 雫の言葉に奏がそう説明する。


「あまり迷惑かけちゃだめよ?仕事が忙しい人なんだから……」


 雫がそう言葉を綴りながら奏を窘める。


「分かってるよ。でも、急にどうしたんだろ……」


 奏がそう言って、広斗がどうしてそう言いだしたのかを考えるが、やはり自分には思い当たらない。本当に紅蓮の事が心配なのかもと考えてしまう。


「もうすぐ夕飯だから、着替えてきたら?」


「はーい」


 雫にそう言われて奏が素直に返事をする。


 そして、家族の夕飯を和やかに過ごした。



「……はぁ~、お腹いっぱい……」


 奏が夕飯を食べ終わって部屋に戻る。そして、スマートフォンを取り出し、誰かから連絡が来てないかを確認する。すると、絵美から「電話できる?」というメッセージが届いていたので、絵美に電話をした。



 ――――トゥルル……トゥルル……。



 コール音が鳴り響き、絵美はすぐに電話に出た。


『もしもし、奏?今、大丈夫?』


「もしもし、絵美ちゃん?どうしたの?何かあった?」


 電話越しに絵美がどこか切羽詰まっている様子が感じられて、奏がそう言葉を綴る。


『実は、基頼さんの事なんだけど……』


「え……?」


 絵美の口から基頼の名前が出て、奏が小さく声を上げる。


『ごめんね……。奏が基頼さんの話をするのを嫌がるのは分かっているんだけど、実はこの前の時に……』


 絵美がそう言って、この前の居酒屋で孝が基頼を見たという話をする。


「基頼さんが……あそこに……?」


 絵美の言葉に奏が愕然となる。


「でも……別れたんだし……別れた時、基頼さんが『今日から他人だから』って言っていたんだよ?」


『でも、あの人の事だから奏が幸せにしていたら許せないって言うのは出てくるんじゃないかな?』


 絵美の言葉に奏が何も言えなくなる。確かに基頼の性格を考えればそれはあり得る話だ。『自分を捨てて幸せになる』という事は基頼にとって許したくないことだろう。


「でも……聞いた話では基頼さんは私と別れた後で新しい若い彼女さんが出来たって聞いたけど……」


『その彼女さんなんだけど……』


 絵美がそう言って、今野から聞いた話を奏に話す。


「そんな……じゃあその新しい彼女さんは……」


『うん……、多分、酷い目に遭わされてると思う……』


 絵美の言葉に奏は何も言葉が紡げない。


『後、その居酒屋で基頼さんを見たって話をどうやら孝君が広斗さんに話したみたいなんだ』


「じゃあ……もしかして広斗さんがしばらく送っていくって言ったのは、その事でってこと……?」


『そうみたいだよ……』


 奏の中でようやく合点がいく。広斗の仕事の大変さは奏も知っている。空いた時間はそれこそ、次の仕事の準備に時間を割いていることも知っている。だから、そんなハードスケジュールの中で送っていく時間を作るのは難しいものがある。なのに、毎日送れるようにすると言った時は嬉しさもあると同時に驚きもした。紅蓮の事が心配とは言っていたが、透の話からしても、それが本当かどうかは信じがたいところがあった。


 奏の中で広斗に迷惑を掛けたことと同時に、そこまで心配して時間を割いてまで送ってくれることに感謝をする。


「今度、広斗さんにお礼しなきゃ……」


 奏がポツリと呟くようにそう言葉を綴る。


「あ……その新しい彼女さんの事だけど、もしかしたらゆっちゃんが何か知っているかも……」


 奏が何かを思い出したようにそう言葉を綴る。


『ゆっちゃんって由紀子ゆきこさんの事だよね?』


「うん。基頼さんが働いていた職場にゆっちゃんも働いていたことがあるから何か知っているかもしれない」


 そして、奏が由紀子に聞いてみると言い、電話を終えると、急いで由紀子に電話をした。



 ――――トゥルル……トゥルル……。



 コール音が鳴り響く。


『はい、由紀子ですけど。どうしたの?奏ちゃん』


「もしもし、ゆっちゃん?ちょっと聞きたいのだけど……」


 奏がそう言って基頼の新しい彼女の事を知っているかを聞く。


『あー……、夏江ちゃんね……。うん、確かに職場の人から聞いたことあるよ。基頼さんがその子と付き合い始めたって……。でも、その職場の子の話だと、基頼さんは仕事を辞めたみたいだよ?その後で夏江ちゃんも仕事を辞めたって聞いたよ?』


「その……、夏江さんて子はどんな子なの?」


『知能が遅れている子ね……。遅れているというか知的障害の子よ。もう、二十六なんだけど、見た目も性格もすごく幼い感じの子……ていう感じかな?噂では基頼さんが声を掛けて、仲良くなって付き合い始めたっていう事みたいだけど、基頼さんってもう四十超えているのに、よくそんな若い子と付き合えるよねって話だったみたいよ?なんか、仕事でも『俺がいないとここの仕事は回らない』とか言って豪語していたから、それが他の人たちの反感を買って辞めていったみたい……。まぁ、自業自得よね』


 由紀子の話に奏が唖然とする。恐らく、今までは奏に自慢げに話していた話を奏がいなくなったことで職場でもそう言う話をするようになり、反感を買ったのだろう……。


『でも、急に基頼さんがどうしたの?何かあった?』


 奏が夏江の事を聞いてきたので不思議に思ったのか、由紀子が心配そうに言葉を綴る。


「うん……、実はね……」


 奏はそう言って孝が居酒屋で基頼を見たという話と夏江が暴力のようなものに遭っているかもしれないという話をした。


『……そう。でも、だからと言って奏ちゃんが何とかしなきゃいけないことは無いのよ?あんな酷い目に遭わされたんだもの……。夏江ちゃんの事が心配かも知れないけど、今はもう関係が無いのだから、自ら首を突っ込む必要は無いからね?』


 由紀子が奏を心配してそう言葉を綴る。


「……うん、そうだね……」


 そして、その後二言三言交わして電話を終える。



 ――――トゥルル……トゥルル……。



 由紀子との電話が終わり、奏が何かを思いついてある人物に電話をした。




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