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ファクト ~真実~  作者: 華ノ月
第四章 黒い鴉に尽くしていた白い鳥

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4.


「もしもし、絵美さん?今、ちょっといいかな?」


 孝がこの前三人で飲みに行った時に、気になったことを話すために絵美に電話を掛ける。


『うん、大丈夫だよ。どうしたの?改まって……』


 電話越しに孝が何処か戸惑った感じであることに違和感を覚えて絵美がそう言葉を綴る。


「この前、奏ちゃんと三人で飲みに行った時、基頼さんを見たんだ……」


『……え?』


 孝の言葉に絵美が小さく声を上げる。


『あの、居酒屋にいたってこと?』


「うん……。見間違いかもしれないけど、多分、基頼さんだと思う……。それに……」


 孝がそこで言葉を詰まらす。


『どうしたの?』


 孝が黙り込んだので、絵美がそう声を掛ける。


「……何となく、こっちを睨みつけるように見ていたような気がするんだ……」


『……』


 孝の言葉に絵美が思案するような仕草になる。


『……あの人の事だから、今更奏に何もしないと思うけどちょっと心配ね……。何しでかすか分からないところもあるし……』


「でも、基頼さんって確か新しい彼女が出来たんじゃなかったっけ?今、一緒に暮らしているみたいな話を聞いたけど……」


『えぇ。それは本当よ。私も駅で一緒に電車に乗るところを何度か見たことあるからね』


 絵美と基頼の住んでいるところはそれなりに近いので最寄り駅は同じになる。同じ近所の友達から基頼に若い彼女が出来て一緒に暮らしているという話は絵美も聞いていた。ただ、その彼女とうまくいっているかどうかは絵美も知らない。近所の友達もそこまでは詳しく知らないと言っていた。


『……その件に関してはとりあえず奏には黙っておいた方がいいと思う。奏も基頼さんの事は思い出したくないだろうし、関わりたくないと思うからね……』


「そうだね……。ただ、一つ気になる事があるんだ」


『気になる事?』


「うん。僕たちあの時、広ちゃんの話もしていたでしょ?聞かれてないかな~って思って……」


『うーん……。そこは大丈夫だと思うけど……。とりあえず、基頼さんに関しては私の方でちょっと探りを入れてみるよ』


「分かった」


 そう言って、電話が終わる。孝はため息を吐き、ベッドに仰向けになる。


(奏ちゃんの身に何も起こらなきゃいいけど……)


 孝の中で不安が渦巻く。基頼の性格を考えると、奏とヨリを戻したいとかは思っていないことは分かる。もし、基頼がしでかすとすれば……。


(いや……、それは考え過ぎか……)


 孝がそこで思考を止める。


「あっ!買い出し行かなきゃ!!」


 孝が買い出しをしなきゃいけないものがあることを思い出し、慌てて準備をして家を出た。そして、大急ぎでスーパーで買い物を済ませ、それを自転車に乗せて帰ろうとした時だった。


「あれ?たかやん?」


 突然声が聞こえて孝が声のした方に振り向く。


「広ちゃん!!」


 そこにはスーツ姿の広斗が立っていた。




「……はぁ~、今日も書類整理で一日が終わりかぁ~……」


 紅蓮が奏と透と帰り道を歩きながらつまらなさそうに言葉を綴る。


「あれも仕事の内だ」


 透が素っ気なく言葉を発する。


「それにしても、書類整理とはいえ、あんなに膨大な量があるってことは、本当に世の中って事件だらけなのですね……」


 奏がどこか悲しそうな目でそう言葉を綴る。


「奏、書類整理していて何か気になる事件でもあったのか?」


 奏の様子に透がそう声を掛ける。


「その……、私が整理した中に知的障害の方が暴力を受けて殺されたというのがあったんです。暴力をしたのはその方がいた施設の職員なんですけど、その方の知能が足りないことで、話が通じないとかで暴力を与えた結果、死亡した……と言う内容のものだったのですが、その職員は勝手に階段から落ちたと言い張っていて、罪を全く認めようとしないということが書かれていたのです。でも、最終的には暴力での死亡が確認されて職員は逮捕されたのですが、記述に逮捕された職員が『あんな馬鹿はいなくなった方が世の中の為なんだ!』という記述が書かれていたので、辛い気持ちになったのです……」


 奏が悲しそうに言葉を綴る。


「きっと、そういう子たちでも頑張って生きているのにな……」


 紅蓮が奏の話を聞いて静かにそう言葉を語る。


「世の中にはそういう人を『厄介者』とする人もいるからな」


 透が遠い目をしながらそう言葉を綴る。


「そういう方たちでも、「人」です……。心があります……。喜怒哀楽もあります……。その亡くなった方もきっと苦しくて……辛くて……痛かったと思います……」


 奏が悲痛な表情でそう言葉を綴る。


「奏ちゃんは本当に優しいね。あっ!そうだ!奏ちゃんのセカンドダーリンとして、奏ちゃんをボディーガードしつつ、夜の相……」



 ――――ドカッ!!!



 急に透が紅蓮にケリを入れる。


「何するんだよ?!透!!」


 紅蓮が蹴られたお尻にバッテンマークを付けながら声を上げる。


「変な事を言おうとしていたから制止しただけだ」


 紅蓮の言葉に透が平然と答える。


「お前は彼女がいるんだから、別に奏ちゃんを取られたところで何も問題ないだろ?!」


 紅蓮が透に突っかかりながらそう言葉を発する。


「冴子さんに紅蓮が帰り道で奏に変な事をしないように見張っておいてくれと頼まれている」


「ちぇ~、ついに予防線張りやがったかぁ~」


 紅蓮が口をとがらせながら悔しそうに言葉を綴る。


 そうこうしながら歩いているといつの間にか駅に着こうとしていた。


 その時だった。


「奏!」


 駅まで近くなってきたところで声が聞こえて奏たちは声がした方に顔を向ける。


「ひ……広斗さん?!」


 スーツ姿の広斗が現れて、奏が驚きの声を上げる。


「ど……どうして広斗さんがここに……?」


「ちょっと、仕事の関係で近くまで来てたんだよ。仕事がひと段落ついて、時間的にもしかして奏の仕事が終わる頃だと思ったから、待っていたんだ。今から帰りだよね?家まで送っていくよ」


 広斗が笑顔で言葉を綴る。


 奏はその言葉に甘えることにして、透たちとそこでさよならをすると、広斗の車に乗って家に帰ることにした。


「まさか、広斗さんが送ってくれるとは思わなかったよ!ありがとう、広斗さん!」


 車に揺られながら奏が広斗にお礼の言葉を綴る。


「仕事で近くまで来たからね。送るだけなら時間が取れそうだったから、せっかくだしと思ったんだ」


 広斗が運転しながらそう言葉を綴る。


「奏、しばらくはこの時間あたりに警察署まで迎えに行くよ」


「へ?」


 広斗の思いがけない言葉に奏の口から変な声が出る。


「……もしかして、紅蓮さんの事が心配なの?」


「いや……えーっと……その……まぁ、そんな感じ……」


 奏の言葉に広斗がたどたどしくそう答える。


「透さんもいるから大丈夫だよ?ちゃんと交通費も出ているし……」


 奏の言葉に広斗がどう返答して良いか悩みながら「えーっと……」と言う感じで言葉を悩む。


(たかやんにあの話を聞いたからなぁ~……)


 広斗が心の中でそう呟く。


 広斗が奏を急遽迎えに来たのは、孝から例の居酒屋での話を聞いたからだった。奏や孝から基頼の話は聞いたことがあったので、心配になり迎えに来たのだが、孝から奏には言わない方がいいと思うと言われている。なので、その事を話すわけにもいかずに、奏が紅蓮の事を言ったので「紅蓮の事が心配」ということにしようと思い、その場をしのぐ。



「……じゃあ、明日からは警察署に迎えに来るね」


 奏の家の前に車を停めて、奏が車を降りると広斗がそう言葉を綴る。


「ありがとう、広斗さん。でも、お仕事が忙しいのだからあまり無理しなくていいからね?」


 奏が微笑みながらそう言葉を綴る。その言葉に広斗は何も答えずに、「またね」と言って去って行った。




「もっちゃん……、お腹空いた……」


 夏江が手にお腹を当てながらそう言葉を発する。


「うるせぇ!これでも食ってろ!!」


 基頼がそう叫びながら袋に入った菓子パンを投げつける。夏江はそれを拾うとその袋を開けて食べ始めようとした。


「向こうで食べろっていつも言ってるだろ!いい加減学習しろよ!!」


 夏江がその言葉にびくつき、そそくさとその部屋を出て行き、違う部屋で菓子パンを齧る。


「ふ……ふぇぇ……」


 夏江が泣きそうになって、泣かないように慌てて声を抑える。大きな声を出して泣いたらまた基頼に怒鳴られる。



 ――――くぅぅぅぅ……。



 最近、まともに食べてない分、菓子パン一つではお腹が満たされなくて腹の虫が鳴る。


「……足んない……」


 夏江がそう言って、部屋を出て基頼のところに行く。


「もっちゃん……、足らないから何か作ってよ……。ここの所ずっとちゃんとしたご飯食べてない……」


 夏江が泣きそうな目でそう言葉を綴る。


「さっき菓子パンを渡しただろ!それで膨らましとけ!!」


 基頼が怒鳴るように言葉を吐く。


「あんだけじゃ足りないよ!お腹空いたよ!ちゃんとしたご飯食べたい!」


 いつもなら基頼が怒鳴ると、何も言わなくなる夏江が反抗する。


「作れないなら何か買ってくるから、ママから預かってるお金ちょうだいよ!」


 夏江が叫ぶように言葉を綴る。


「そんな金ねぇよ!」


 基頼が怒鳴るように言う。


「じゃあ……じゃあ友達のところに行って食べさせてもらうよ!!」


 夏江が体を震わせながらそう叫ぶ。


「何考えてるんだよ!そんなことさせられるわけないだろ!!」


 夏江の言葉に基頼がそう叫ぶ。


「だって!もっちゃん、食べさせてくれないもん!だから友達に全部話してご飯食べさせてもらう!!」


 夏江がそう言って部屋を出て行こうとする。


「ま……待て!夏江!……させるかよ!!」


 基頼が玄関まで夏江を追いかける。


 そして……。



 ――――ドカッ!!




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