17.
敦成がある言葉を言おうとするが、口からその言葉が出てこない。
「何……?」
茉理が不思議に思い、敦成に声を掛ける。
「茉理……茉理……愛している……」
敦成がそう言葉を綴りながら茉理を抱き締める。
そして――――。
「俺と一緒に終わりにしよう……」
「え……?」
敦成の言葉が理解できなくて茉理が小さく声を発した。
「――――分かりました。ご協力、ありがとうございます」
美玖に車のナンバーを教えて貰い、奏がお礼の言葉を述べると本山と杉原がそのナンバーを元に捜索を開始する。
病院に着いた奏たちは美玖の病室に向かった。医者からはあまり長い時間の滞在は避けるように言われたので、車のナンバーだけを聞いて帰る事にするはずだったが、病室を後にしようとした時、奏は思い切ってある事を聞くことにした。
「あの……、美玖さん……」
奏が何処か迷いながらそう言葉を発する。
「あの……茉理は捕まっちゃうのですか?」
奏が気になっていることを尋ねようとしたら、逆に美玖がそう言葉を発した。
「今回のこと……、事件にしなきゃならないのですか……?」
美玖が何処か懇願するように言葉を綴る。
「美玖……、こんな目に遭ったんだ……。これは立派な事件なんだよ?」
美玖の傍らで、祐樹が美玖の肩に手を添えながらそう言葉を綴る。
「でも……でも……茉理は私の友達で親友で……」
美玖が泣きながらそう言葉を綴る。
「美玖さん……。茉理さんを親友と思っているのは美玖さんだけでもですか……?」
「……え?」
透の言葉に美玖が「よく分からない」と言う顔をする。
「どういうこと……ですか?」
美玖が尋ねる。
「その……、茉理さんが美玖さんの事を本当は憎んでいたことをご存じでしたか……?」
「……え?」
奏の言葉に美玖の頭からサーッと血の気が引いていく。
「茉理が……私を憎んでいた……?嘘……そんなこと……は……」
美玖が声を震わせながらそう言葉を綴る。
「美玖……、僕も何となくだけど、そう感じたよ……」
「え……?」
祐樹の言葉に美玖が「信じられない」と言う表情をする。
「茉理さんは、美玖さんの傍にいれば自分も人気者になれると思って傍に居たそうです……」
「人気者……?」
「はい……。恐らく、茉理さんはあなたといることで自分にも人気を集めるというか……自分もいろんな人に愛されたかったのだと思います……」
奏がそう言って、茉理の幼馴染で高校も一緒だった人から聞いた話をする。
「う……そ……。じゃあ……じゃああの頃の日々は全部偽物だったっていう事なの……?」
美玖が真っ青になりながらカタカタと震えだす。
親友だと思っていたのは自分だけ……。
「でも……それでも……私は茉理と居た日々は楽しかったし……偽物でも……いろいろ二人でモノ作りしたりして……本当に……楽しかったんです……。でも……茉理にとって私の存在は憎かったんですね……。私……そのことに全然気付かなかったんですね……」
美玖が涙を流しながらそう言葉を綴る。泣きながら何度も「ごめんね……ごめんね……」と、小さな声で呟く。
「あの……刑事さん……。やはり、事件にしなきゃいけないですか……?なんとか事件にしないことにはならないですか……?」
美玖が泣きながら訴えるように言葉を綴る。
「美玖!美玖をこんなひどい目に遭わせたんだよ?!もし、当たりどころが悪かったら死んでいたかもしれないんだ!」
「あの……落ち着いてください……」
祐樹が声を上げて言うので奏が慌ててそれを制する。
「すみません……」
祐樹が慌てて謝る。そして、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「美玖……、美玖の気持ちは分かるよ……。偽物だったとはいえ、友だちを警察に突き出すような真似をしたくないってことは分かる……。でもね、美玖……。本当に美玖が友達だと思うなら、茉理ちゃんを救うためにも罪を認めてもらい、きちんと償ってもらうことが本当の優しさなんじゃないかな……」
祐樹の言葉に美玖が大粒の涙を流す。
「……では、私たちはこれで失礼しますね」
奏たちが病室を出ようとする。
「あ……あの!!」
そこへ、美玖が声を発した。その声で奏たちが立ち止まる。
「あの……、茉理は何で海で自殺をしようとしたのですか?一体茉理の身に何が起こっているのですか……?」
美玖の言葉に奏たちが話していいかどうかを迷う。しかし、美玖と祐樹は死のうとした茉理を助けている。
「実は……」
奏がそう言って茉理が起こした事件の事を話した。
「じゃあ……、ネットにあったマンションで刺されたという女性は茉理のお母さんの事だったんですか?!」
「ネット……?」
美玖の言葉に紅蓮が不思議そうに声を出す。その事件は母親の意向で事件にはしていないはずだ。ニュースではもちろん、地方記事にもその事件は載せていない。
「これなんですけど……」
美玖がそう言ってスマートフォンを開き、その記事を奏たちに見せる。
「……まさか、ネットに上げられていたとはな……」
槙がその記事を見て苦々しく言葉を綴る。
「とりあえず、この記事は削除してもらうように上に言っておきましょう……」
杉原がそう言葉を綴る。
今の時代、ネットは当たり前で誰でも簡単に観られるようになっている。それによって不正が暴かれたこともあるが、中には悪質なものもあって、誰かを陥れるために平気でSNSに嘘の情報を書き込む人も増えている。
「……それでは、私たちはそろそろ失礼しますね」
奏たちがそう言って病室を出て行く。
そして、美玖から聞いた車のナンバーを頼りに捜索に取り掛かった。
「終わり……って……一緒に死のうって……こと……?」
「あぁ……そうだ……」
茉理の言葉に敦成がそう言葉を綴りながら何気に窓に目をやる。
「……あれは?!」




