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ファクト ~真実~  作者: 華ノ月
第三章 愛を欲しがった悲しみの鳥

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7.


「はぁ……はぁ……はぁ……。ここ……は……?」


 茉理が急に叫び声をあげたので、美玖が飛んでくる。


「良かった!目を覚ましたのね?!」


 茉理がぼんやりとしながら美玖の方に顔を向ける。最初は意識が混濁しているのか、「誰?」というような感じで美玖の方を見るが、しばらくして、声を出す。


「美……玖……?」


 茉理がポツリと名前を呼ぶ。


「うなされていたみたいだけど、大丈夫?」


 美玖が茉理の手を握り締めて、心配そうにそう言葉を綴る。


「……ホントに美玖……なの……?」


「そうだよ……、茉理……。びっくりしたわよ……。なんであんなことを……」


「……あんなこと?」


 美玖の言葉がよく分からなくて茉理がそう言葉を返す。そして、何があったのかを思い出そうとする。


「……そうだ……私……」


 茉理が「自分が何をしたのか?」、そして「何をしようとしていたのか?」を思い出して、涙を流す。


「……助けてくれなくて良かったのに……」


 茉理がそう呟きながら声を押し殺して泣き出す。


 美玖はその様子に何と声を掛けていいかが分からない。ただ、分かるのは死のうとしたくらいの何か大きなことがあるだけ……。


「……とりあえず、お粥か何か食べる?すぐ作るからさ……」


 美玖がそう茉理に声を掛ける。そして、起き上がろうとしている茉理に美玖が「まだ横になってるといいよ」と声を掛けて、そのままお布団に寝かせる。そして、キッチンに行き、お粥の準備を始めた。



 ――――コトコトコト……。



 お粥を作っている鍋から美味しそうな匂いが茉理の鼻をくすぐる。


(誰かにご飯を作ってもらうっていつぶりだろ……)


 お粥の匂いを嗅ぎながらふと考える。まさか、誰かが助けるなんて考えてなかった上に、まさか助けたのが美玖だとは思いもよらなかった……。運命の悪戯か……何か意味があるのか……。様々な想いが茉理の頭の中を駆け巡る。


 その時だった。


「ただいまー。美玖―、夕飯用のお弁当買ってきたよー」


 男の声がして、茉理が首を傾げる。


「おかえり、祐樹。お弁当、ありがとう」


 キッチンからそんな会話が聞こえてくる。


「良かった。目が覚めたんだね」


 祐樹が茉理のいる部屋に入ってきて、そう声を掛ける。


「あ……あの……」


 茉理が祐樹の登場に戸惑う。そこへ、お粥を持って美玖が部屋にやってきた。


「お粥できたけど、食べられる?」


 美玖がそう言って、茉理をゆっくりと起こす。


「美玖……この人は……?」


 茉理が祐樹を見ながら美玖にそう尋ねる。


「あぁ、祐樹のこと?茉理は会うのが初めてだったよね。私の婚約者よ。来年の春くらいに結婚するの」


「そう……なんだ……」


 美玖の言葉に茉理がそう答える。


(とても優しそうな人だな……)


 茉理が祐樹を見ながらそう感じる。


(美玖……幸せそう……)


 心の中でそう呟く。それと同時になぜ自分は幸せになれないのかがグルグルと渦巻く。


(こんな優しい人が恋人だったら私も幸せになれたのかな……)


 幸せそうな美玖……。


 幸せになれない自分……。


 美玖と自分は何が違うのか……。


(なんで美玖にはこんな素敵な人ができるの……?昔から私の方が可愛いはずなのに……)


 茉理の中で嫉妬心が渦巻く。


「……り?茉理?どうしたの?」


 美玖が心配そうに茉理の顔を覗き込む。


「あ……ううん……なんでもない……」


 茉理が我に返りそう言葉を綴る。


「とりあえず、美玖の作ったお粥を食べるといいよ。美玖のお粥は出汁が特製でね。とても美味しいよ」


「あ……はい……」


 笑顔で祐樹が言う言葉に茉理がどことなく嫌な気分を感じる。


「じゃあ、美玖。僕たちも夕飯にしようか。お弁当、美玖の好きなもの買ってきたよ」


「うん!ありがとう、祐樹。お礼に明日の夕飯は祐樹の好きなもの作るね!」


 祐樹が袋からお弁当を取り出し美玖に手渡すと、美玖が嬉しそうにそのお弁当を受け取る。茉理がその様子を見ながら黒い感情が渦巻いていく。


(私が手にしたかった幸せを美玖は手にしているのね……)


 ぐるぐると黒い感情が膨れ上がっていく。目の前に繰り広げられている光景は茉理が手にしたかった幸せの形そのものだった。


(なんで……この人の隣にいるのが私じゃないんだろう……)


 茉理が二人を見ながらそう心で呟いた。




「……旦那がDVをしている可能性がある……ということね?それと同時に更にこの事件を深堀すれば表に出なかった事件があるかもしれない……か……」


 奏たちが一旦特殊捜査室に戻り、冴子に先程の事を報告する。


「はい。可能性の段階なのですが、今回の事件はいろんな要素が絡んでいます。敦成さんがDVをするようになったのにも何か表に出ていないことが原因かもしれません。それに、敦成さんがDVをしていたのだとしたら、茉理さんは敦成さんを刺すはずですが、刺されたのは母親の淳子さんです。もしかしたら、茉理さんと淳子さんにも何かあるのかもしれません……」


 奏がそう言葉を綴る。


「実はあなたたちが捜査に行っている間、こちらでも茉理の両親の事を調べたのだけど、どうやら茉理の両親は茉理が幼い頃に離婚しているみたいね。父親の方は離婚後、誰とも再婚していないわ。まぁ、それは母親も同じだけどね。ただ、父親から母親の方には定期的に生活費が振り込まれているそうよ。どうやら離婚した父親はそれなりに大きな会社の社長みたいで、娘である茉理がある程度自立するまでは資金援助をしていたみたい。だから、母親はそのお金で生活をしていて、仕事はしていないみたいよ。母親が暮らしているマンションも離婚した旦那名義だということは分かったわ」


「ちなみに茉理と母親の関係はどうなんですか?」


 冴子の言葉に透がそう尋ねる。


「そこまでは分からなかったわ……。ただ……」


 冴子がそこまで言って言葉を詰まらした。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 司掌真実の神-- [気になる点] 彼女の過去は神秘的で、これは私を好奇心にさせます。 [一言] すべてを超える考え!
2024/03/08 17:42 退会済み
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