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ファクト ~真実~  作者: 華ノ月
第三章 愛を欲しがった悲しみの鳥

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3.

「はぁ……はぁ……はぁ……」


 どれぐらい走っただろうか……。茉理は息が絶え絶えになりながらしゃがみ込んだ。まだ、掌には淳子を刺した感覚が残っている。震えている掌を見ながら自分がとんでもないことをしてしまったんだということを肌で感じる。


「あ……あ……」


 茉理の口から声にならない声が出る。


(どうしよう……どうしよう……どうしたらいいの……?)


 茉理がそう心で呟く。


 あんなことをしたのだから、見つかれば警察に捕まる。そうなったら監獄の中だ。絶対に幸せにはなれない。絶望しか残されていない。でも、あんなことをしてしまって幸せになれるはずもない。


「誰か……助けてよ……」


 大粒の涙を流しながら誰かに助けを求めようとするが、誰も助けてはくれない。茉理が道端でしゃがみ込んでいても、その横を通り過ぎる人々は誰も声を掛けない。



『このまま死んでしまった方が楽なのかもしれない……』



 茉理の中でそんな気持ちが渦巻く。


 そして、何気にポケットに手を入れると何か固いものに当たり、そのものを取り出す。


(スマホと財布、ポケットに入れっぱなしだったな……。今日はどこかのホテルにでも泊まろう……。なんだかすごく眠たいし……)


 そして、茉理はどこか近場にホテルがないかを調べて一つのホテルに目星を付けると、そのホテルに足を運んだ。




「ふぅ……、サッパリした~♪」


 夕飯が終わり、お風呂を済ませると、奏は一息ついた。


「あっ!そろそろ時間だ!」


 奏はそう言葉を発すると、スマートフォンにイヤホンをして、相手からの電話を待つ。



 ――――トゥルル……トゥルル……。



 スマートフォンが誰かから着信が来たことを知らせるために鳴り響く。


「はい!奏です!」


 奏が嬉しそうに声を出す。


『奏、今日もお疲れ様。どう?仕事は慣れてきた?』


 電話は広斗からだった。電話で奏が最近の事を話す。


『DV……か……。確かに最近は増えてきているっていう話だよね……』


 広斗が奏から話を聞いてそう言葉を綴る。


「うん……。なんだか悲しいなって思って……。なんでそんな事になっちゃうのかなって考えてしまうんだよね……」


『そうだね……。人間の弱さから暴力をふるう人が後を絶たないよね……。なんとかしてその負の連鎖を断つことが出来ればいいけど、虐待やDVがある家族で育った場合って、愛し方が歪んじゃうのかもしれないね。愛し方が分からないって言うか……。どうやったらお互いが気持ちよく愛せるのかが分からないのかもしれないね……』


「そうなの……かな……」


 広斗の言葉に奏が悲しそうな声を出す。


 愛され方がそういう風にしか愛されなかった場合や、愛されずに育った場合は好きな人が出来てお付き合いして結婚しても、愛し方が分からないのかもしれない。


「なんだか悲しいね……」


 奏がポツリと呟く。


『そうだね……。まぁ、せっかくの電話なんだから楽しいことを話そうよ!奏は職場の人とは仲良くできているの?』


 広斗が話題を変えて話を振ってくる。


「うん。今日も透さんと紅蓮さんの三人で最寄り駅まで帰ったよ!」


『紅蓮さんって……例のあの人だよね?大丈夫?何かされてない?』


 広斗が心配してそう言葉を綴る。


「今日はなんかセカンドダーリンにしてくれとか言ってたよ」


『はい?』


 広斗がその言葉に変な声を出す。


『セカンドダーリン??え?え?どういうこと??』


 広斗がその言葉の意味がよく分からなくて混乱する。


『言葉だけでいくと、もう一人の彼氏にしてくれ……ってこと……なのか……?』


 広斗が冷や汗を流しながらそう言葉を綴る。


「あの……広斗さん。心配しなくても私が好きなのは広斗さんだけだよ?」


 奏がそう言葉を綴るが、広斗は心配になり過ぎて何も言葉が紡げないでいる。


「広斗さん?大丈夫?」


 奏が心配してそう声を掛ける。


『……奏、明日夜デートしよう……』


「いいの?!わーい!やったー!!」


 広斗の言葉に奏が無邪気に喜ぶ。そして、明日の夜デートは何処に行こうかとか話したりしながら電話を楽しんでいった。




「……あ……さ……?」


 カーテンから洩れる光に目を細めながら茉理がホテルのベッドの上でぼんやりと目を覚ます。


「うわ……」


 スマートフォンで時間を確認しようとして起動させると、敦成から何度も着信があったことが分かる。


(とりあえず……スルーしよ……)


 折り返しの電話をせずにそのまま放置する。また、電話がかかってきても嫌なのでスマートフォンの電源をオフにした。


「お腹……空いたな……」


 腹の虫が鳴り、ホテルのラウンジに行き、そこで簡単な朝食を食べる。考えてみれば昨日のお昼におにぎりを一つ食べたっきり、それからは何も食べていない。


(あれからどうなったんだろう……)


 ふと、淳子のことが頭をよぎる。


(助かったのかな……?それとも……)


 茉理の頭の中で「死」という言葉がよぎる。


 朝食を済ませて、ホテルの中にあるコンビニでメイク道具を買い、部屋に戻る。どのみち、この痣だらけの顔では外はまともに歩けない。部屋で一旦メイクを落として再度メイクをし直す。


「自分じゃないみたい……」


 鏡に映る、お化けのような鬱蒼とした顔を見てそう呟く。そして、コンビニで買った簡易的な鞄にメイク道具や財布、スマートフォンを入れて、部屋を出た。


「これからどうしようかな……」


 ホテルを出て、道を歩きながらそうぽつりと呟く。とりあえず、この町からは出ようと考え、駅に向かって足を進めた。




「おはようございます!」


 奏は元気よく特殊捜査室の扉を開いてあいさつをする。


「おはよう♪奏ちゃん♪一番乗りね♪」


 冴子が真っ先に声を上げる。


「おはようございます」


 そこへ、槙が部屋に入ってきた。その後ろを透と紅蓮がそれぞれ挨拶をして部屋に入ってくる。


「さて、みんな来たことだし、ちょっと行ってくるわね♪奏ちゃん、行くわよ~♪」


「あっ!はーい!」


 冴子の後ろに続いて、奏も部屋を出て行く。特殊捜査班は他の部署から依頼があって捜査をすることもあるが、大体は冴子が玄のところや本山のところに行き、何か手伝える仕事がないかと聞いて、一緒に捜査をするというのが殆どなので、今日も奏を連れて自分たちにも捜査できることが無いかを本山に聞くために本山の所属する捜査室に足を運んだ。



「こんにちは~♪」


 冴子が捜査一課の扉を開いてあいさつをする。


「またお前か……」


 冴子が来て、本山がそう言葉を吐く。


「やっほ~♪何かない?♪」


 冴子がいつもの調子でそう口を開く。


「なにもない……と言いたいところだが、ちょっと手伝って欲しい事件がある」


 いつもなら冴子が来ると怪訝な顔をする本山が今回は本山の方から「手伝って欲しい」と言われて冴子が呆気にとられる。


「珍しいわね。で、どんな事件なの?♪」


 冴子がニコニコ顔でそう言葉を綴る。


「……殺人未遂だ」


「え……?」


 本山の言葉に奏が声を上げる。


「事件は昨日の夜、マンションの一室で起こった。刺されたのは矢本やもと 淳子じゅんこ。刺したのは娘の岸田きしだ 茉理まつりだ。現場にいた娘の旦那の話では茉理は母親を刺した後、錯乱しながらマンションを飛び出して、今は行方知れず。まぁ、事件が発覚したのはマンションの隣の住人から通報があったからだ。本来なら茉理の顔を晒して捜査するところだが……」


 本山がそこまで言って神妙な顔をする。


「何かあったの?」


 冴子が表立って捜査が出来ないのではないかと思い、口を挟む。


「刺された母親が、この件で娘を逮捕しないで欲しいと言っているんだ……」


「それって……つまり……」


「あぁ、事件にはするなということさ……」


 本山の言葉に冴子が言葉を詰まらす。本来なら「殺人未遂」として捜査するのだが、被害者である淳子が事件にしないで欲しいと言っているので、表立って捜査は出来ない。淳子からは事件にはして欲しくないが、娘である茉理の行方は探して欲しいと言っているということだった。


「だから、今回は極秘捜査になる……」


 本山がそう言葉を締め括る。


「私たちは何をすればいいの?」


 冴子が本山にそう尋ねる。


「とりあえず、俺と杉原も茉理の行方は追うが、お前らの方でも追って欲しい。追う方法は任せるが、聞き込みは基本タブーだ。事件にはできないからな」


「……分かったわ」


 こうして、奏たちは今回も本山達と協力してその事件を追うことになった。




「……なんで電話が繋がらないんだよ?!」


 敦成がスマートフォンで何度も茉理に電話を掛けるが茉理の電話は「電源が入っていないか……」というアナウンスが流れるだけで、全く繋がらない。


「どこ行ったんだよ……茉理……。俺は……ただ……」


 敦成はそう言いながら呻き声を上げた。




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― 新着の感想 ―
うーん。敦成も自業自得とはいえ、なんだか追い詰められている感がありますので、この後、さらなる悲劇の上塗りがないか心配です。 華ノ月さん、ハラハラいたします~! 目が離せなくなりますね♪
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