13.
「えぇ、そんな話を聞いたことあるわよ?」
紅蓮の言葉に君島がそう答える。
紅蓮と槙は君島に話を聞くために、再度スーパーにやってきた。そして、裕二の事でこの前何を言いかけたのかを尋ねると、文代が裕二を異常に感じるので病院に連れていこうかどうか悩んでいたという話を聞いた。
「それはどういった状況でそう感じたんですか?」
槙が君島にそう尋ねる。
「まだ娘さんが中学生の時だったかしら?中学校の行事の関係で男の子が家に来た時があるみたいなんだけど、その時に息子さんがその男の子を罵倒して何かで叩き始めたとかって……。なんか、「お姉ちゃんは僕のだ!」って言って大変だったそうよ?その男の子が帰った後、その男の子の暴言を吐きながらぬいぐるみを何度も叩いてたって……」
君島の言葉に紅蓮と槙が愕然とする。
見方によってはその行動は姉が大好きな故の行動だが、異常と言えば異常かもしれない。裕二は瑠香の事を愛しすぎて、誰かに奪われるのをすごく恐れている感じも受け取れる。病弱故に殆ど学校も行けていないという話は聞いているので、狭い世界、狭い視野しか持っていないのかもしれない……。
「お話、ありがとうございます」
紅蓮が君島にお礼を言って二人はスーパーを後にした。
「はい♪コーヒー入ったわよ♪」
施設から特殊捜査室に戻ってきた奏に冴子がコーヒーの入ったカップを渡す。
「ありがとうございます」
奏がお礼を言って冴子からコーヒーを受け取る。透もコーヒーを受け取り、一息つく。
――――ガチャ……。
「戻りましたぁ~」
紅蓮が特殊捜査室に入るなり、そう声を上げる。
「おかえり。紅蓮、槙。そっちはどうだった?」
冴子がそう尋ねる。
「ん~……、収穫はあったようななかったような……」
「なんだよそれ」
紅蓮の言葉に透がそう言葉を発する。
「まあ、話は聞いてきたよ」
紅蓮がそう言って、君島が話していたことを話す。
「……裕二君が異常……ですか?」
紅蓮の話に奏がそう声を発する。
「あぁ、話によると母親である文代さんは裕二君を病院に連れていった方が良いのかも考えていたみたいだ」
槙が淡々とそう言葉を綴る。
「けど、それは今回の事件には関係ないんじゃないかしら?」
話を聞いた冴子がそう言葉を綴る。
「まぁ、確かにそうだな。それはまた別の問題というだけで、事件には直接かかわりは無いだろう」
透も同意らしくそう言葉を綴る。
「……恐らく、裕二君は瑠香ちゃんの事が大好きなだけでだと思いますよ?」
奏がそう言って、裕二が描いた絵の事を話す。
そして、裕二は瑠香が大好きなだけという結論になり、事件とは関係ないだろうという事になった。
――――トゥルル……トゥルル……。
そこへ、奏のスマートフォンが鳴り響いた。
「外の風って気持ちいいね!」
裕二が風を受けながらそう言葉を綴る。
瑠香と裕二は施設にあるベンチに腰掛けてぼんやりと庭を眺めていた。瑠香の膝の上にはノートとペンが置かれている。奏の言葉を聞いてから瑠香は吐き出したい言葉をノートに書いてみるという事をしていた。裕二に「何を書いているの?」と、言われた時、瑠香は「ちょっとしたお話だよ」と答えた。すると、裕二もやりたいと言って静木から何枚か画用紙を貰い、イラスト付きの物語を書いているという。そして、ちょっと休憩しようかという事になり、このベンチにやってきた。
「お姉ちゃん!お話を書くって楽しいね!」
裕二が嬉しそうにそう言葉を綴る。
「そうだね」
瑠香が微笑みながらそう答える。
ベンチに座って風を浴びていると、施設の職員が手にシャベルを持って庭にやってくる。その光景を眺めていると、どうやら家庭菜園の広さを拡大するためだろうか?シャベルで器用に溝を作っていく。すると、一人の職員があることをした。
「あ……」
その光景に瑠香が小さく声を上げる。
「そろそろ部屋に戻ろうか?」
瑠香がベンチから腰を上げて裕二にそう声を掛ける。そして、瑠香と裕二は部屋に戻っていった。
「よし!続きを書くぞ!」
部屋に戻ってきた裕二が元気よく声を出す。
「お姉ちゃん!出来上がったら読んでね!それまでは見ちゃだめだよ?」
「うん。裕二の描いた物語、楽しみにしているね」
裕二の言葉に瑠香が優しい声でそう言葉を綴る。
そして、自分もノートに文章を綴っていった。
この行動があんなことになるとは予想できずに……。