11.
「……いつ頃だったかしら?凄い怖い顔をして「殺してやりたい!」って言っていましたよ?」
文代が働いていたスーパーの店員で文代と仲が良かったという君島という女性がそう答える。
喫茶店を出た後、紅蓮と槙は文代の勤め先であるスーパーに足を運び、文代と仲が良かった君島を呼んでもらい、元樹と文代の間で何かなかったかを聞いた。
「それは、文代さんがどう言った経緯でそう言葉を発したのかご存じですか?」
紅蓮が君島にそう問いかける。
「なんか、実験?とかいうのにあの子をそんな目に遭わせて……みたいな事を言っていましたよ?」
「あの子……?」
君島の言葉に槙がその言葉を聞き返す。
「娘さんだったかしら?確か、娘さんを実験体に……みたいなことを話していたはずです」
君島の言葉に紅蓮と槙が驚きの表情を見せる。
「文代さんではなく、娘さん……ですか?」
「えぇ、文代さんが「自分では駄目なのか?」みたいな事を言ったら、ご主人に「若い方が感度は良い」って言われたとかで聞き入れてもらえなかったって……」
槙の言葉に君島がそう答える。
もし、それが本当だとしたら文代には元樹を殺す動機がある。それと同時に瑠香にも動機があるという事になる。
「それで、娘さんが精神的に病んだような感じになってそれを見た息子さんも凄く心配していたって……。それで、いつだったか息子さんがご主人の事を罵倒していたって言う話も聞いたことがあるわ。息子さんはお姉ちゃんにべったりだから心配だっていう事も話していたことあったし……。それに……」
君島が何かを話そうとした時だった。
「……君島さーん!そろそろ戻ってくれるー!」
そこへ、同じスーパーで働く店員が君島にそう声を掛けたので、紅蓮と槙はお礼を言ってその場を離れた。
「……と、いう事だったんだ」
紅蓮が話し終わり、そう締め括る。
「娘の瑠香がそういう事をされていたんじゃないかというのはこっちでも予想していたが、息子の裕二まで恨んでいるとなると、場合によっては文代と瑠香と裕二が協力して元樹を殺した可能性も浮かび上がってくるな……」
「あぁ……」
透の言葉に紅蓮が返事をする。
「ただ、それだけではなく、裕二って子には何かありそうな感じの言い方をしていた」
槙がそう言葉を綴る。
「だが一つ疑問がある」
透がそう言葉を発する。
「現場写真を見たが、女性や子供にあれだけ深く刺すのは難しい……。とてもじゃないが、この三人に犯行は無理なものがある」
「じゃあ、誰か協力者がいるかもしれないという事か?」
透の言葉に紅蓮がそう答える。
「分からない……。もしかしたら、何かを見落としているかもしれない……」
透が神妙な顔をしながらそう言葉を綴る。
「とりあえず、もう一度君島さんに話を聞いてみよう」
紅蓮の言葉で後日、改めて君島に話を聞くこととなった。
『……かなり煮詰まっているみたいだね』
広斗が電話越しでそう声を掛ける。
家に帰ってから奏は夕飯等を済ませると、広斗に電話が出来ないかどうかのメッセージを送った。そしたら、「今なら大丈夫」というメッセージが返ってきて奏は広斗に電話をして、今回の事を話した。
「うぅ……。さっぱり犯人の見当がつかないよ……」
奏がちょっと落ち込みながらそう言葉を綴る。
『まぁ、一度事件の事を考えないことだね。何か違う事をしていたら、頭がリセットされて事件の真相が分かるかもしれないよ?』
「そうかな……」
『話変えようか。実はこの前、海外に行った時に馬車に揺られてね……』
広斗がそう言いながら、この前仕事の関係で行った海外の話を始める。
『……で、気付いたら馬車の中で寝てしまっていたみたいで、そのまま放置されちゃったよ』
「そんなことあったの?」
『のんびりとしたところだったからね。人も穏やかだったよ』
奏が広斗の話をワクワクとしながら聞く。
穏やかな時間が流れる。事件の事を頭から切り離し、広斗の話に耳を傾けていた。
「いや~、瑠香ちゃんはしっかりしたお姉ちゃんだね」
施設にあるお風呂場に古賀と裕二が湯船につかりながら古賀がそう声を発する。
「それだけじゃないよ!お姉ちゃんは世界中の誰よりの一番可愛くて綺麗なんだよ!」
裕二が満面の笑顔でそう言葉を綴る。
「ははっ!裕二君にとって瑠香ちゃんはお姫様なのかな?」
古賀が笑いながらそう言葉を綴る。
「うん!僕がおっきくなったらお姉ちゃんをお嫁さんに貰うんだ!」
「そうかそうか!じゃあ、沢山食べて強くならないとな!」
裕二の言葉に古賀が笑いながらそう言葉を綴る。
「よし!裕二君!身体洗ってやるぞ!」
「うん!」
古賀の言葉に裕二が元気よく返事をして湯船を出る。そして、お風呂用の椅子に座り古賀に背中を洗ってもらう。
「綺麗に洗ってやるからな!」
古賀がそう言って身体を綺麗に洗っている時だった。
「……あれ?これはどうしたんだ?」
古賀が右足の裏にある痣のようなものを見つけてそう声を出す。
「痣?」
裕二がその言葉にはてなマークを浮かべる。
「怪我しているのか?」
古賀がその痣を見て心配そうに声を掛ける。
「でも、全然痛くないよ?だから大丈夫!」
裕二が笑いながらそう言葉を綴る。
「もし、どこか怪我したらすぐに言うんだぞ?」
「はーい!」
そして、裕二の体を洗い終わると、二人は風呂場から出て裕二は部屋に戻っていく。
「おかえり、裕二。さっぱりした?」
部屋に戻ると、瑠香が裕二にそう声を掛ける。
「うん!」
裕二が元気よく返事をする。
「じゃあ、薬飲んで寝ようか?」
瑠香がそう言って裕二に薬を渡す。そして、裕二は薬を飲み終わるとベッドに潜り込んだ。
「……ねぇ、お姉ちゃん。また、子守唄歌って?」
裕二がそう言って瑠香におねだりをする。
瑠香は裕二の頭を撫でながら子守唄を歌い始める。
優しい歌声……。
弟を慈しむように優しく歌う……。
しばらくして、寝息が聞こえてきたので瑠香は歌うのをやめた。
「お姉……ちゃん……大好き……」
寝言だろうか?裕二が幸せそうな顔をしながらそう言葉を呟く。
「うぅ……うぅ……」
裕二の寝顔を見ながら瑠香が声を押し殺しながら涙を流す。
「裕二……」
瑠香がそう呟く……。
どうしたらいいのか……?
これからどうすればいいのか……?
道筋が見えない闇の中……。
涙を流しながら必死で考える……。
(答えなんか出るわけないんだ……)
瑠香は心の中でそう呟いた。
「……ということは、やはり瑠香ちゃんは父親である元樹さんに実験と言って何かをしていたことは明白なのですね?」
奏がそう言葉を綴る。
次の日、特殊捜査室にみんながやって来てから、透が昨日のバーで紅蓮と槙の三人で話していたことを奏に話した。
「裕二君に関しては姉である瑠香ちゃんが大好きというだけだと思うわ。そこは特に重要視しなくていいと思うけど?」
冴子がそう言葉を綴る。
「まぁ、俺と槙でとりあえず話は聞きに行ってみるよ。何かヒントが掴めるかもしれないからな」
紅蓮がそう言葉を綴る。
その時だった。
――――トゥルル……トゥルル……。
スマートフォンが鳴り響き、誰かから電話がかかってきた事を告げた。
「……話がしたい?」