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ファクト ~真実~  作者: 華ノ月
第六章 飛べない鳥は深い穴に落ちる
110/252

10.


「どうした?」


 奏の発した声に透がそう声を掛ける。


「もし、文代さんが元樹さんを殺したのだとしたらこれはちょっと違和感がありませんか?」


 奏がそう言って、写真に写っている元樹の遺体のある部分に指をあてて透に見せる。


「……確かにそうだな」


 透がその写真を見てそう言葉を綴る。


「文代さんは女性で、写真を見る限りでもそんなに力は強くないと思います。ですが、この刺された写真は……」


「……あぁ、かなり深く刺されている。非力な女性でここまでは深く刺せない……ということだろ?」


「はい……」


 奏の言葉を透が補足する。


 確かに元樹の遺体に刺さっている包丁はかなり深く刺さっている。こんなに深く刺すには力がかなりいるはずだ。並の女性ではこんなに深くはさせないだろう……。


「……となると、元樹を殺したのは文代ではなく別の人間という事になるな……」


 透がそう言葉を綴る。


 じゃあ、犯人は誰なのか?


 やはり、強盗の仕業なのか……?


「一旦、休憩だ」


 透がそう言って、部屋に設置されているコーヒーメーカーでコーヒーを作る。


「……そういえば、冴子さんは何処に行ったのでしょうか?」


 いつもならいるはずの冴子がいないことに気付き、奏がそう声を出す。


「あぁ、なんか本山さんのところに行ってくるって言ってたよ」


 透がそう言いながら奏にコーヒーの入ったカップを渡した。




「……本山さんも署長から聞いたのね」


「あぁ……」


 警察署の屋上にあるベンチに二人で並んで座り、缶コーヒーを飲みながら冴子がそう言葉を綴る。


「本当なのかしら……?」


「まぁ、署長がそう言うから間違いないんだろうな……」


 冴子の言葉に本山がそう答える。


「なんだか、信じられない話ね……」


 冴子がそう言葉を発する。その言葉に本山は何も言わない。


「それでも、私は今まで通り奏ちゃんと接するわ……。それが真実だとしても、奏ちゃんは奏ちゃんよ……」


「……そうだな」


 冴子の言葉に本山がそう答える。


「……そろそろ戻るわね」


 冴子がそう言って席を立ち、屋上を後にした。




「お姉ちゃん!これ見て!!」


 裕二がそう言って、瑠香に一枚の紙を見せる。そこには花を持っているお姫様が剣を持っている勇者が化け物からお姫様を守ろうとしているようなそんな絵が描かれていた。


「僕、病気治していつかこの絵の勇者のようにお姉ちゃんを守れるような男になるからね!」


 裕二が満面の笑顔でそう言葉を綴る。


「裕二……」


 瑠香が裕二を抱き締める。


「ありがとう……裕二……ありがとう……」


 瑠香の瞳からポロポロと涙が流れ落ちる。


(裕二には私しかいない……。私が裕二を守らなきゃ……)


 瑠香がそう心で呟く。



 ――――コンコンコン……ガチャ……。



「瑠香ちゃん、裕二君、夕飯が出来たわよ」


 静木が部屋に入って来てそう言葉を綴る。


「あ……はい……」


 瑠香が慌てて涙を拭う。


「今日は唐揚げですって!」


「ホント?!わーい!!」


 静木の言葉に裕二が両手を挙げて喜ぶ。


「お姉ちゃん!早く行こうよ!!」


 裕二がはしゃぎながらそう言って瑠香の腕を引っ張って食堂に向かった。




「……一体誰が犯人なのでしょうか……?」


 奏が写真とにらめっこしながらそう言葉を綴る。


 奏が見ているのはこの事件の関係者が一人一人映っている写真だった。瑠香と裕二、セクハラをされたと言っている沙苗、元樹の会社の上司である後藤、同じ会社の同僚である加賀……。しかし、特に怪しいと思われる人物がいない。瑠香と裕二はまだ子供なので、あんなに深く包丁を刺すことはできないだろう。怪しいのは沙苗だが、調べたところその時間はアリバイがあることが分かっている。それは、後藤や加賀も同様だった。


「謎です……謎なのです……」


 見当もつかない犯人に奏が頭を抱えながらそう言葉を呟く。


「……とりあえず、今日のところはもう上がったらどうかしら?」


 冴子が奏にそう声を掛ける。


 その言葉に奏は甘えて今日のところは上がることにした。今日は紅蓮と槙は外での捜査が終わり次第から直帰するという事になっているので、透と二人で駅までの道を歩く。


「はぁ~……。一体誰が真犯人なのでしょうか……?」


 奏が透と帰り道を歩きながらそうため息を吐く。


「全く真犯人の予想が付きません……」


 奏がそう言いながらまた頭を抱える。


「焦っても仕方ないだろ。帰って一度リセットすることだな」


 透がそう言葉を綴る。



 ――――ガガガがガッッ!!!



 帰り道を歩いていると、途中の道で工事を行っている。


「おいおい、そんなやり方ありかよ」

「だって、こっちの方が力入るからな!」

「そうだけどよぉ~、これ使えばいいんじゃないか?」

「これくらいならこれで十分だよ」


 工事の作業員の男たちが話している言葉が聞こえてきて奏が何気にその方向に顔を向ける。


「どうした?」


 透がそれに気付き、声を掛ける。


「……いえ」


 奏が我に返り、そう言葉を発する。


「とりあえず、今日のところはゆっくり休め。捜査はまだ続くんだからな」


「はい」


 透の言葉に奏がそう返事をする。



 ――――ピコンッ!


 そこへ、透のスマートフォンが鳴り響き、メッセージが来たことを伝える音が鳴る。透はメッセージを確認すると、「分かった」という返事を送る。


 やがて、駅に着くと奏が電車に乗り込んだ。


「じゃあ、気を付けて帰れよ」


「はい、お疲れさまでした」


 透の言葉に奏がそう言葉を綴る。


 奏が電車に乗ったのを見届けると、透はある場所に足を運んだ。




「……よう、待ちかねたぜ?」


 紅蓮がハイボールを飲みながらそう言葉を発する。


「珍しく、槙もいるんだな」


 紅蓮からメッセージを貰い、透がバーにやってくる。その場には槙もいる。槙はジントニックを飲みながらどこか不愉快な表情をしていた。


「……なんで、仕事時間外に仕事をしなきゃならないんだ?」


 槙が不満を口にする。


「何言っているんだよ?!いつだったかの事件で奏ちゃんが冴子さんと休みの日に事件を追っていてそれを見かけて仕事していたことあっただろ?!」


「あれはたまたまだ。偶然その場面に出くわしたから捜査しただけだ」


 紅蓮の言葉に槙がそう反発する。


「あの時、お前俺にも電話して捜査しろって言ったじゃねぇか?!その恨みは忘れないからな!!」

「恨んでいたのか?」

「せっかくの休みだぜ?!いい女捕まえようと思っていたのに俺をおまえの呼び出しのせいでチャラになったんだからな?!」

「ほう……。その時の紅蓮の心境を奏に言ったら奏はどう思うかな?」


 槙が目をキラーンと光らせながらそう言葉を綴る。


「なっ?!てめぇ!脅しとは卑怯だぞ!!」


 紅蓮が喚きながらそう言葉を吐く。


「……それより、俺を呼び出したってことは何かあるんだろ?」


 透が注文したハイボールを片手にそう言葉を綴る。


「あ?あぁ……、実はな……」


 紅蓮がそう言って、文代が勤めていたスーパーで聞いてきた話を始めた。



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