8.
「警察?」
部屋にやってきた母親の言葉に明美が頭にはてなマークを浮かべる。
「なんでも、瑠香ちゃんの事を聞きたいとかで……」
母親の言葉に「なんだろう?」と感じながら、リビングに待たせてあるというので、会う事にした。
「こんにちは。水無月と言います」
「結城です」
リビングにやって来た明美に奏と透がそれぞれ挨拶をする。
「こ……こんにちは……」
警察が来たというのでどんな屈強な顔をしているのだろうと思ったのだが、奏の柔らかな雰囲気、透の知的でイケメンに値する顔立ちに拍子抜けしてしまう。
「突然お伺いして申し訳ありません……。ちょっと、瑠香ちゃんの事でお話が聞きたかったので尋ねてきました」
奏が申し訳ない表情で丁寧に言葉を綴る。
「あ……はい……」
(……警察の人……なんだよね??)
明美が返事をした後、心でそう呟く。
奏の服装からして警察官だと言われてもいまいちピンと来ない。ロングのワンピースに醸し出している雰囲気はどちらかと言えば保育士にいそうな雰囲気だ。透はスーツを着ていることからまだ警察官だと言われても納得がいくが、どちらかと言うと、「モデルをしています」と言われた方がしっくりくる雰囲気を醸し出している。
「あの……」
明美がそう言葉を発する。
「何ですか?」
奏が笑顔で返事をする。
「警察の人……なんですよね?」
「そうですよ。どうしてですか?」
明美の言葉に奏がそう答える。
「警察官って言う感じがしないからです」
明美がそうきっぱりと言葉を言い放つ。
「えーっと……。これが証明です……」
奏がそう言って、警察手帳を見せる。透も念のため、ポケットから警察手帳を見せた。
「すみません……。よくそう言われますが、ちゃんと警察官です……」
奏が心で半分泣きそうになりながらそう答える。
「ところで、本題に入りますが、松井瑠香さんのご友人で間違いないですか?」
透の言葉に明美がコクンと頷く。
「瑠香ちゃんの事で、何か気になっていることはありませんか?何か相談をされたとか、何か辛い目に遭っているとか……。どんなことでもいいので何か気になる事があれば話して頂けないでしょうか?」
奏の言葉に明美がしばらく考える。
そして、奏たちが来る直前まで考えていた事を話しする。
「……じゃあ、何故瑠香ちゃんが次の日にそんな顔をしていたのは分からないという事ですね?」
「はい……」
奏の言葉に明美がそう返事をする。
あの時、もっと親身になって話を聞いてあげればよかったかもしれない……。
明美の中で後悔が渦巻く。
「他に何か気付いたことはありませんか?」
「他に……ですか?」
奏の問いに明美が他に何かあるかを考える。
「男の人……かな?」
明美がポツリと呟く。
「男の人?」
奏がそう聞き返す。
「はい。瑠香ちゃん、ちょっと年配の男の人が苦手でした。その……、最初からと言うわけではないのですが……」
「それはどれくらいの時期からか分かりますか?」
明美の言葉に奏がそう尋ねる。
「えっと……、時期って聞かれるとあやふやなんですけど、さっき話した「家に帰りたくないのかな?」っていう頃の少し前くらいから……だったような気はします」
明美がそう答える。
「少し話を変えますが、瑠香ちゃんからお父さんの話は聞いたことはありませんか?」
奏の言葉に明美がまた考える。
「特には……。あ……でもいつだったかな?瑠香ちゃんのお母さんが再婚しているから父親は義理の父親だと聞いたことがあって、私が「仲良いの?」って聞いたら瑠香ちゃんは「お父さんとは仲良くなれない」って言っていたことがあります」
明美の言葉に奏が不信感を持つ。
『お父さんとは仲良くしたくない』という言い方ではなく、『お父さんとは仲良くなれない』という言葉を言っている……。
その言葉を深く読むと、瑠香は最初、『元樹と仲良くしようとしていた』という事が感じ取れる言葉にならないだろうか……?そうなると、何かがあって仲良くしようと思ったけど、仲良くなれないと感じる出来事があったという事にもならないだろうか……?仲良くしたかったけど、仲良くできない理由が何かあるはずだ。
もしかしたら、ちょっと年配の男の人が怖いというのも、父親である元樹が関係しているのではないかという事が浮かび上がってくる。
瑠香と元樹の間で一体何があったのか?
父親である元樹と何かが起こり、瑠香は少し年配の男性を怖がるようになったのではないか?
何があったかを調べるにしても、瑠香に直接聞くことはできない。そんな事を聞いたら瑠香はまた発作のようなものを引き起こすかもしれない。
「お話ありがとうございました」
奏がそう言って透と共にその家を後にする。
「……どう思う?」
明美の家を出て車に乗り込むと、透がそう口を開く。
「父親である元樹さんとは何かあった可能性は高いですね……」
奏がそう答える。
「……裕二君なら何か知っているかもしれません」
奏がそう言葉を綴り、「静木さんに電話してみます」と言って静木に電話を掛ける。そして、静木から裕二と面会する許可を貰い、今の時間なら可能だという事で施設に向かう事になった。
「裕二君、ちょっといいかしら?」
施設の中にある談話室で遊んでいる裕二に静木が声を掛ける。
「何?」
裕二が静木の言葉にはてなマークを浮かべる。
「ちょっと、裕二君と話をしたいという人が来ているのだけど、私も一緒にいるから少し話をしてくれないかしら?」
静木の言葉に裕二が「分かった」と言ったので、静木が裕二を面会室に連れていく。瑠香は部屋で勉強しているので、奏と透が来たことは黙っておく。
「ここが面会室よ。裕二君は初めて入るわね」
静木がそう言って面会室のドアを開ける。
「こんにちは、裕二君」
面会室に入ってきた裕二に奏がそう声を掛ける。
「あれ?お姉さん確かあの時の……」
裕二が事件の時に来ていた人だと思い、そう言葉を発する。
「ちょっと、裕二君に聞きたいことがあるのだけど……」
奏はそう言って裕二に話を始めた。