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ファクト ~真実~  作者: 華ノ月
第六章 飛べない鳥は深い穴に落ちる
106/252

6.


「……瑠香ちゃん、大丈夫ですか?」


 奏が優しい声で瑠香にそう話しかける。


 施設にある面会室で奏が瑠香と対面に座っている。瑠香の横には静木も控えていた。


 静木からの電話の内容は昨日の夜に施設の職員である古賀が瑠香に声を掛けて肩に触れたら、叫び声をあげて震えだしたという事だった。


「ご迷惑おかけしてすみません……」


 瑠香が頭を下げながらそう言葉を綴る。


「すみません……水無月さん……。瑠香ちゃんが水無月さんとお話がしたいという事だったので……」


 静木がそう言葉を綴る。


「瑠香ちゃんは男の人が怖いの?」


 奏が優しくそう問いかける。


「私は……私……は……」


 瑠香がそう言葉を発しながら涙を溜める。その言葉の続きを言うのが怖いのか、それ以上は話さない……。いや、話せないのだろう……。


 瑠香の表情からは、悲しみや脅え、恐怖が感じ取れる。


「無理に話す必要は無いですよ……。今話すのが無理でしたらまた今度でも構いません」


 奏が微笑みながらそう言葉を綴る。


「……ちょっと気分を変えるのに今日は別の話をしましょうか?」


 奏がそう提案して、他愛無い話をすることになった。


 瑠香の好きなアーティストの話、裕二の好きな食べ物の話、学校での友達の話……。


 そんな他愛無い会話をしていく。次第に瑠香も落ち着いてきたのか少し笑顔を見せる場面も出てくる。


 亡くなった母親が作るご飯の話をしている時は嬉しそうに話をしている。その表情を見て本当に母親の事が大好きだったという事が分かる。


「……それでね、お母さんの作った肉じゃがを私にも作り方を教えてって言ったら丁寧に教えてくれたんだよ!後、うちのカレーはちょっとひと手間加えて作るから裕二が美味しい美味しいって言ってその時はご飯を沢山食べるの!私がカレーを作った時は「お母さんのより美味しい!」って言ってくれてお代わりまでしたくらいなんだ!そしたら、この間、裕二がまた私が作ったカレーが食べたいから作ってねって言って……て……」


 瑠香がそこまで話して身に涙を溜める。


 また作れる日が来ればいい……。


 でも、もう作ってあげることが出来ないかもしれない……。


「……これからどうなっちゃうんかな……」


 瑠香が溢れ出てくる涙をこらえながらそう言葉を発する。


「瑠香ちゃん……」


 奏が心配そうに声を掛ける。でも、それ以上は言葉が綴れない……。曖昧な返事や変な希望を持たせるような言葉を言っても空回りな気がする……。


 瑠香と裕二は頼れる親戚がいないという話は静木から聞いている。これからどうなるのか……。どう言っていいか分からずに奏が何も言葉を発せない。


「瑠香ちゃん、今日はそろそろ部屋に戻りましょうか……。沢山お話して疲れたでしょうし、少し休むといいわ……」


 静木の言葉に瑠香が頷いて、静木と共に面会室を出て行く。


「……あの」


 そこへ、静木が戻ってくるのを待っている奏に一人の男が声を掛けてきた。


「ここの職員の古賀と言います」


「はじめまして、水無月と言います」


 声を掛けてきた古賀に奏が会釈をする。


「瑠香ちゃん、大丈夫でしたか……?私の軽はずみな行動でこんな事になってしまって申し訳ないです……」


 古賀がそう言って奏に詫びる。


「気になさらないでください。きっと、「何か」があるのは確実だと思います。私からも一つお聞きしてよろしいですか?」


「なんですか?」


 奏の言葉に古賀がそう返事をする。


「この施設には他にも男性の方がいらっしゃいますよね?他の男性の方とは瑠香ちゃん、どうなのですか?」


「そうですね……。男でもまだ若い職員とはたまに話しているのを見たことありますよ?特に怖がっている様子もないですし……。あ……、でも、自分くらいの年齢の男と話す場面は見たことないですね……」


 古賀の説明に奏は何かを考える。



 男が全員苦手ではないということ……。


 女とは普通に喋ることが出来ていること……。


 男でも少し年配だと怖がるという事実……。



 奏が頭の中でそのピースがどう繋がっているのかを必死で考える。


「もしかしたら……」


 奏の中で一つの仮説を立てる。でも、証拠がない……。


(まさかとは思うけど……)


 奏が仮説を元に頭の中で推理する。


 でも、この考えはハズレであって欲しい……。


「お待たせしてすみません」


 そこへ、静木が面会室に戻ってくる。瑠香とは後日にまた面談と言う話になり、奏はその場を後にした。




「……えぇ、確かに製品の確認の為に女性の方にも被験者になって貰っていました」


 元樹の上司に当たる後藤に「女性がそう言った事の実験体になっていたのか」という問いに対してそう返事が返ってくる。


 奏が行った後、透と紅蓮、そして槙の三人はもう一度元樹の勤めていた会社に訪れた。そして、沙苗から聞いた話を沙苗の名前を出さずにそういう事があったのかを尋ねる。そしたらやはりそれは事実らしく、元樹からそういった機器で男性だけでは判断できないので女性も被験者にして欲しいという申し出があり、会社も許可したと言う。


「……ちなみに、そういった事で何かトラブルになったことはありませんか?例えば、被験者になった女性の方がセクハラをされたとかいうような……」


 透がさり気に後藤にそう尋ねる。


「う~ん……。特には無いですね……。まぁ、人によっては女性の場合、やらしい目で見たとかいうだけでセクハラだって言う人もいるかもしれませんが、それだけで事を荒立てられても困りますし……」


 後藤が困ったようにそう言葉を綴る。


「じゃあ、そういったトラブルは無いという事ですね?」


 透が念を押すようにそう言葉を掛ける。


「はい」


 後藤がそう返事したので、これ以上はこの件で聞き出すのは無理だと思い、透たちはその場を後にする。


「……あの向井って人がことを大きく言っただけなんじゃないのか?」


 会社を出て、車に乗り込むと槙がそう口を開く。


「まぁ、なんにせよ、会社では特に恨みを買っている人はいなさそうだな……」


 紅蓮がそう言葉を綴る。


「という事は、別方面で捜査をしなきゃいけないという事だな……。俺たちも別の方向から元樹の過去を探ってみるか……」


 透が車を走らせながらそう言葉を綴った。




「……特に怪しい点はありませんね」


 本山の率いる捜査室で杉原がそう言葉を発する。


 元樹と文代が出会った経緯を調べてみたが、特に怪しい点は見つからなかった。出会ったのは婚活パーティーで、そこを主催している人の話では文代の方が元樹を気に入り、付き合うようになり結婚したと言う。文代は子連れだったが元樹も構わないという事で結婚まで問題なくスムーズに話が進んだと主催の人が教えてくれた。なので、殺されたと聞いたときは驚きを隠せなかったという事だった。


「ただ、一つ気になるとすれば水無月が施設の職員から聞いた話だな……。少し年配の男性が怖いとなると、その根本は義理の父親である元樹も含まれるかもしれない」


「そうですね……。その可能性はありますね……」


 本山の言葉に杉原も同意する。


「だからと言って、瑠香ちゃんに話を聞くのは難しいみたいですし、どうやって調べますか?」


 奏の報告を受けて瑠香に話を聞くのは無理だと感じ、杉原がそう言葉を綴る。


「……瑠香の交友関係を調べてみるか」


 本山がそう口を開き、二人は瑠香の交友関係を洗った。




「う……うぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」





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