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ファクト ~真実~  作者: 華ノ月
第六章 飛べない鳥は深い穴に落ちる
104/252

4.


「何か?」


 突然声を掛けてきた女性に透がそう口を開く。

 

 女性はまだ二十代くらいだろうか?来ている制服で元樹が勤めていた会社の人間だという事が分かる。


「その……、すみません……。急に呼び止めて……。松井さんの事でちょっとお話ししたいことがあるんですが……」


 女性の切羽詰まった様子を見て、何かあると感じ、女性に話を聞くことにした。




「……ん……」


 瑠香がベッドの上でぼんやりと目を覚ます。


「私……」


 何があったのか思い出せなくて瑠香が記憶を辿る。


「……っ、そうだ……!」


 瑠香が思い出してベッドから飛び起きる。


「……うぅ……どうしたら……いいの……?」


 涙を流しながらそう言葉を呟き、掛け布団に涙が零れ落ちる。



 ――――ガチャ……。



「目が覚めた?大丈夫?」


 そこへ、静木が部屋に入ってきた。


「すみません……」


「謝る事はないわ。あんな辛いことを話せって言われても苦しいわよね……」


 謝る瑠香に静木が優しくそう言葉を掛ける。


「また話を聞きに来ると言っていたけど、無理だったら断っても良いのよ?無理する必要は無いわ……」


「……はい」


 静木の言葉に瑠香がそう返事をする。


「夕飯食べれそう?裕二君は先に食堂に来ているわよ?」


 静木の言葉に瑠香が「分かりました」と言って一緒に食堂に向かう。


 食堂に着くと、瑠香がやってきた事に気付いた裕二がこちらに駆けてきた。


「お姉ちゃん!大丈夫?!」


 裕二がそう言って瑠香に抱き付く。


「大丈夫だよ。ごめんね、心配かけて……」


 瑠香がそう言って裕二の頭を撫でる。


「裕二、ご飯食べれそう?」


「うん!頑張って食べるよ!今日のメインはカレーライスだって!」


 裕二が嬉しそうにそう言葉を綴る。


「そっか……。裕二、カレーライス大好きだもんね」


「うん!」


 瑠香の言葉に裕二が嬉しそうに返事する。


「またお姉ちゃんのカレーライスも食べたいから、今度作ってね!」


「裕二……」


 裕二の言葉に瑠香が涙ぐむ。



 そんな日が来るのか……?


 それとも……。



「……そうだね。また、作るね!」


 瑠香が裕二を心配させないように笑顔でそう言葉を綴る。


 そして、姉弟並んでテーブルに座り、カレーライスを食べていった。




「……はぁ~……」


 奏がデスクの上に頭を乗せてため息を吐く。


「どうしたの?奏ちゃん」


 冴子が奏を見てそう声を掛ける。


「酷いことをしてしまいました……」


「酷いこと?」


 奏の言葉に冴子が頭にはてなマークを浮かべる。


「はい……。事件の件で話を聞こうとしたら、瑠香ちゃん、倒れてしまったんです……。思い出すのは酷だという事を分かっていたのに、事件解決の為とはいえ、酷いことをしてしまったなと思いまして……」


 奏が辛そうな表情でそう言葉を綴る。


「成程ね……。それで傷つけてしまったと感じて落ち込んでいるわけね」


「はい……」


 冴子の言葉に奏がそう返事をする。


「それでも、事件を解決しなきゃいけないのが私たちの仕事よ?情にほだされるのはあまり良くないわ。まっ!前向きに考えることね!」


 冴子がそう言葉を綴って奏を元気付けようとする。奏もその言葉に「はい」と素直に返事をした。


(……本当に優しい子よね。でも、ああいうことがあったのよね……?)


 冴子がこの前料亭に行った時に聞いた署長の話を思い出す。


(……あの話が本当かにわかに信じられないけど、事実なのよね……?)


 冴子はそう心で呟くと、署長から貰った資料に目を通した。




「……セクハラのようなことをされた?」


「はい……」


 透たちに声を掛けた女性、向井むかい 沙苗さなえが話した内容に紅蓮がそう言葉を発する。


「松井さん、これは必要な実験だからと言って水着のような服を着せられて開発した製品の人体実験を私に施していたんです……。その時に、電流がきちんと通るかを確認するために体にパッチのようなものを張り付けるのですが、その時に胸とかお尻に触れられたりしたんです……」


 沙苗が悲痛な表情でそう言葉を綴る。


 松井の勤める会社は医療関係の器具を開発するところだから、時にはそういう事も必要になるのだろう。だが、話を聞いている限りではそれは一歩間違えればセクハラ行為になる。製品の確認の為の実験とはいえ、それなら普通は男性を使うのではないだろうか?と言う疑問も出てくる。だが、どうやら沙苗の話によると「男性と女性では違いが出るかもしれないから」と言う理由で沙苗を被験者にしていたらしい。


「ちなみにその事は上司か誰かには相談したの?」


「相談したのですが……、松井さんの発想で開発した機器がいくつかあるし、「それはわざとではないのではないか?」と言われてしまって、まともに取り合ってくれなかったんです……」


 透の言葉に沙苗が辛そうな顔でそう言葉を綴る。


「……その件に関しては、こちらとしては取り扱うのに難しいものがあるので良かったらそういう事を相談できる機関を紹介しますから、良かったらこちらに連絡してみて下さい」


 透がそう言って、一枚のカードを差し出す。カードには「誰にも言えない女性特有の悩みを聞きます」と書かれており、電話番号も記載されている。


「ありがとうございます……」


 沙苗はお礼を言ってそのカードを受け取ると、職場に戻っていく。そして、透たちも署に戻る事にしてその場を離れていった。




「……お腹いっぱい食べて眠くなってきた?」


 瑠香と裕二は夕飯を済ませると部屋に戻った。裕二は大好きなカレーが沢山食べることが出来てお腹が一杯になったのかウトウトしている。


「薬飲んで寝るといいよ……」


「うん……」


 裕二は返事をすると、いつも寝る前に飲んでいる薬を飲み、ベッドに横になる。


「……お姉ちゃん」


 ベッドに横になった裕二が瑠香に声を掛ける。


「また、子守唄歌って……」


「いいよ……」


 瑠香がそう言って、優しい歌声で裕二の頭を撫でながら子守唄を歌う。


 優しい歌声が部屋に響く……。


 いつまでもこの時が続くようにと祈りながら……。




(なんか……引っ掛かっているんだよね……)


 奏がそう心で呟きながら、捜査室に設置してくれたマイデスクに肘をつきながら現場の状況をぐっと目を閉じて必死に思い出す。



 物がひっくり返ったりしている散乱した部屋……。


 刺された元樹の遺体と頭を何かで殴打されて即死だった文代の遺体……。


 鑑識が来て遺体を運んだ時……。



「あ……!そうだ……!!」



 奏が引っ掛かっている事が何か分かったのか、声を上げた。



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