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ファクト ~真実~  作者: 華ノ月
第六章 飛べない鳥は深い穴に落ちる
102/252

2.


「……昨夜は眠れましたか?」


 車に揺られながら助手席に座っている奏がそう声を掛ける。


 次の日、瑠香と裕二を保護してくれる施設に二人を送り届けるために透の運転でその場所に向かう。車の真ん中の席に二人を乗せて、その後ろには紅蓮と槙が乗っていた。


「……一応」


 瑠香が小さな声でそう呟く。


 瑠香は裕二の身体を抱き寄せて、裕二を不安にさせないためか、手も握っている。隣に座っている裕二も咳き込みながら瑠香に体を寄せていた。時折、裕二が咳をすると瑠香は裕二の背中を優しく撫でる。


(弟想いの子なんだな……)


 奏がそう心で呟く。


 両親が殺されて、瑠香も本当なら泣き叫びたいだろう……。でも、きっと瑠香の中で自分が取り乱して裕二を不安にさせてはいけないという気持ちがあり、必死で耐えている姿が見ていても分かる。


「……そろそろ着きますよ」


 後部座席に座る瑠香たちに奏がそう声を掛ける。


 やがて、車はある施設の中に入っていった。


 施設に入り、瑠香と裕二を施設の人に預ける。


「……辛かったわね。お部屋は用意してあるからとりあえずそちらに案内するわね」


 施設長である静木しずきが二人にそう声を掛けて部屋に案内することになり、奏たちはお礼を言ってその場を離れた。


「……じゃあ、まずは聞き込みから行きますかぁ~」


 車に戻ってきた奏と透を見て紅蓮がそう言葉を発する。


 そして、奏たちは事件があった家の近くの聞き込みに赴いた。




「……お姉ちゃん、僕たちこれからどうなるの……?」


 施設の人が案内してくれた部屋にベッドがあったのでそこに裕二を休ませていると、裕二がそう口を開いた。


「大丈夫……。きっと、なんとかなるよ……」


 瑠香が微笑みながら言葉を綴る。


「でも……でも……」


 裕二がそう言いながら泣きそうな顔を見せる。


「大丈夫。きっと大丈夫……。大丈夫だから……」


 瑠香がそう言いながら裕二を抱き締める。


「お姉ちゃん……」


 瑠香の身体は震えていた。


 瑠香が深く深呼吸をして必死に平常心を取り戻そうとする。


「きっと大丈夫だから……。お姉ちゃんを信じて?大丈夫……、大丈夫だよ……」


 瑠香が優しくそう言葉を綴る。


 裕二はその言葉にコクンと頷き、目を閉じた。




「……再婚……ですか?」


 奏が聞き込みをしていると殺された松井夫妻の事を知っている人がそう教えてくれた。


「えぇ、松井さんのところは再婚しているんですよ。瑠香ちゃんと裕二君は母親の連れ子だと聞いています……。どうやら前の旦那さんが病気で亡くなったとかで、再婚したみたいなことを聞きましたよ?」


 近隣に住む島崎しまざきと言う名の女性がそう答える。


「瑠香ちゃんも裕二君も可哀想に……。二人ともお母さんとは本当に仲良かったですから……」


 島崎がそう言ってため息を吐く。


「ちなみに、その再婚した父親とはどうだったのですか?」


「まぁ、特に仲が良かったわけではないけど普通に仲良かったんじゃないかしら?ご主人の方は特に瑠香ちゃんの事は気に入っていたみたいだし……。裕二君の病院もご主人が連れていくのを見たことがあるわよ?」


 透の言葉に島崎がそう答える。


「瑠香ちゃんや裕二君はどんな子だったのですか?」


 奏が二人の子供の事を尋ねる。


「そうねぇ~……。瑠香ちゃんは弟想いの優しいお姉ちゃんでね。裕二君が学校に行く時は一緒に手を引いて行っていたのをよく見かけたことあるわ。それに、瑠香ちゃんはとても優しい子でね。困っている人がいると手を貸してあげたり、私たちに会うと挨拶もしてくれたり、「今日は寒いですから暖かく過ごして下さいね」とか声を掛けてくれてね。本当に優しい子だなって思いますよ……。それに、ご両親が仕事で忙しい時は瑠香ちゃんが代わりに夕飯を作ったりして家の事を手伝っていたみたいよ?」


 島崎の話で瑠香がとても優しい子だという事が分かる。弟想いで、家族思いで、近所の人にも気遣いのできる優しい子……。だから、裕二もそんな瑠香を慕っているのかもしれない。


 別行動で聞き込みをしていた紅蓮と槙に合流し、何か情報があったか聞くが、奏と透が聞いたことと同じ内容で、松井夫妻に関しても特に不審な点はなく、瑠香の事はやはり「優しい子」と言う話しか聞かなかったということだった。


「……やはり、今回はただの強盗殺人事件というだけじゃないのか?」


 聞き込みをして、透がそう言葉を発する。


「そうなの……ですかね……」


 奏がそう言葉を呟く。


 何となく瑠香と裕二の言葉が引っ掛かったのだが、勘違いだったのかもしれないと感じる。


「なんだかすみません……。私のせいでこんな事になってしまって……」


 奏がそう言って頭を下げる。


「大丈夫だよ♪気になったんでしょ?♪なら気が済むまで調べるのもありなんじゃない?♪」


 紅蓮がそう言って笑顔を見せる。


「ただ、何となくは俺も引っ掛かる。なんで子供たちが母親の死を嘆くだけで父親の死を嘆かなかったのかがな……」


 槙も奏と同様にその事が気になっているのか、そう言葉を綴る。


「特に仲が悪かったわけじゃないのに、父親が死んだことに関しては何故嘆かない?もしかしたら、外の顔とは違う別の顔がある可能性もあるんじゃないのか?」


 槙の綴る言葉は奏も感じていた言葉だった。奏もそこが引っ掛かりを感じる。瑠香も裕二も現場に駆け付けた時に「お母さん……お母さん……」と、母親にだけ声を掛けていて父親には見向きもしていなかった。義理の父親だからという事もあるかもしれないが、遺体が運ばれていく時も母親の方は涙を流して「どうして?どうして?」と言っていたのに、父親が運ばれる時は特に何も声を掛けていなかった。


「……子供たちが落ち着いてきたら松井夫妻の事を聞いてみるか……」


 透も子供たちの行動に疑問があるのか、そう言葉を発する。


 今すぐはまだ子供たちに話を聞くのは辛いと思い、後日に改めて話を聞きに行くことにする。それまでは特に動きが取れないので、片付けなければいけない書類整理をするということになった。




「瑠香ちゃん、裕二君の体調はどう?」


 瑠香と裕二が与えられた部屋に静木がやって来て瑠香にそう尋ねる。


 裕二は薬が効いているのかよく眠っている。生まれつき病弱なので、裕二はいろいろな薬を飲んでいた。今は、ぜんそく用の薬を飲んでそれがよく効いているのかスヤスヤと寝息を立てて寝ている。


 裕二を起こさないために静木は瑠香を連れて施設の中にある談話室に通した。


 談話室にある一つのテーブルを挟むように瑠香と静木が対面に座る。


「何か困ったことがあったら言ってね。あんなことになって辛い時だし、力になれる所は力になるわ」


 静木が柔和な表情で微笑みながらそう瑠香に話しかける。


「ありがとうございます……」


 その言葉に瑠香がお礼の言葉を言う。


「ここに来てまだ日が浅いから分からないこともあると思うけど、ここの職員はどの人も優しい人ばかりだから困ったことがあったら声を掛けてね」


 静木が優しくそう話しかける。


「あ……あの……」


 そこへ、瑠香が声を発する。


「どうしたの?」


 静木の言葉に瑠香がどう話していいか分からないような表情をする。


「……私たち、これからどうなるんですか?」


 瑠香がそう言葉を発する。


 自分たちはこれからどう生活していけばいいのか?


 どこかの施設に入れられるのか?


 そんな不安が瑠香の中にあるのだろう。この施設は一時的に預かるだけの場所でずっとここに居られるわけじゃない。それは警察の人からそう聞いている。となると、自分たちは親戚に引き渡されるのか、引き取りが無ければどこかの施設に入るのか、どちらかの選択肢になる。


「……とりあえず、落ち着くまでしばらくここにいるといいわ」


 瑠香の不安を読み取ったのか、静木が優しい声でそう答える。


「……あ、そうそう。着替えとかがまともにないでしょうから私たちも付き添いの元で家に着替えを取りに行こうと思っているのだけど、裕二君は安静にしていた方がいいと思うから、瑠香ちゃんだけで取りに戻る事は出来るかしら?」


 静木の提案に瑠香が「分かりました」と頷き、家に荷物を取りに戻ることになった。




「……目撃者は無し……か……」


「……えぇ、近所に聞いても怪しい人とかの情報は一切ありませんでした」


 本山の言葉に杉原がそう答える。


 事件から数日、本山と杉原は「強盗殺人事件」として捜査を開始した。しかし、不審な人物や怪しい人影があったかどうかの情報が全くない。近所でも、その日は特にいつもと変わらない日常で、突然そんな事件が起きて驚いているという事だった。


「本山さん、この事件、水無月さんが言った通り「強盗事件」に見せかけた「殺人事件」なのではないでしょうか……?」


「……ありえるかもしれないな」


 杉原の言葉に本山がそう答える。


 捜査をして分かった事と言えば、殺された夫である元樹は電気系の会社でそれなりの地位にいるという事と、妻の文代はスーパーでパートとして働いていたということぐらいだった。夫婦ともに、特に会社でもパート先でも問題ないという事で、突然殺されたという事に何も心当たりがないという事くらいしか情報が得られなかった。


「……事件の日の事を子供たちに聞いてみるか」


 本山がそう言葉を発する。


「それでしたら……」


 杉原がそう言ってある事を本山に提案した。



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