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ファクト ~真実~  作者: 華ノ月
第六章 飛べない鳥は深い穴に落ちる
101/252

1.

~プロローグ~


「ごめんなさい……ごめんね……。お母さんが必ず守るからね……」


 一人の少女を抱き締めながら一人の女性が涙を流しながらそう言葉を綴る。


 少女の目は虚ろだった。その瞳に光は宿していない。黒く、絶望の闇を模しているようなそんな瞳をしていた。


「……もう嫌……もう嫌……」


 少女がそうブツブツと呟く。


「お母さんが……あなたを何とか前のあなたに戻してあげるからね……」


 女性がそう言葉を呟く。


「……絶対、許さないわ……」


 女性が遠くを見据えながら強い瞳でそう呟く。


 女性は瞳に強い憎しみを宿している。



「この子をこんな風にした報いは受けてもらうわ……」




1.


「……未だに魂が抜けている顔をしているな」


 透が紅蓮を見てそう言葉を呟く。


 紅蓮は席に座って書類整理をしているものの、手を動かしているだけで魂は身体からフヨフヨと浮いていて頭の上を飛び回っている。


「魂が抜けていても仕事はできるのですね……」


 奏がどこか感心したようにそう言葉を綴る。


「例の眞子って子が真犯人だったのがよっぽどショックなんだろ」


 槙が呆れたように淡々と言葉を綴る。


「まぁ、ちゃんと書類整理はしてくれているし、良いんじゃない?放っておけば♪」


 冴子がサラッとそんな言葉を発する。


「まぁ、静かでいいけどさ」


 透も特に気にしていないのか、そう言葉を綴りながら書類整理を行う。


「でも、この前の事件って、要は三人の女性が一人の男性を殺すために仕組んだってことですよね?麗美さんは殺人罪と殺人未遂容疑、真奈美さんは未遂で済みましたが、容疑は殺人未遂容疑となりましたし、眞子さんは殺人罪が課された……。そして、義人さんには傷害罪……。殺された零士と言う人は女性を食い物にしていたんですよね?ホストと言う仕事柄かも知れませんが、そういう事がどうして仕事として成り立っているのかがよく分からないです……」


 奏がそう語る。


「まぁ、確かにホスト通いに依存してかなりの額を借金しているって言う話もあるわよね。それに若い子だと、娘がホストにのめり込んで家族仲が悪化している家もあるみたいだし……。まぁ、私はそんな見目が良いだけの男のどこが良いんだろうって思うけどね♪」


 冴子がそうカラカラと笑いながらそう言葉を綴る。


「まっ♪奏ちゃんは広斗君一筋だもんね♪」


 冴子が奏にウィンクを送りながらそう言葉を綴る。


「え……あ……う……その……」


 その言葉に奏が顔を真っ赤にしながら言葉にならない声が出る。


「う~ん♪純愛ねぇ~♪初々しいわね~♪」


 冴子がニマニマと笑いながらそう言葉を綴る。その言葉を聞いて奏は顔を真っ赤にして頭から湯気を吹きだしている。


「……恥ずかしがり屋なんだな」


 顔を真っ赤にしている奏を見て透がそう言葉を発する。


「……いじらないでください」


 奏が小さな声で精いっぱいの反論を見せる。


「次はいつ会うんだ?」


 槙がそう尋ねる。


「え?えっと……、今また仕事で海外に行っているので、帰ってきてからになりますね」


 奏がちょっと照れながらそう言葉を綴る。


「あら♪じゃあ帰ってきたら一杯甘えないとね♪」


「さ……冴子さ~ん!!」


 またまた冴子の口から飛び出してきた言葉に奏が顔を赤くして焦りながらそう言葉を発する。


「さっ!書類整理、とっとと終わらせるわよ♪」


「「「はーい」」」


 冴子の言葉に奏たちがそう声を上げて、山のようにある書類に取り掛かっていった。




「……最近はちょっと平和ですねぇ~」


 杉原が湯のみを片手にそう言葉を綴る。


「そうだな」


 その隣で本山がぶっきらぼうに答える。


 本山が率いる捜査室は今のところ、事件らしい事件が起こっていないので数日は平和な時間を過ごしていた。


(小宮山のやつ……、多分署長から例の話を聞いただろうな……)


 ホットコーヒーを啜りながら本山が心の中でそう呟く。


(それにしても……)


 本山がそう言って杉原に顔を向ける。


(杉原よ……。お前、まだ若いのに雰囲気が縁側で茶飲みしている爺さんになっているぞ……?)


 頭に花を咲かせながらポヘ~っとお茶を飲んでいる杉原を見て本山がそう心の中で呟く。



 その時だった。



「……た、大変です!本山さん!杉原さん!!」


 一人の警察官が捜査室にやって来て声を上げた。




「……強盗殺人事件……か……」


 現場に到着した本山がそう言葉を発する。


 室内は滅茶苦茶に荒らされており、箪笥の引き出しも開け放されていたり、中には床に落下している棚もある。殺されたのはこの家に住む夫婦。夫の松井まつい 元樹もときと妻の文代ふみよ。元樹はナイフで刺されて死亡しており、文代は何かで頭を殴打された形跡があり、それにより死亡したことが分かった。


「……そうとうやりあったんだな」


 現場を見て本山がそう言葉を綴る。


「……ところで……」


 本山がそう言って、ある人物たちに視線を向ける。


「なんでここにお前らがいるんだ?」


 その場にいる、透と紅蓮、そして槙を見て不愉快そうに言葉を綴る。


「さ~あ♪なんででしょうね?♪」


 本山の言葉に紅蓮がちょっと楽しそうに言葉を綴る。


「冴子さんが玄さんに何か手伝える仕事がないかと聞きに行ったら、この強盗殺人の事を聞いてきましてね。それで、現場に自分たちも急行する様に言われたんです」


 透がそう説明する。


「……全く、ただの強盗事件だからお呼びではないぞ?」


 本山が怒気を孕んだ口調で言う。


「そういえば、水無月さんはどうしたのですか?」


 杉原がこの場に奏がいないことを不思議に感じ、そう言葉を発する。


「奏なら被害者の子供たちから事情を聞いている」


「……勝手なことを」


 槙の言葉に本山が頭を抱えてため息を吐きながらそう呟く。


「……それで、何処にその子供はいるんだ?」


「庭にいますよ。現場で話を聞くのは酷だと言って庭に連れ出したんです」


 本山の言葉に透がそう答える。


「杉原、俺たちも話を聞きに行くぞ……」


「はい」


 本山に続くように杉原と共に、庭の方に向かう。



「……はい、どうぞ」


 奏が二人に暖かい飲み物を差し出す。そこには二人の子供がいて、一人は高校生くらいの女の子、一人は小学生くらいの男の子がいた。


「……少し、落ち着きましたか?」


 奏が優しい口調で二人にそう声を掛ける。その言葉に二人の子供はコクンと頷く。


「……この子らが被害者の子供か?」


 そこへ、本山が杉原を連れてやってきてそう口を開く。その低い口調が少し怖かったのか、その声に二人の子供がビクッと肩を震わせる。


「あ……お疲れ様です。本山さん、杉原さん」


 奏が二人に顔を向けてそう言葉を発する。


「……お二人に話を聞いたのですが、今のところ何が盗まれたかは分からないそうです」


 奏が本山にそう説明する。


「そうか……」


 本山がそう答える。


「本山さん、この子たちどうしますか?今日はこの家で寝るのは厳しいと思いますよ?」


 杉原が子供たちの事を考えてそう言葉を綴る。


「……とりあえず、署に連れていくか……」


 本山はそう言って二人の子供を連れて署に戻ることにした。




「……今日はここで眠ってくださいね」


 奏が署の中にある休憩所に子供たちを案内して布団の上に寝かせる。


「ありがとう……ございます……」


 奏がお布団を敷き終わると、高校生の娘である瑠香るかがそう小さく呟く。


「……コホッ……コホッ……」


 瑠香の傍にいる弟、裕二ゆうじが咳き込む。


「大丈夫……?裕二……」


 瑠香が優しく裕二の背中を擦る。


 裕二の身体はそれこそ小学生な感じの身体つきだが、実際は中学生らしく、生まれつき病弱でほとんど学校にも行けていないという事だった。


 瑠香が裕二を布団に寝かしつけて、頭を撫でる。


「……お姉ちゃん、どうして……お母さんまで……」


「今はその事は考えなくていいからゆっくり寝るといいよ」


 裕二の言葉を瑠香が遮る。


 瑠香の言葉に裕二は目を瞑り、乱れている呼吸を整える。その間、瑠香はずっと落ち着かせるためだろうか……裕二の頭を優しく撫で続ける。


 その様子に奏が胸を締め付けられる思いに駆られた。どうして、こんな事件が起きたのか?そして、これからこの子たちはどうなるのだろうか……。


 奏の中で悲しみと苦しみがグルグルと蠢く……。


 そして、しばらくは二人にさせようと思い、その場をそっと離れた。




「……小宮山、今回はただの強盗事件だ。お前たちはお呼びではないぞ?」


 特殊捜査室で本山がそう冴子に食い掛る。杉原はその様子をハラハラと見ていた。


「まぁまぁ♪そんな怖い顔しなくてもいいじゃない♪」


 怒り顔の本山とニコニコ顔の冴子の睨み合いのようなものがしばらく続く。



 ――――ガチャ。



「戻りました」


 そこへ、奏が特殊捜査室に戻ってきた。


「おかえり、奏ちゃん♪子供たちはどう?」


 冴子がそう声を掛ける。


「はい……、とりあえず言われた場所に連れていって、布団を敷いてきました。とりあえず、今のところ大丈夫だと思います……」


「そう……、ありがとう。裕二君の状態も悪化していない?」


「はい……。瑠香ちゃんが傍についていますのでとりあえず大丈夫そうです」


 冴子の言葉に奏がそう答える。


「……とにかくだ。今回はお前たちに出番はない。ただの強盗事件に口を挟むな」


 本山が強い口調でそう言葉を綴る。


「……あの」


 そこへ、奏がおずおずと声を出す。


「なんだ?」


 本山が奏に顔を向けてそう声を発する。


「この事件、本当にただの強盗殺人事件でしょうか?」


「どういうことだ?」


 奏の言葉に透がそう尋ねる。


「なんとなくですが、ただの強盗殺人とは思えないんです……」


 奏が神妙な顔でそう言葉を綴る。


「その根拠は?」


 本山がそう言葉を発する。


「一つは銀行の通帳やカードがそのまま残っていた事。そして、現場には財布も見つかっていますが、中身は抜き取られていませんでした。それと……」


 奏がそこまで言って言葉を詰まらす。


「他に何があるんだ?」


 槙がそう問いかける。


「その……、両親揃って亡くなったのに、子供たちが悲しんでいたのは母親だけなのです……」


「「「……え?」」」


 奏の言葉に本山や冴子たちがそう声を上げる。


「瑠香ちゃんも裕二君も「なんでお母さんが……」と言うだけで父親である元樹さんの事は何も言わなかったのですよ……」


「……それは確かに引っ掛かるわね……」


 冴子が不思議そうにそう言葉を発する。


「……つまり、水無月さんは強盗に見せかけた殺人事件かも知れない……と言いたいという事ですか?」


 杉原の言葉に奏がコクンと頷く。


「……ちょっと、調べてみる必要があるかもしれないわね」


 冴子が真剣な顔でそう言葉を綴る。


「はい……。もしかしたら、何か別の事件が潜んでいる可能性があると思います……」


 奏が強い眼差しでそう言葉を綴る。


「本山さん、この事件、協力させてくれないかしら?」


 冴子が本山に向き直り、そう言葉を発する。


「……はぁ~。……どうせ、勝手に捜査するんだろ?分かった、いいだろう。お前たちはその線で捜査してくれ。ただし、何か情報を掴んだらすぐに連絡することだ。いいな?」


「了解♪」



 こうして、奏たちは今回も本山達と協力して今回の事件を捜査することになった。



 しかし、その時、奏はまだ何も知らない……。



 この事件の「真実」を明らかにすることが自分を苦しめることになるという事を……。




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― 新着の感想 ―
作品のタイトルが「ファクト(真実)」ですので、やはりその解明したい「真実」が物語の重要ワードというのはわかるのですが、いったいそれがどういった真実なのかはまだまだ謎のままですね。とても気になります。 …
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