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努力が無駄になるっ!

「詰めが甘いな」


 剣がシルフォンの頭に当たる直前、斬り飛ばした腕が飛んできた。俺の喉を掴むと後ろに飛ばす。


 木にぶつかって背中に強い衝撃を受け、剣は落としてしまう。


「ガハッ」


 肺に溜まっている空気が一気に吐き出される。新鮮な空気を求めて呼吸を試みるが、喉を強く握られてしまいうまくいかない。


 このままでは窒息死してしまう。


 俺がどうやって対応するのか楽しみにしているのか、シルフォンは立ったまま。斬り傷の手当すら……ん?


 切断面から血は流れていない。生物としてあり得ない状況だ。


 まさかこいつ、ベースとなった魔物は不死者、ゾンビ系統か?


 いや。今はそんな考察を進めている場合ではない。


 手を真っ直ぐと伸ばし、魔力で強化してオーラをまとわせる。


 指は刀身だ。


 俺の腕は一本の剣となる。


 そのイメージをもったまま俺の首を掴んでいる腕に突き刺す。皮膚を破き骨にまで到達した感覚が指に伝わる。


 手刀と呼ばれれる攻撃は成功したみたいだ。


 指先に消滅属性を付与すると、シルフォンの腕が消えた。


 魔力でコーディングして動かしていたようだが、内部は無防備だったようだ。


「ハッ、ハッ、ハッ」


 短い呼吸を繰り返して新鮮な空気を体内に取り入れる。


 シルフォンの追撃はない。いつのまにか腕は再生されていた。


 炎、土、植物、金属、さらには回復系の属性まで使えるのかよ。つくづく常識外な存在だ。


「人間ごときにしてはよく生き残ったと評価してやろう」

「そろそろ俺を認めてくれないか?」

「ふむ……では、この攻撃から生き残れたら考えてやろう」


 何もない空中から、透明な石が出現した。光を反射して星々が集まったような輝きをしており、細長く先端は尖っている。どこか固く冷たい印象を与える鉱石は、貴婦人達が求めて止まないダイヤモンドだった。


 それが十、いや二十、三十と増えていき、シルフォンの周囲に浮かんでいる。


「脆弱な人間がどこまで耐えられるかな?」


 手始めと言わんばかりにダイヤで作られた円錐系の物体が一本飛んできた。


 動きは目で追える。


 魔法で作られた物質は魔力でコーティングされているため、数秒接しただけでは消滅させられない。


 急いで剣拾うと、下から上に振るって軌道を変えて避けた。


 次は二本同時に放たれた。


 今度は回避しようと思ったのだが、ワンテンポ遅れて放たれた三本目、四本目が視界の端に入る。


 避けたところで攻撃は永遠と続きそうだ。


 いつかは力尽きてしまう。じり貧だ。攻めるしかない。


 足を一歩前に踏み出しながら、剣を最小の動きで振るい、円錐形のダイヤを叩く。


 俺のギリギリ横を通り抜ける。


 さらに逆の足を一歩前に出しながら、後続として放たれた三本目、四本目も同様に弾いた。


「逃げるではなく、攻めを選んだかッ! 楽しませてくれるッ!!」


 前に進めば進むほど攻撃を弾くのが難しくなっていく。


 難易度が跳ね上がるのだ。


 口や頭が回るヤツならシルフォンを説得させる言葉が思い浮かぶかもしれない。もしくは伏兵でも仕込んでおいて、奇襲をかけたかもしれない。


 だが俺はそんなことせず、ただ剣を振るうのみ。


 人はその姿を見てバカだというかもしれないが、真っ正面から突破する方法が、魔族に力を認めさせる唯一の方法なのだ。


 もう何本目か分からないダイヤを弾くと、ついに腕の動きが間に合わなくなった。鋭い先端が腹に刺さって止まる。


「お兄様っ!」

「行ったららダメ! 努力が無駄になるっ!」


 駆けつけようとしたナターシャをプルップが止めてくれたようだ。


 一対一の真剣勝負に割り込んでしまえば、シルフォンは俺への興味を失うだろう。


 懸命な判断である。助かった。


「負けを認めるか?」

「断る。さっさと再開しようぜ」


 余裕がなくなって荒っぽい口調で言ってしまったのだが、機嫌は悪くなるどころか逆に良くなっている。


「ふはははは! すぐに諦め、命乞いをするかと思ったが、ワレの考えが間違っていたようだッ!」


 話ながらも円錐形のダイヤは飛んでくる。


 軌道を変えていみたが力は足りず、剣が吹き飛ばされてしまう。だが一歩前に進めた。


 武器はなくなってしまったが、俺には二本の腕が残っている。


 俺の右腕は剣だ。


 魔力で強化して迫り来るダイヤを叩く。


 激しい痛みを感じたが軌道を変えることはでき、地面に突き刺さる。


 いける。まだ抗える。


「野蛮で、無謀で、無様な姿だが……嫌いではない」


 一歩前に進む。今度は腕の動きが間に合わず、ダイヤが左肩に突き刺さった。


 骨が砕ける痛みを感じても足は止めない。


 前の人生で死んでいった部下や領民たちを想えば、ここで倒れる訳にはいかないのだ。


 一歩、二歩と前に進む。その間も円錐形のダイヤが飛んでくるが、右腕一本だけで受け流す。


 さっきまではずっと一本だったのだが、今度は二本同時に飛んできたので、腕を左から右に振るう。


 両方とも刺さって右腕は動かなくなったが、俺は無事だ。


 さらに前に進む。


 ん? 何かにぶつかって止まってしまった。


 顔を上げるとシルフォンの顔が近くにある。


「貴様は全てを受けきりワレのところまでたどり着いた。マーシャルよ。喜べ。お前は、その価値を証明して見せたのだ」


 接触したついでに殺してやろうと思ったが、力が入らない。


 出血が多すぎて目がかすむ。


 死ぬかもしれない。やり直すのであれば次はもう少しだけ上手くやりたいな。

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