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「移動手段だと?」

「うん。スライムの上って、意外と気持ちいいらしいよ」


 まともな返答はされなかった。


 目の前にいるでかいスライムが、水で作った触手を伸ばしてくる。警戒しようと体が動いてしまったが「抵抗しないで」とプルップに言われて止まる。


 半日程度であればリスクなしで時間は戻せる。


 時空魔法に頼り切りなのは良くないが切り札としては使えるので、今回はプルップの言葉に従うのも悪くはないだろう。


「先ずは俺を上にのせてくれ」

「はーい」


 砕けた言葉なんて気にしていると、水の触手が俺の体に巻き付いた。溶解液を出している様子はない。


 体が持ち上げられて、スライムの上に置かれると解放された。


 弾力性があって気持ちが良い。ひんやりとしているところもポイントが高いな。歩き続けて火照った体にちょうどいいぞ。


「きゃぁっ」


 小さな悲鳴を上げながらナターシャが俺の隣に落ちた。


 ちょっとだけ扱いが雑なのは気のせいだろうか。


「ぷよぷよでいいですね」


 俺と違って、すぐに警戒心を解いてしまった。ナターシャは横になってしまう。


「気持ちいいです~。お兄様もどうですか?」

「遠慮しておく」


 今のところ好意的な態度を示しているが、いつ裏切るか分からない状況だ。


 魔族なんて俺たちと価値観が大きく違うので、常識なんて通用しない。今この瞬間にお仲間の魔族が襲ってきても不思議ではない。


 少なくとも俺だけは警戒を続けなければ。


「出発するね」


 上下にはねて進むと思っていたのだが、スーッと、横に移動するような移動方法だ。振動は一切なかった。


 質の悪い馬車に乗ったときのような、気分の悪さは感じない。


 悔しいが非常に快適である。


「ふんふんふーん」


 理由は分からないが、プルップは歌を口ずさむぐらいは機嫌が良い。


 罠……と考えるのは違うか。感情が純粋なので裏があるとは思えないのである。


 隣で寝そべっているナターシャは寝息を立てているし、危険な魔の森だとは思えない光景だ。


 遠くに二足歩行をする豚――オークがこちらを指さしている。醜く歪んでいる鼻を動かして臭いを嗅いでいるみたいだ。


 エサである人間がいるのは気づいているだろう。だが、スライムが怖くて近づけない。オークは立ち去ってしまう。


 不要なリスクを冒すぐらいであれば、他の動物か、もしくは果実を食べる方を選ぶ知能ぐらいはあったようだ。


 なんだか、俺一人が警戒するのも馬鹿らしくなってきたな。


 もちろん気を緩めることはないが、無駄に神経をすり減らすほどではない。この後、魔族の王との話し合いが控えているのだから。


* * *


 昼が過ぎて周囲が少し暗くなった頃。ようやく目的地に着いた。


 目の前には小さな小屋が一つある。近くには畑らしきものがあって、赤い果実が実っている。あれは酸味のあるトマトだったな。


 スライムが来たことに気づいたのか、ドアが開く。


「客か?」


 出てきたのは腰から真っ黒い羽を生やした銀髪の男――魔族の王と呼ばれているプルップの親だ。


 体は非常に引き締まっていて膨大な魔力を持っているのも変わらない。


 少し無防備な感じがするのは、自分の家だからだろうか。


 俺たちはスライムから飛び降りると真っ直ぐ見る。


「人間か。何の用だ」


 空気ががらりと変わった。


 殺意を感じ、無意識のうちに剣の柄に手をかけようとするのを止めて、瓶を取り出す。


 コアを見た瞬間、目つきが鋭くなった。


「ワレの娘に何をした」


 やば。ぶち切れた。


 先に用件を伝えるべきだったと後悔していると、プルップが話し出す。


「お父様。彼らは私がここに招待しました」

「お前が? どうしてだ?」

「気に入ったからです」


 突っ込もうと思ったのだが、ナターシャに腕をつかまれて止められてしまった。


 首を横に振っているところから、余計な口出しはするなと言いたいのだろう。


「コアだけにされ、さらに瓶に入れらたのに、か?」

「はい」

「…………いいだろう。一応、客と認めてやる」


 娘との会話を終えると魔族の王は俺を見る。


「ワレはプルップの父、シルフォンだ。先ずは名を名乗れ」

「ブラデク辺境伯の長男、マーシャル・ブラデクと、後ろにいるのが義妹のナターシャ・ブラデクです。お目にかかり光栄でございます」


 軽く頭を下げるとシルフォンは満足そうにしていた。


 下手に出たのは正解だったようだ。


「長い前置きは不要だ。要件を言え」

「プルップを解放する代わりに、人間が魔の森で暴れても我が領地へ侵略しないと約束して欲しいと思っております」

「ワレが攻撃されても一方的に我慢しろと? 脆弱なくせに傲慢な考えだ。図に乗るなッ!」


 本能が危険だとアラートを鳴らしている。それほどの怒りが魔族の王から感じ取れた。


 この反応自体は想定内ではあるが、少し危険な状況だ。


 道理の分からない存在ではないと信じ、落ち着いて対応しよう。


 一撃でナターシャが殺されないよう背に隠しつつ話を続ける。


「もしあなた方を攻撃するような愚か者がいれば、反撃しても構いません。我が領地へ逃げ込んだのであれば責任を持って捕らえましょう。問題が起きたら武力ではなく対話で解決させて欲しい。そう言ったお願いです」

「ふん。要はワレが本気で怒る前に教えて欲しいと言うことだな?」


 首を縦に振って肯定した。


「そんな約束、ワレにメリットがない。つまらん話だったな」


 くるっと背を向けて家に入ろうとする。


 このままでは引き下がれないので、何としてでもシルフォンの興味を引かなければ。


 


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