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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

5人の京。俺が会いたくてたまらないきょうくんはどれだ?

作者: 犬の作家さん



きょうくんは、俺が慕っていた人だ。




俺の家に養子に来たきょうくんはいろいろな事を


知っていた。






『おい、ケイ。あそこはな、地元じゃあ自殺の名所と呼ばれているんだ。』






八木山ベニーランドの帰りに、ずいぶん高い柵で覆われた橋を見ながらきょうくんは教えてくれた。








『怖いよ。きょうくん。』




『はは、まああんだけ高い柵なんだから落ちないよ。誰かに落とされない限りね。』




『やめてよ、きょうくん。』






そういって幼い俺を怖がらせた。


抱きつく俺をその逞しい腕で抱きしめてくれた。


温かい抱擁。






『なあ・・・ケイ。』




深い吐息を漏らしながら、耳元で囁く。






そう言うときょうくんはいつも物陰に俺を連れていき、体を弄りはじめる。






きょうくんは俺のはじめての人だ。
















俺はずっとずっときょうくんといると信じていた。




























『せんだい まこごろはうす。』






そう書かれた子どもがたくさんいる施設に連れてかれた。








『ケイ。すまない。キミは今日からここで暮らすんだ。』




『なんでだよ!きょうくん!まだごめんなさいしてないよ!』








寮母さんらしき人が俺を抑える。












『ごめんなさいか。それは、、何のことだろうか。』




きょうくんは振り返る。










『これ!どうすんのさ!』








お揃いのアクセサリー。


きょうくんが弄る度にプレゼントしてくれたものだ。








『ああ・・・・そんなものは・・・なげてくれ。』






『嫌だよ!まだ・・・』






『なあ、ケイ。せめてもの情けだ。お前だけ残してここに連れてきたのも。』








振り返るきょうくん。














『じゃあな。ケイ。』






『絶対、絶対探して会いに行くから!!』










寮母に引きずられるように連れていかれる。


きょうくんの姿は小さくなっていく。








俺はずっとずっとこの時からきょうくんに会いたくてたまらなかった。










だから、きょうくんに会う為に全てを捧げてきた。










その為に。


候補者がいるこの街。








『こんなところにいるなんてな。』










そうそれは、どういうわけだろうか。








俺は独自に探していた。


そのくらいのツテは探せばいくらでもあった。


そういうところにいるから。


































『えーっと、転校生を紹介します。ほら、入ってきて。』






担任になる、鏑矢ケイ先生。


ストレートの綺麗な黒髪を棚引かせながら、こちらに合図する。




とても妖艶な雰囲気の先生だ。












教室に入る。


女生徒ばかりの学校。




私立八柱学園高等学校は、元は女子校だが


昨年から男子生徒も受け入れるようになったらしい。






だからか、俺が入った瞬間ざわめきが起きた。






『えーっと、八柱ケイだ。元は隣町の学校にいたが、今期から編入することになった。みんな仲良くしてやれ。』






『八柱ケイです。その、、、よろしくお願いします。』








自己紹介をした。










『ねえ、八柱くんは彼女いるのお?』




『えーっその銀髪は地毛ですか!?』




『入る部活は決まってるか!?男手が欲しいんだ!!』








次々と質問が飛び交う。


女子校独特の雰囲気だ。






まるでアイドルのコンサート状態。




『こっち向いてー!きゃっ、写メ撮っちゃった!』




『えーっ学園と同じ名字!まさか理事長ご子息ぅ!?玉の輿乗りたーい。』








『えーっと、、、その。』






俺は頭頂部から、汗が飛ぶように焦っていた。


女子校に編入の時点で冷遇されるか、


こういう黄色い声が飛び交うかは予測していた。








『参ったな・・・・。』








頬をポリポリかく。






『うわああ!照れてるぅぅっ!』




『かあわいいーー!!』












照れたわけではないのだが、まあいい。








『おい、お前ら、八柱が困っているだろう。ほら、八柱はあの1番後ろのあそこ!空いてるだろ?そこに座れ。』






黄色い声が飛び交う中、席に着く。






隣には、ゲームをしている赤いポニーテールの女の子が座っていた。






こちらには目も暮れず、海外製の棒付きの飴を咥えながら淡々とゲームをやっている。








『じゃあ授業始めるぞ!おい、山下、10ページを開いて!5行目を読んでくれ!』








ケイ先生に当てられた山下という生徒が立ち上がり読む。






『あ、アイアム!トメ、フィネ?サンキュー、アンドヨウ?』






『あー全然だな。アイアムトム、ファインセンキュー、エンドユー?だろ。』






笑いが起きる。


山下という生徒が教科書で顔を隠す。


そのまま力なく座る。








すると、消しゴムが


山下という生徒の頭に当たった。






振り返るも皆、教科書を見ている。


誰が投げたかはわからない。




山下は少し涙目になっていた。










♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎




『八柱くん、好きです!付き合ってください!』






俺は校舎裏に呼び出されていた。






聞くと一目惚れだという。






髪はサラサラしていて、体つきも悪くない。


顔も可愛い。




思春期の男なら2つ返事でokを出しそうな


感じの女子校生だ。




だが、俺はこの女の子には恋焦がれない。








『ごめん。』






振った。














泣いていた。


プライドが高そうな子だ。


もしかしたら負け知らずなのかもしれない。












『なんでよ!うっ、うっ。』






俺は振り返る。








『この学校に来れなくしてやるっ!』




そうか、そうか。


こういう手合いは振っておいて正解だ。


































翌日。








『八柱ケイは、男が好き。』










たぶんゲイビデオの写真と俺の画像のコラだ。


そういえば、初日写メ撮られたな。


あれは、確か俺が振った女だ。










廊下の掲示板にデカデカと貼られていた。




嘆かわしいな。






『えー、ショックなんだけど。』




『駅前で男を何人も引き連れて歩いてたらしいよ。しかもイカつい男。』




『うわあ。八柱くんってそっちかあ。』








俺は張り紙を横目に教室に入った。














♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


『アイダブルアス?』




『I wasだ、、、山下。』






ケイ先生と山下のやりとり。






ケイ先生も山下とやらに勉強させたいのか、ずっとこんな感じだ。


その度にケタケタ笑いが起きる。




俺の隣のポニーテールは、、


相変わらずゲーム三昧。










山下は泣き顔になっている。


丸められた紙を投げ付けられる。




前は山下だけだったが、俺もだ。


丸められた紙を広げると例のコラが描かれていた。






退屈だ。


学校をしばらくサボろう。




隣人を見る。


舌打ちしながら、ゲームをやっている。


こういう感情の吐き出しの方がまだ健康的なような気がする。






そうだな、オンラインゲームをやるのも悪くないか。












♦︎♦︎♦︎♦︎


〜山下さん〜






『えっと、、八柱と山下は放課後、職員室に来るように。』






『はっはっは、山下また赤点かー。』




『ゲイくんと一緒とか、マジ大丈夫ー?性転換した方がいいんじゃーん?』








学校はLGBTの教育くらいしてほしいものだ。


品がない女たちだ。


山下はまた泣き顔になっていた。


























放課後になる。






職員室前には、山下が立っていた。






『な、ど、どうしたの?』




思わず間抜けな声を出す。






『ああ、いや、うん!補習仲間だから!一緒に死刑宣告されようと思って!』






山下の声も上ずっている。


お互い間抜けだ。








『補習か、、、』




致し方ないだろう。


オンラインゲーム三昧で若干引きこもり気味だったからな。








『えっと、じゃあ、職員室入ろうか。』






ハハハと笑いながら引き戸を引く。










『失礼します。えーと、鏑矢先生はいらっしゃいますか??』




『おー、ここだ。』








先生の机は少し入り口から離れていた。




まっすぐ進もうとする。








『おい、山下もこっちだ。』




先生の掛け声に反応したのか






『ひゃい!』






とまた、間抜けな声を出してパタパタと


小走りする。






山下はなんというか、天然?






『きゃっ!』






何もないところで転ぶ。






『痛っ、、、へへへ。』






座りながら気まずさを取り繕う為か、笑う。


スカートが捲れて下着が見えている。




『おーい、山下大丈夫か?』










先生の乾いた声がする。








『あ、はい!きゃあっ!』




『いや!何も見てないからっ!!』




山下がスカートで太ももを覆う。










『お前ら、、何やってんだ?』




『すみません、今行きます。』








我にかえり、山下に手を差し伸べる。




『・・・・っ、』








山下は気恥ずかしいのか、顔を伏せながらも


手を差し伸べる。




その手を引いて連れていく。








『お、お待たせしました。』






『おう。青いなあ。』






むせる。




『ご、御用はなんですか?』






絞り出した声で用件を聞く。










『ああ、、、お前らは明日から補習。クリア出来なければ夏休みも毎日補習。』










『マジっすか、、、』






『八柱はテストそのものをサボったからな。』






『・・・・・っ。』






山下の顔が引き攣っている。






『山下は・・・。その赤点だ。補習のテストをクリア出来なければ、留年だ。』






『ああ・・・。』






泣き顔になる。




よく泣き顔や困った顔を見せる子だ。








『とりあえずお前らはまあ、その頑張れ。私もせっかくの夏休みを、補習で潰したくないからな。』






















職員室を出る。








『その、、山下がんばろうな。』






声を掛けてみる。






『ひっ、、うわああん。』






驚きながら、泣く。


なんと器用な感情表現をするのだろうか。








『え、、ああごめん。お前もそういう感じか。』






たぶん俺が同性愛者である噂を引きずっているのだろう。








『ああ、、ごめんなさい、、その私なんか、、に関わっても、、その、、性転換はできないから!女でいいなら、その話してもらっても、、』






前言撤回。


ただのネガティブで天然な子だった。








『えっと、別に、、なんというか同性愛者かどうかは否定も肯定もしないけど、、まあ、あれじゃん?どっちもいけるパターンもあるからあまり思い込みはよくないと思うぞ!?』






『えーっ!!わ、私たちまだ知り合ったばかりだし、、でもいきなり手を繋がれて、下着も見せちゃって、、その!不束者ですが、よろしくお願いします!!』








ペコリと頭を下げる、山下。






『ああ、いやあ、なんかそうですか。まあ、補習仲間になったからには、クリアしないとな!特に山下は留年がかかって・・・。』






地雷を踏んでしまった。








『りゅうねん!いやああああああああああ!』








頭を抱えて、ヘドバンし始める。


キレの良いヘドバンだ。




青いショートヘアがわさわさ揺れる。


たわわな胸元も揺れる。




体全体を揺らしながら。


ゆさゆさ。












『あーっと、、そうならないようにがんばろうか。』






『は、そうだった。すみません、取り乱しました。』




『いや、いいんだが、、』






ヘドバンし過ぎたせいで、スカートがまたもや捲れていた。
















『いやああああああああああああ!!』










情緒が壊れている女の子だった。










♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


〜@kyoya〜






いつも楽しみにしている配信がある。


『はーい、キモオタのみんなこんにちは!@kyoyaだよー!!』




配信を見る。




投げ銭をしてみる。






『うわあ、投げ銭マジ引くわ。いくら?え?10万??』






@kyoyaは、ファンを蔑むキャラだが、さすがに10万の投げ銭はなかったようで、びっくりしていた。






『えーっとハシラさん?うわああ、マジ引くわ。投げ銭。』




ハシラさんとは俺のことだ。


























『はーい、キモオタのみんなこんにちは!』






@kyoyaの配信が始まった。




いつも通り10万の投げ銭を行う。








『あー、またハシラか。マジキモオタだな。』








罵声を浴びせつつ、赤いストレートヘアに異世界に出てきそうな村の娘のような服装でニヤついてるいる様子を見る。








今までのファンも従来通り投げ銭をしているが、


俺には及ばない。










『今日はオンラインゲーム配信だよー、キモオタども!私とゲームするのは、投げ銭ランク10位まで!!』






そう、投げ銭の数が多いほど、オンラインゲームで実際におしゃべりしながらゲームができる、交流の権利を得る。








『あーっ、あんたがハシラ?』




『あ、はい。うわあ、憧れの@kyoyaさんだ!!』




『うわっ、キモ。早くあんたを撃ち抜きたいわ。』




『いやいや、同じチームですよ。』




『ああ。まあ仕方ないわね、、せいぜい私の邪魔にだけはならないようにね!!』






FPSのゲームでチーム戦でドンパチする、シンプルなゲームだ。




ただリアルなのが、いわゆる瀕死状態のキャラを拷問したり、略奪したり、また裏切りも可能な人間不信になりそうなオプションがある。






見ぐるみ剥がされたキャラがずっと晒し者にされるなど、なんでもありなゲームだ。






そんなゲームだからか、


体調不良になる者も多いという。






そんなゲームを@kyoyaとできるのだ。


投げ銭の額はどんどん膨らんでいく。










『ふー!100キル!!』






@kyoyaのデジタルデータを汚したいという欲求があるのだろうか、ファンすらも裏切って襲いかかるが、全て返り討ちにする。






・@kyoyaたん、マジ強い。


・デジタルデータハアハア、萌える。


・おいらも撃ち抜かれたい






・絶対見ぐるみ剥がす


・@kyoyaたん犯したす


・あの生意気クソガキわからせたい










コメントは@kyoyaを擁護する?ようなものと、明らか誹謗中傷なもので別れていた。






『私を止める者はいないのよ!キモオタども!』








そう話す彼女はいつものあの彼女とは大違いだった。


























ゲーム配信が終わる。


さて、SNSを立ち上げて確認する。




ここ最近、俺が投げ銭で圧倒的に課金額が多く、贔屓しているからか、@kyoyaの書き込みに関するコメントは辛辣なものが多かった。






・金の亡者


・ハシラには股を開いたのか?


・ヤリマン








ひどいものだった。


こういったコメント1つ1つに@kyoyaは、反論をしていた。




しかし反論すれば、するほどアンチは湧いてくる。








ハシラの名前が出ることも増えてきた。








































今日も配信を見る。




『こんばんはキモオタども。』




いつもよりトーンが低い。






『私ね、アンチにすごい叩かれていて、ちょっと気が滅入りそうなの。だからね、やめてほしいんだ。ハシラさんのこともよく叩いているけども、、私も仕事として配信をやってるからさ。』










こういった誹謗中傷に耐性がある人はそんなにいない。










ただこういった懇願は悪手だ。


反応していると分かったアンチはもっと@kyoyaを叩くだろう。










その頃俺は彼女からDMで相談を受けることが増えていた。










『ハシラさん、こんにちは。実は折行ってご相談があります。最近、ハシラさん含め私への誹謗中傷コメントが増えており、気が滅入りそうです。ハシラさんは、投げ銭をかなりの額、いただいていてかなりの資産家かとお見受けします。こういったお願いをするのは申し訳ないのですが、


投げ銭に投資する分で私を助けて貰えませんか?』










あくまで自分の金でなく、アンチ対策の金をファンに払わせようとする。




ネット乞食、と言われても仕方ない。




ただここまで信頼してもらっているのだ。


金を出す分、交換条件を突きつけた。


































あれから1週間。






『ハシラさん、ありがとう。すっかりアンチもへったわ。お約束通り、お食事に行きましょう。場所は・・・。』








そんなDMが来ていた。


やはり有名配信者なのか、警戒していた。




食事場所は、ファーストフード店。


目の前には交番がある。




何かあったらすぐ駆け込めるようにか。


しかし有名配信者がファーストフード店だと目立たないだろうか??










秋葉原にあるファーストフード店。


目の前は交番で、ファーストフード店の2階部分は住宅が入っているいびつな建物だ。






俺は階段を降りて、ファーストフード店前で待つ。






交番に目をやる。


婦人警官が立っていて睨みをきかせている。


睨んでいなければ綺麗な顔立ちの婦人警官だ。


























『こんにちは!ハシラさん!』




『ああ、わあ!@kyoyaだ!ほんもの!』




『しー、しずかに、、私一応有名だからさ、、』




『ご、ごめん。』




『何食べようか?』




『じゃ、じゃあ、、』






セットものを頼むことにした。




@kyoyaは上はピンクい有名スポーツブランドジャージに下はGパンで、髪は腰までのロングヘアだった。一応有名人だから、サングラスをかけている。










うん、やっぱりそうだ。






俺の席の隣にいる、鯨井京芽だ。






普段はゲームばかりで、サラサラヘアはポニーテールでまとめている。






誰とも話さない分こうやって配信やオフで話すのだろう。






コミュ障ではないようだ。


コミュ障を疑った自分が愚かであった。








俺は俺で、敢えて八柱学園の制服で着てみた。






鯨井は気づいていないふりをしているのだろうか。








『いただきまーす。』




美味しそうにハンバーガーを頬張る京芽。






『美味しそうに、食べるんだね。』




『え?あー、ここのハンバーガー好きなの!毎日食べてんだけど、いつもはデリバリーサービス使ってるから、、、うーん、ポテトもカリカリぃ!』








頬に手を当てて堪能している。


学校ではツンケンしていて、配信では上から目線。




それとは別の人のようだった。




いや、これも演技なのか。












『はあ!食べたあ!それより、ハシラさん、ありがとうね!助かったわ!』




『いえ、、、』




『ハシラさんは高校生かしら?すごいね、高校生でアンチ対策できて、お金もあって、、』




『ま、まあ・・・。それより、これ食べる?』






俺のハンバーガーを差し出す。


















『ホント?わーい!!うーん、美味しい!!あれ?何の話だっけ??』




『いや、まあ。お金にはあんまり困ってないからさ。それより、@kyoyaさんもかなりお若いですよね。すごいな、若いのに、、、』




『え?私っていくつに見える?』




『同い年くらいかな?』




『へえ、、、そう。あ!ポテトももらっていいかしら?』




『はい、どうぞ。』






もしゃもしゃとポテトを食べていく。


微妙に核心に触れられようとすると食べ物ににげる。












『ふー!!食べた!ご馳走様でした!!』






『あ、あのさ。@kyoyaさんって完全にフリーでやってるの?』




『うん、そうだよ?なんで?』




『いやね、アンチ対策が少し危うさを感じてさ。どこかの事務所入ってたら、その辺の対策がさ、、、』




『事務所ね。うーん、そうなの。ちょっと今回は相談できる相手がいなくて困ったの。ごめんね、巻き込んでしまって。』




『あ、いや。全然。そういう筋が通ってない奴らに示しつけんのは得意だから。』






京芽はぷっと、吹き出す。






『あはははは!なんだか、ハシラさんってあれみたいだね!ほら、ヤクザゲームに出てきそうな言葉使う!』




『ああ、、よく出来てるよね、あのゲーム。』




『そうなの?私、ヤクザとかよくわからない。そういう映画も見ないし。』




『ああ、、俺もあんまり見ないよ。』




『そうなんだ。何の話だっけ?ああそうそう、アンチ対策凄かったよね。何をしたの??』




『ああまあ、、、』












『次のニュースです。』






ファーストフード店にあるテレビにふと眼をやる。








『昨夜、東京湾沖で5体の遺体が見つかりました。いずれも、コンクリートのようなものに覆われており・・・。』






『うわ!怖いねえ。なんだか最近物騒よね、、渋谷の方ではチンピラの喧嘩が多いって聞くし。』








京芽はコロコロと話題が変わっていく。


テレビを見る京芽をじっと見る。






鼻筋は整っており、目は大きい。


顔立ちは美人だ。






体つきは幼さが残るが、それもまた一興。












『あのさ、@kyoyaさんさ、その俺でよければその辺の対策とかもできるし、、どうかな?マネージャーとして関わらせてもらえないかな?』




『え?あー、マネージャーね。』




『はじめましてで、信じられないかもだけど、、よければ。』






『まあ、、そうね。お金はまあ、出せるわね。』




『うん。』




『何で私のマネージャーになりたいの?』




『ああ、いや、イチファンとしてはもっとさ、有名になってテレビとかにさ出てほしいんだよ。』






『テレビね、、、』




『うん、絶対、テレビ映えするし!それに、なんというかイチファンで応援するよか、こうやって契約関係があったほうが会えるし、、、』






『ふーん、そこまでして会いたいんだ。』






少し鯨井は顔を赤くしている。








『うん。会いたい。』






真っ直ぐにそう伝えた。








〜京〜








『はあ!今日も疲れたあ。』




山下さんは、体全身を使い伸びる。


ぽよんと胸元が揺れる。








『なんとかなりそうだね。』




『うん、ありがとう、ケイくん。』








気がつくと下の名前で呼ばれるようになった。




毎日補習を受けて、山下さんがわからないところ(=ほとんどだが)を近くの喫茶店でレクチャーすることにしている。








山下さんは相当勉強ができない感じだったが、だいぶ仕上がった。




これなら補習をクリアできる。










『いやあ、でもあれだねえ。ケイ君にはすっかりお世話になってしまったね。何かお礼をしてあげないとかなあ!?』




山下さんは、とろけそうな顔をしながらアイスカフェラテを飲む。




唇からアイスカフェラテが一粒溢れて、


胸元にシミができる。






今日は藍色の下着か。






『お礼ね・・・。』




『うん、お礼。あっ!エッチなお願いとかダメだからっ!!』








両肩を抱きしめるようにして、こちらを見る。




山下さんの中で俺はそんな感じか。








『あ、でも、、、ケイくんは男の人が好きなんだっけ。うん。じゃあ、そんなお願いはしないか。』






ぽんと拳で手のひらを叩く。








『あ、まあ、どっちでもいいんだけど、、うーん、そうだなあ。』






『あ、でも次の土曜日はダメかも。お料理教室行くから。』




『山下さん、お料理教室なんて行くのか。』




『うん、お姉ちゃんが夜勤でよく帰ってくるんだけど、、、悩んでいるみたいでさ。美味しいもの作ってあげたいんだよね。』






『へえ。お姉さん思いだね。』






『そうでしょ?えっへん!』








また胸を張る。


ボタンが弾けそうだ。








『したらさ、山下さんの手料理。俺が味見したいかな。』




『え?いや、あの、ええっ!!』




『む、無理ならいいよ。』




『ううん、いいよ・・・じゃあウチ来る?』












かくして日曜日。


山下さんの家に行くことになった。










♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


〜京華〜




『いらっしゃい。ケイくん。』




『お、お邪魔します。』






山下さんの家は戸建でお姉さんと


2人暮らしらしい。






『お姉さんはいないの?』




『ううん、今飲み物買いに行ってる。あ!ケイくん、私と2人だと思って、ちょっとエッチなこと考えたでしょ!?そういうのはダメだからね!』






エプロン姿の山下さんは、人差し指をピッと出す。








『あ、ごめん。ケイ君は、男の人が、、、』




あわあわする、山下さん。




『あーもうなんでもいいです。』




俺は半べそをかく。






『どうぞー!リビングに椅子あるから!そこかけていて!』




『あー、はい、お邪魔します。』








山下さんは、料理をしている。




たぶんこの匂いは、ハンバーグだ。








『後少しで、できるから。』




チラリと台所を見る。








調味料が散乱し、なんかが焦げたものが、シンクの三角コーナーに乱雑に捨てられている。




キッチンもオイスターソースがあちらこちらに散乱している。
















『んっしょ、んっしょ。』






たぶん料理は不慣れなのだろう。


お姉さんに食べさせたいから、料理教室に行っているとは言っていたが、だとしたら相当学習能力はなさそうだ。










『ただいまー。』






明るいが落ち着きのある声が玄関からした。










『あら、あなたがケイくん?』








青髪のロングヘア。


体型は姉妹揃って魅惑的だ。


姉妹揃って美人。






大人の魅力がある、山下さんといった感じだ。




「こ、こんにちは。」


「京がいつもお世話になっています。山下京華です。」


「いえ。。。」



京。

山下さんの下の名前だ。


山下さんの目は少しパンダ目だが、お姉さんの方も同じだ。



「はい、これね。京、お姉さん少し夜勤明けで眠くて・・・少し休んでいていいかしら。」


「ああうん、いいよ。」


お姉さんとすれ違う。



お姉さんはすれ違いざまにこう伝えた。


「ここ1週間ずっと、あなたが来るからって京、料理を練習していたのよ。うふふ、わが妹ながら

けなげだわ。」



山下さんに聞こえないように耳打ちするように伝えてきた。

山下さんのお姉さんはお風呂上りなのだろうか、

石鹸のにおいが俺の胸をチクンとつつくようだった。



山下さんの健気さより、お風呂上りの石鹸のにおい。


そのにおいとお姉さんの吐息だけが俺の頭の中をまとわりつかせていた。




「ケイくん??」



「ああ・・・うん。どうしたの?」



「ハンバーグ・・・できたから食べよ?」


「そうだね・・・・」




テーブルには、ごはんと味噌汁、ハンバーグが乗っかっていた。



「「いただきます。」」



一口ハンバーグに口をつける。



「ど・・・・どうかな??」




咀嚼して、白飯をかきこむ。





「おいしいね。」


「よかったあ・・・・ちょっと不安だったの。」



そうハンバーグはおいしい。

おそらく、この食事を済ませれば食欲は満たされるだろう。






ただ・・・・・




「ここ1週間ずっと、あなたが来るからって京、料理を練習していたのよ。うふふ、わが妹ながら

けなげだわ。」







その囁くような声。

吐息。

俺の嗅覚を支配し続ける石鹸のにおい。




この山下さんが作ってくれたハンバーグで

その記憶をかみ切るように咀嚼し、お米と味噌汁で口内を味覚で支配し、

思考もすべてそこに流し込もうとしたが、なぜか・・・・・




(味がわからない・・・・)



そのくらい、、

俺は京華さんに食らいつきたくなっていた。














「ご馳走様でした。」


「あの・・・・ケイくん。私の部屋来る??」



「ああ・・・うん。」



山下さんは俺を部屋に招き入れた。





山下さんの部屋はベッドにぬいぐるみが2,3体あり、青を基調とした涼し気な色合いの部屋だった。



俺は床に腰掛ける。




山下さんもちょこんと、部屋にあるテーブルの近くに腰かけた。




山下さんを一瞥する。

手を口元に当てながら、明らかに目が泳いでいる。


顔もほんのり赤い。




「な・・・なんかこう部屋に二人だけだと、、緊張するな。」


「そ・・・・そうだね。。。あ!!エッチなこと考えているでしょ??だめだからね!!」



部屋にあげておいて・・・と思春期の男子なら考えるだろう。

ただ飯食って、部屋にあがったくらいで・・・そんな展開は考えていない。



「べ・・・・別にそんなこと考えていないよ。」


「本当??」


「ああ・・・・そういうのはさ。大切にしたい人には・・・・特に。」



「ふぁ!!!?」



山下さんは変な声をあげる。

そう大切にしなくてはならない。

きわめて重要に相手に嫌われないように。

そうでなければ隙は訪れないから。




「ふ・・・ふーん、そうやって。。。いろんな女の子くどく・・・・あ・・・ケイくんは

男の人が好き・・・なんだっけ・・・・」



「まあ・・・・うーん、どうだかね。ほら、好きに男も女もないと思うよ?」




「え・・・!?ああ・・・同性愛ではなく、両刀な感じか・・・」


「いや、、、まあ。。。。」



俺は否定とも肯定とも取れない返事をする。



「なんだかごめん。この手の話しは・・・あれだよね・・・」


「ああいや、そういうことではないんだ。なんというか・・・・俺の初恋の話をしてもいいかな??」


「え!!ああうん。いいね、恋バナしようよ!!!私、お茶いれてくるね。」




かくして山下さんと、俺の初恋について話をすることになった。




〜きょうくん〜



『きょうくん、今日は何して遊ぶの?』


『ひゃっこいからなあ。うちのこたつでゲームでもすっか。』



きょうくんとこたつに包まりながらゲームをする。




『そういや、きょうくん。先月貸した1000円いつ返してくれんの?』


『あ、ああ。バイトすっからさ、したら返すよ。』


『まあいいけど。』


『かあちゃんには内緒にしていてくれよ。』


『うん、大丈夫。』





きょうくんはうちの養子になった人だ。

一年中金がないない言っているが、バイトや仕事をするわけでなく、プラプラしている。




だけど一回り年齢が違うからか、いろいろな遊びを知っていて退屈しない。




過ごす時間も増えて当然距離も近くなって。

戸籍の上では、家族だけど俺にとっては憧れの人だった。







『今はどうしてるの?』


『さあ。突然居なくなってしまったからなあ。』


『それは、、、悲しいね。』


『うん。だから探している。』


『そんなに、、、好きなんだ。』


『好きね、、、会いたい。とても。』


『じゃあ、、、、』



山下さんは唾を飲み込む。




『私はケイ君にとっての、、きょうくんには、、慣れないのかな??』





そう話した山下さんは顔を真っ赤にしている。




『山下さんが、、俺にとっての??』


『うん。』


山下さんは両手で顔を覆う。





『どうしたの!?』


『だ、、、だって、、こんなこと、他の人に伝えたことないから!!』


『そうだよね。』


『だ、だからね、、恥ずかしいの!!』


『恥ずかしい・・・?そうなんだ。』


『〜〜〜〜〜っ!!!』



山下さんはテーブルに額を打ち付ける。

ガンガンと。





『あ〜〜〜〜〜!!もう!冗談だから!!嘘嘘嘘!』


『そ、そうか。』




気味の悪い冗談だった。




『なし崩し的にオッケーされて、ヤラれちゃうとこだった!!忘れてた!ケイ君は両刀だから、こんな密室になってオオカミさんになられてもね!!ふーんだ!!』



『ああ。うん。』


『やめよ、恋バナ。そうだね。あ、そろそろ夕飯の時間!作らなきゃだなあ!』


『ああ、ごめん。気づかなくて。』


『ううーん!?もしかして私の手料理また食べたい感じぃぃ?!べーつにー!!いいけどぉ!!』



『あ、いや。お暇するよ。お姉さんの為に作ってあげて。』


『あー・・・そうだね。』



山下さんは耳が垂れたウサギのように落ち込んでいるように見える。






部屋を出て、玄関で靴を履く。




『そういやさ。』


『うーん!?何かね!ケイくんよ!』


『あー、お姉さん夜勤って言ってたけどさ。何の仕事してんの?』



『え?ああ、うん。秋葉原の交番でさ。警官やってるよ。』


『そうなんだ。大変そうだね。あ、、』




それだけ伝えて帰ろうとした時、伝え忘れた事があった。



『えっと、、、また手料理、、作ってほしいかな。食べに来るね。』



そういうと、山下さんは耳をぴーんとたてたウサギのように元気になった。






『うん!また、誘うね!ケイくん!!』



その笑顔に後髪を引かれる思いをしながら、俺は玄関を閉めた。




た。









♦♦♦♦♦♦


~京弥~


「打ち合わせは、2時から。場所はうちでいいわ。」



京芽からそうチャットが来たのが1時。



「ずいぶんと人使いの荒い、配信者様だな。」


チャットを閉じる。



京弥の家は、どうやら六本木のタワーマンションのようだ。



タワマンの前に立つ。マンションの中を遠目で見ると、

コンシェルジュがいて、

応接室のようなものまである。


「場違いのような気がするが・・・・しかし配信者というのは儲かるんだな。」


1回の配信で俺も10万円ほど投げ銭しているが、

とうぜんそれ以外の視聴者も彼女に投げ銭をしているのだ。




インターフォンを鳴らす。


「はーい、ああ、ハシラね。入って頂戴。」



マネージャーとして雇われの身になったのだ。


京芽が雇用主、俺は従業員。


呼び方も砕けた感じになっていた。





タワマンの最上階に居を構える京芽は、一人暮らし・・・・ではないだろう。



おそらく最上階以外は全20室くらいあるはずだが、

このフロアだけ1室だ。



「めちゃくちゃ金持ちだな。」



するとフロアにあるスピーカーから声が聞こえてきた。



「鍵開けたから入って頂戴。」



あたりを見わたすとセンサーのようなものが置かれていた。




1部屋だからこそこうやって来訪者の管理ができるのか。




「家賃・・・・いくらなんだろうか。」




ドアノブを開ける。




「いらっしゃい、、、ちょっと同居人が寝ているから少し静かにね。」



「ああ、わかりました。」



同居人という呼び名はどことなくよそよそしさを感じる。





リビングに通される。





東京中いや、富士山まで見渡せるくらいの高さだ。

一面ガラス張りの部屋に高級そうな革張りのソファに、透明なテーブル。




「えっと・・・・ここ座って頂戴。」


「はい。。。」


「何か飲む?」


「いいえ・・・時間もないので。さっそく来週のリアルイベントの打ち合わせをしましょう。」


「え?今日予定あるの?」


「あ、いや。あんまり長居してもよくないと思いまして、、、」


「ああ・・・別にいいわよ。あんたなら。」



「はあ・・・・・」



京芽は少しうつむいている。



「ではお構いなく、打ち合わせしましょう。」















「@kyoyaさん、そろそろ打ち合わせしません??」


「まだまだよ!!あたしが勝つまで!!」



京芽と俺はずっとレースゲームをしていた。

彼女はFPSは得意だが、この手のゲームは苦手なようだった。




「イベントはもうすぐですよ?なにもコンテンツ考えないでいくなんて。。。」


「いいのよ!!ビンゴ大会とかやっていればなんとかなるわ。それに最悪あたしが水着になれば、

キモオタどもはそれだけで金出すから!!」




さらりとすごいことを言っているが、こういう界隈なのだろう。

結局人気商売。

若いうちしかできない仕事だ。



「と・・・ところで・・・同居人というのは・・?」


「うん?ああ・・・あたしのお姉ちゃんのことよ、何?彼氏とかいるとでも思った??

気になっちゃったの??」



京芽がゲームを止めてこちらに身を乗り出してくる。



京芽がソファに座っている俺に覆いかぶさらんとするくらいの角度で。



京芽のにおい。

吐息。

瞳。



すべてが俺の脳内を駆け巡る。



「@kyoyaさん、、こういうのは・・・」


「ねえ。お姉ちゃんがいる前でそういうのはやめてほしいんだけど。せめて部屋でやってくんない?」





ひときわダルそうな声が後方からする。


だらんとした、タンクトップからは赤のブラジャーが見える。

京芽と違い、凹凸がしっかりした体つきだ。

寝起きだが、髪はそこまで乱れておらず京芽とは違い、黒髪のロングヘアで前髪はしっかり切りそろっている。


お堅い仕事なのだろうか。

タンクトップの下は赤の下着というこれまた思春期の男の子には目によくない恰好だった。



一瞬にして、脳内のそういう欲求がその女性へと置き換わる感覚。




「お姉ちゃん!!来客時はパジャマで出てこないでっていったじゃない!!」


「いや・・・なんか、、妹がそんなアダルトなことしていたら保護者としては見過ごせなくてね。」


「ほら!ハシラ見ないの!!ダメだから!!」



京芽は後ろから俺の目を両手で隠す。

控えめな胸がちょんと俺の背中にあたる。




「はいはい、すぐ着替えるからさ。」




絹すれの音がする。



「はい、はじめまして。あなたが@kyoyaのマネジャー?」


手がどかされる。



パーカーにGパン。


京芽の服装とは違いボーイッシュな感じ。


それと釣り合っていない体型と髪型がまたたまらなく男心をくすぐる。



「はじめまして、姉の京弥です。」










すこし見とれてしまった。

「お姉ちゃんはね、八柱学園付属病院で看護師をやっているの。」


「へえ・・・・」



看護師か。

ナース服に身を包む京弥さんを想像する。



「具合とか悪くなったらすぐ私にいいなさい。お姉ちゃん、病院でツテがあるからすぐお医者さんにかかれるよ。」


「やめてよ。ツテでもなんでもないんだから。」


「えー?そうなの?お医者さんと仲がいいから・・・」


「まあ・・・・それなりにね。」




あまり触れてほしくなさそうだ。



「ハシラ!あんたは私のマネージャーなんだから体調管理はしっかりね。具合悪くしたらすぐいうこと!!」


「は・・・はい。」





京芽は本来的にやはりツンツンしているのが本性なのだろう。



「ふわあ・・・・あたしはまだ寝るから。じゃあ、ハシラさん、そういうことで、、あ・・・」




くるりと振り返る。

そして耳打ちする。




「@kyoyaは処女だからさ、、大切にしてやってよね。」




心臓から一気に血が全身にめぐる。


処女というワードと、

お姉さんのにおいと吐息とパーカーから見えた胸元と。




「な・・・何はなしてんのよ!お姉ちゃん!!ハシラあとで報告!!」


「なんでもないわよ。妹をよろしくねって・・・・お姉ちゃんがそう伝えただけよ。」



「絶対嘘!だって、なんかハシラの顔赤くなってるし!!」






お姉さんは京芽に見えないようにウィンクをしながら口元で

「またね。」と形を作り去っていった。




「さ・・・打ち合わせするわよ!!」




京芽はドカッとソファに座りなおす。





リビングルームには甘ったるい匂いだけが充満しているような気がした。





♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


〜京華〜



『おい、山下あ!!チンピラどもがまた現れたらしいぞ!!ちょっと取り締まり行くぞ!』



巡査部長に言われて、夜勤中に食べようと思っていたコンビニで買った唐揚げ弁当をしまう。



『山下、またコンビニ弁当か。ただでさえ不規則な仕事なんだから、肌荒れるぞ。』



余計なお世話だ。

この巡査部長は、警官のくせに腹がだぶっとしており、勤務中はお構いなしにニンニク系のどんぶりものを食すモラルのない男だ。



未だ警察というと男が多い。

男が多いのは構わないが、ときめきがないのだ。

配属ガチャだろうか。



同期の婦警は同僚と結婚したのが多い。

それだけ良き出会いがあったのだろう。




しかしどうだろうか?

セクハラにモラハラにスメハラの巡査部長、他もときめきとはほど遠い男たち。




先日、家に来たケイくんをふと思い出す。

高校生として、男としてはウブな年齢かと思ったが、銀髪にすらっとした出立ち。

一瞬ウブな感じを出しつつも、なんだか危うさを見にまとっている感じだった。



余裕があるという感じであった。


修羅場を乗り越えてきた男の余裕。




そんなものを感じた。

警官をやっているといろんな人に会うが、

闇を背負っているというか、、そこに何かセクシーさを感じてしまう。




基本的にそういう男が好きなのかもしれない。

だとしたら、職場恋愛なんてそもそも無理だ。

警察官で闇を背負うオーラを出すのは仕事柄あまりよろしくない。






『うら!てめぇ!ぶっ殺すぞ!!』



チンピラ達が殴りあいの喧嘩をしている。

ここいらは、例の組が仕切っていたからこんな事はなかったのに。



『いやあー3代目が射殺されたのはきつかったわな。』



巡査部長が頭をかきながらチンピラの喧嘩をみる。




そう、あるギャングというか、ヤクザというか、その集団がこの辺はにらみをきかせていた。


だから、今までこんなチンピラの喧嘩なんてそうそうなかったのだ。




しかしそのボスが2ヶ月前に射殺された。

4代目はまだ若いという。

うまく組を仕切れてないのか、こういうチンピラがのさばるようになってしまった。



チンピラの喧嘩は署にいる刑事らが取り押さえる最中だった。


ウチらはあくまで周辺住民の警護。




『ああー終わったみたいだな。ほら、みろ。』



巡査部長が指さす。


刑事ともう1人。

トレンチコートを来た男性が現れて、チンピラが争いをやめる。



何者だろうか。


刑事とその男性が少し話していた。





『ったく、何もねえなら呼ぶなよな。』


巡査部長が毒づいている。

それがうちらの仕事なんだから仕方ないだろうと皮肉でも言ってやりたかった。



そんな小言を話す余裕がなくなるくらい。

トレンチコートの男性の顔を見た瞬間、

凍りついた。

















『ケイ・・・くん??』



♦︎♦︎♦︎


〜ケイの憂鬱〜


『どうぞ。』


『はい、失礼します。』


『失礼しやす、坊ちゃんがいつも世話んなってます!!』


『おじき、硬いよ。すみません、先生。』


『ああ、八柱くんの親御さんは・・・ああ、そうか。いや、全然。』


補習を終え、他の人より遅れた3者面談。


鏑矢先生とおじきと俺だ。



『うーんと、どうだい?八柱くん、学校は慣れたかな??』


『ああ、慣れました。ちょっと困っている事があって、、、』



しまった。

おじきが懐に手を入れている。



『ちょっと人払いをしたいのですが、、』


『?3者面談なのだが、、、』


『坊ちゃんが望むなら。』


『うーん、まあいいか。進路の話の時は戻ってきてくださいね。』


『御意。』





おじきが教室から出る。


『しかし、八柱くんの保護者はなかなかパンチが効いてるね。』


『先生、それ生徒に言います?』



そういうとケイ先生はハハッと笑った。




『そうだね、失礼しました。それで?何に悩んでる?』


先生は机に身を乗り出す。


フワッと艶やかな匂いがする。




『えっと、、まあ学校関係ちゃ、関係なんすけど、、、会いたくて会いたくて堪らなかった人に再会したとして先生はどうします?』


『おや、恋バナかな?』


『・・・・。』


『うむ。そうだなあ。距離感にもよるけども、、

まずは距離を縮めるところからかなあ。相手が自分のことをどう思っているかも大事だし。』


『そうですか、、、』


『ふむ。相手が嫌なら、引くしね。』


『相手が嫌だと思ってなかったら?』



そう聞くと先生は、

両手を重ねて机に肘を立てた。

顎を両手に乗せる。


流すような目でこちらを見る。





『その時はさ、行くところまでいくさ。』





心臓から全身に一気に血液が流れるような感覚に襲われる。

そう語る先生の口元は妙に湿っぽかった。





話を変えよう。





『そ、そうですか。ありがとうございます。こんな相談ですみません。もう1ついいですか?』


『なんだい?』



先生は足を組む。

思わず一瞥する。

スラッとした足。




『えっと、、ジェンダーってなんでしょうね?』



『・・・それは、、掲示板に貼られていた、キミの噂に関係しているのかい?』



『・・・・。』


『そうだね、、基本的に同性愛だとかトランスだとか、そういうもので恋愛は測れない。好きになったら関係ない。男も女も。そうなる時が先生もあったからね。そういう立場だよ。』



『あ、ありがとうございます。』



先生も、というところには敢えて触れないでおこう。





『懐かしいな・・・。』


『はい?』


『いやね、その時恋をしていた人に、キミが似ていてね。ああでも、当然キミではないよ。なんてたって、苗字が違うからね。八柱という苗字ではなかったさ。』


『そう・・・ですか。』


『うん。恋というのはえてして甘酸っぱいのさ。苦い思い出があっても、振り返ると甘酸っぱい。』


『はあ・・・。』



『キミもそういう経験がないかい?』





『俺の恋は・・・・。』



唾を飲み込む。








『甘酸っぱいから、苦い、、に変わりました。』














『坊ちゃん、なんの話したんですかい?』



おじきが帰り道に聞く。



『はあ、、坊ちゃんね。』



『は、失礼しやした。』


『いいんだよ、飯田。親父に代わり育ててくれたからな。はあ。そうそう、話ってのは、、例の目的についてのヒントだよ。』


『そうですかい。でも、なんで担任なんかに。』



『担任だから話したんじゃないよ。鏑矢先生だから話したんだ。懐かしいんだよ、なんとなく。なんでも話せてしまう。』



『そりゃあ、教師冥利に尽きそうですな。』


『どうだろうね。思わぬ綻びが、、いや、ないか。』


『坊ちゃん明日は?』


『ああ明日は、、、そうだね。俺の恋が本物か、、少し歩みを進めるよ。ゴホゴホ。』


『ああ坊ちゃん。』





飯田がニヤリと笑う。




『わざとらしい咳ですな。』





♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

〜京弥〜



『はい、特に熱はないですし、風邪ですかね。』



医師は薬を処方した。

ここは八柱学園系列の私立病院だ。

大層な病院で、紹介状が無ければ普通は診察を受けられない。




『お大事に。』



フワリと匂う艶やかな匂い。

『京弥さん、ありがとうございました。これ。』


『何かしら?ふふ、お礼なんていらないのに。』




俺はすぐに取り次いでくれた京弥さんに

昼ごはんをご馳走するという紙とチャットアプリのアカウントを教えた。












『ハシラ?風邪なの?』


京芽との打ち合わせ。

俺はマスクをし、咳こんでいた。




『すみません、ちょっと風邪ひいちゃって・・・。』


『ああもう!わかったわ!すぐにお姉ちゃんに頼んだげる!』




京芽はその場で姉に電話し、

診察の段取りをつけた。



この病院で診てくれた内科医は業界でも有名で

この医師の診察を受けたいという人は後を絶たない。



にも関わらず、即日で診察を受けることができた。







診察室を後にする。

ドアを閉める時に微かに聞こえたのは粘膜と粘膜がねちゃねちゃと重なる音だった。













『京弥さん、ありがとうございます。』


『いいのよ、でもキミも律儀ね。』



病院の食堂。

スラリとした体に似合わず、俺が奢ったカツ丼を瞬く間に平らげていた。



『ふー!美味しかった!』


京弥さんの口元には米粒が1つついていた。

伝えるべきか否か。




『看護師ってね、結構大変なのよ。体力も気力も。ハシラくんが、奢ってくれたカツ丼で午後も乗り切れそうよ。』



机に肘を立て、顎を手にのせる。

前屈みでも胸元が豊かなのがわかる。



『すみません、このくらいしか出来なくて。』


『ううん、でも、食べ足りないかなあ。』


『えっ!まだ食べるんですか?』


『うーん、今はいいかなあ。』



脚を組み直す。

食堂の窓から景色を眺める、京弥さん。

横顔も整っている。




『そういや、ハシラくんはこの街にずっと住んでるのかしら?』


『いえ、最近越してきました。どうしてですか?』


『ああ、妹、ずっと1人で配信やってて、ビジネスパートナーが出来たのずいぶん唐突だったからね。この街にはいなかった人なんじゃないかなって。』


『ああ、そうですか。』



結えた髪を解く。




『私、夜勤明けだから、もう退勤なの。』


『ああ、、はい、、』



ジロりと見上げるように見られる。

米粒が付いている。

心臓が早くなる。



『その、、京弥さんはずっとこの街で?』


雰囲気に飲まれないように、会話の主導権を握ろうと努めた。



『ああ、うーん、なんで?』


『いや、そのあまり京芽さんと似てないなって。だから、生まれとか、、』


『あら?妹の本名話したかしら?』


『あ、、、いや、、、』



『八柱学園の学生さんよね?ハシラくん。』


『え?』


『妹はそこだけだもの。本名晒してるコミュニティ。』


『は、、はあ。』


『ふふ、妹には内緒にしてあげる。とは言っても気づいてるかもだけど。』



どうも京弥さんは隙がない。

ならば。





『あの!京弥さん、ほっぺたに米粒が、、』


『知ってる。』


『え?』


『知ってるわ、そんなこと。』




京弥さんがまた上目遣いでこちらを見る。









『取ってよ、ハシラくん?』





頭をガンと殴られたような衝撃。

胸を抉るような刺激。






『え、、、?』


『だからさ。米粒。取って。』


『いや、流石にそれは、、、』


京弥さんは顔をグッと近づける。




唇が触れそうだ。



『ほら、口で取れるでしょ?』


思わず手が動き、手で米粒を取った。




血が全身にドクドクと巡る。

息が上がっている。


目の前には舌なめずりをして、

恍惚とした表情をした、京弥さんが笑って座っていた。





『私、、、夜勤明けだから。まだご飯食べたいの。』



これは、、

そういうことか。

ああ、あの医師もこうやって、

心も体も鷲掴みにされているということか。





















♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


『ねえ、ケイくん。』


京弥は鏡を見て、

紅いリップを唇に走らせている。


俺は眠気眼を擦り、唸るように返事をした。



髪をくしで丁寧にといている。

黒いロングヘアのお手入れは大変そうだ。




『ケイくんは、どうしてこの街に来たの?』


髪をとき終えて、京弥はGパンを履く。




『俺ですか?俺は、、、ある人に会いにきました。』


『ある人?』


『俺、施設出身で、、昔お世話になった人がいて、、、会いたくて。』


『そう、、その人には会えたの?』


『まだ、、会えてないです。』


『そうなんだ。名前はわからないのかな?』



京弥は背中に手を回しホックをしめた。




『ええ。名前ですか、、、名前はうろ覚えなんですが、、きょうくん、と呼んでました。』




京弥の動きが一瞬止まる。

しかしそのまま、肌着を身につけて、白いニットに身を包んだ。




『へえ・・・その人は大切な人?』


『大切、、会いたいです。けじめをつけてもらわないと。』



『なんだか、、けじめってヤクザ映画の見過ぎかしら?』




そういうと、俺に覆い被さってくる。



『そんなに会いたいって思ってもらえるなんて、、ちょっと妬けちゃうな。』



『そんな、、、、俺!京弥さんなら、いつでも、、』


京弥さんは人差し指を俺の唇にあてる。






『私は、、汚れた女よ。』


そのわけを俺は知っている。

診察室から聞こえた粘膜を交わらせるあの音。

早すぎる診察予約。




『じゃあ、、その汚れ、俺が引き受けます。いつでも垢を落としに来てください。』



目をパチくりさせる、京弥。

すぐに恍惚とした表情になる。

そのまま口内が京弥の匂いで満たされた。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

〜京〜


学校に行く。

ここ最近は、京と待ち合わせして学校に行くことが多かったのだが、今日は早めに行くからと連絡があった。




教室に入る。

まだ早い時間帯で、誰もいないはず。




だが、、、





『わっ、わああああ!!』


下着姿になり、ジャージに着替えていた、京がいた。





『あっ、ああ!ご、ごめん!!』


思わず扉を閉めた。














『へへ、ごめんね、こんな朝早くから着替えてるなんて思わないよね。』


『ああいや、悪い。』


京は明るく、いつも通りだ。



しかし。

髪が濡れている。

しかも、少し石鹸のにおいの中に、微かにだが、ドブ臭さが混じっている。普通にしていたらわからないくらいに。




『おはよーす。』



俺が振った女とその取り巻きだ。

チラりとこちらを見ると僅かに口角を上げていた。



『へへ、おはよう。』


京は笑ってそいつらに挨拶をしていた。

そう笑っていた。


もしかしたら泣いていたのかもしれない。




『あら?山下さん、体育は4限じゃなくて?』


『ああ私着替えるの遅いから、早めにね。』


『ふーん、たしかにあなた色々抜けてるものね。』


『ふ、ふにゅ。そうだね。』



とりまきがケタケタ笑う。


ああそうですか。







『そういや、京。今週の土曜日、家行っていいか??』


『え!?いや、ケイくん、そういう話は・・・。』



『カレーがいいな、今度は。お前の部屋にあるボードゲームもやってみたいわ。』




京と敢えて呼ぶ。




すると俺が振った女の形相はみるみる鬼のようになっていった。





『ふ、ふーん、仲いいじゃない。でも、山下さん、土曜日は私らと遊ぶ予定でしょ?』



『は?京は俺と会う予定なんだ。遊ぶ予定なんてズラしてくれ。』


『・・・・っ。』



惚れた弱みだろうか。

山下さんへの逆恨みだろうか。



何も言い返せないでいると、、、






『そこ。私の席なんだけど。』



京芽の席に座っていた、俺はどかされた。






『はーい、授業始めるよ。』



鏑矢先生の一言が場を収めてくれた。






♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

〜京芽〜



『アンタさ、今日手当払うから泊まりで作業していきなさいよ。』


眠気眼を擦りながら、起きる。



京芽の一際大きい声が聞こえてきた。



寝室からケイくんと京芽のやりとりを見る。



『え?いや、そんなに打ち合わせることありましたっけ??』


『で・・・出てきそうなのよ!めちゃくちゃ投げ銭貰えそうなアイデアが!!』




我が妹は大丈夫だろうか。


『あ、、そうですか、、しかし、、』


『お姉ちゃんには言っておくから!あ、いや、今日夜勤か!!』



妹よ、私は今日は夜勤でなくなったのだ。



『それじゃ2人じゃないすか、、それは流石に。』


『な、なに考えてんのよ!仕事よ!仕事なんだからね!!あ、後、定期的に夜勤業務あるから!!』



気が触れたのだろうか。

でも。


ケイ君が一晩中いる日が増えるなら、、

節約になるかしら。





♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

〜京〜



ドキドキしてしまった。




『京』と呼ばれたこと。

私を守ってくれたこと。



『これって・・・私のこと大事だからよね!』



舞いあがる。

お姉ちゃんのいない土曜日の朝。


ケイ君に会える。

どんな顔して会えばいいかな。



『な、名前で呼ぶってことは・・・』




キャッ、キャッと騒いでしまう。


お姉ちゃん、今日夜勤だから明日の朝ごはんなんか作ってあげようかな。


夜勤明けは疲れてるから、そうだカレー!

一晩中煮込んだカレーは美味しいはず!



冷蔵庫を開ける。

材料は揃っている。

にんじんの皮を剥き、じゃがいもを切り、

お米に水を入れて炊飯器セット!



玉ねぎ切らなきゃね。


お肉は、豚こまを使おう。




玉ねぎを少し切る。


目が沁みるけど、気にしない。



『ふん♪ふん♪』



だって、今とってもご機嫌だもの。

あの女子たちにいじめられていても、

きっと私の王子様が守ってくれるから♪










ピンポーン。




『誰だろう?』



誰でもいい。

何があっても、私は大丈夫♪



ガチャ。










『ずいぶん不用心だね、アンタ。』



いたのはいじめっ子と数人の男らだった。




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


〜ケイの憂鬱〜


『やあ、悩みとはなんだい?』


相手は話出した。



『ふむ、、そうかい。それは大変だったね。でもさそれは、キミの脇の甘さもあったような気がするんだよ。』



また面倒なことを。



『そりゃあ、災難なことだけど、何か証拠はあるのかい?それに合意の上・・・だったと言い切れないのかい?』



タバコに火をつける。

燻らせる。

ただでさえストレスが多いのだ。

やってられないのだ、色だの恋だの。


『いやあ、泣かれてもなあ。なかったことにできないのかい?減るもんじゃないんだからさ。』



嗚咽がすごい。

あ、吐いた。



『ああ、汚いなあ。かたしておくからさ。あとさ、あんまり大事にしない方がいいよ。法廷とかで嫌でしょ?読まれるんだよ、その時の状況とかさ。うん、そう、自分の心に閉まっておくこと。でも・・・・。今日は一緒にいてあげる。だってそれがいいでしょ?』



抱きしめてあげた。

労わり、傷物の体を丹念に丹念に、労った。

彼女は泣いていた。

嬉し泣きなのか、

悔し泣きなのか



わからない。




こんなにされた後でも

こんなに恍惚とするのか。







ああ、面倒くさい。





♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

〜京華〜



『京・・・ご飯ここにおいとくから。』


何があったのだろうか。

土曜日だ。


チンピラ騒動の後始末、

朝イチでのヤクザ殺し。



全てを処理して帰ってきてから京が変だ。

作りかけのカレー。


抜け殻のようになった妹を見るのは居た堪れなかった。



ベッドにもぐりこみ、何かをずっとずっと呟いていた。




こんな時は誰を頼ればいいのだろうか。












妹を置いてきての勤務は辛かった。

職場はワキガ臭いし、シーハーシーハーと言わせるおっさんしかいない。




なぜこうも人生は報われないのだろうか。




秋葉原駅の交番にいると見慣れた顔の男の子がいた。




(八柱くん。)



誰かと一緒だ。

誰だろうか。



赤い髪で何やら、八柱くんにぶつぶつ話をしている。


表情こそキツめだが、わかる。

あの女の子は八柱くんのことが好きだ。

八柱くんは手でハエを払うように対応しているが、それでも女の子は八柱くんについていく。




(モテるんだな、、)




そう、八柱くんは銀髪にスラっとしていて

少年っぽさはあるけど、チンピラの抗争現場にいたあの人は大人だった。




目で彼を追う。



何を話しているんだろう。

あの子は誰なんだろう。


京はまさか、八柱くんに振られて、、、

振られちゃったんだ。

振られちゃってあんなにも抜けの殻なんだ。




そうか。




八柱くんは赤髪の女の子に面倒くさそうな表情を見せる。

あの子、大人っぽく化粧してるけど、たぶん実年齢は京と同じだ。



八柱くんは面倒くさい女の子嫌いなのかな。


そういや、京も妹ならいいけど、異性や友達的に見たらどうだろうか。



振られたくらいで、

あんなになる、

女の子は面倒くさいよね。




ああそうか。




じゃあ京は振られちゃって良かったんだ。


あの赤髪の女の子もたぶん振られちゃうね。








『おーい、山下?パトロール行くぞ?』


『は、はい!巡査部長!』



ふと我に返る。

とても罪深いことだ。







それでも京が振られたってことは。

私にもチャンスがある。










だって妹とは他人だもの。





♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

〜京〜



『こんにちは、ケイさん。』


ケイさんは、代わりに慰めに来てくれる。

上書きをしてくれる。


望んだ本物ではないけども、

ただの作業なんだけども

私は話をして、指導されてでも慰められて。



癒されることのない生傷をこの人になら見せられるから。













一通り作業を終えた彼は、帰っていく。



『カレー、、、食べていきますか?』



彼は首を横に振る。



『そう・・・次はいつきてくれますか?』



彼は手帳を見る。



人差し指を立てる。



『わかりました、、、』



またあの日に怯える日々が続く。

もう永遠にトキメキがないなかで。






♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

〜京華〜


『京華さん、こんにちは。』



不意を突かれた。

ワキガ臭い、この職場の玄関口に彼はいた。



『八柱くん、、、』


『あの、、最近、京さんを学校で見ないんです。どうかされたのでしょうか?』



振った癖に。

だから、京は引きこもりになった。

でも、ライバルはもういないはずだ。

あの時のような、ライバルは。




『ああ、、家にいるよ、何があったか、、わからないけれど、、、』



『そうですか、、、具合、悪いんですか?』



巡査部長が咳払いをする。


『ああ・・・八柱くん。勤務が後1時間で終わるからあそこのファーストフードで待っていてくれないか?』



『あ、すみません。では後ほど。』





誘ってしまった。

ファーストフードで、話をするなんて。

だけど、なんだろうか。

彼以来の胸のトキメキを、八柱くんはくれる。



あたりを見渡しても年中ニンニクくさい同僚と汗臭い職場に埋もれてるのだから、少しくらいいいじゃないか。






『お待たせ。』


『ああ、京華さん。私服も素敵ですね。』



このさりげない一言が私の脳みそを蕩かせる。

生唾を飲み込んだ。





『京の、、話よね。』


『ええ。学校にしばらく来なくて。先生も何度か様子を見に行ってるみたいなんですが、、』



『ああ、、そうなんだ。』


『そうなんです。折しも家庭訪問の時期ですし、そのうち京華さんにも話がいくと思います。』




胸がざわつく。

ざわつくが、

今は目の前の少年に身も心もトロトロにされたい。


『まあ、、私もたった1人の家族だから心配で、たまらないの。はあ・・・。』


そんなことは気にしてない。

京を心配している風であれば、

1秒でも彼と長く過ごせる。



『たった1人なんですね。』


『そう。親には死なれてね、妹とは、2人なの。』




『親に、、、』


ケイくんと1秒でも長くいたい。

親の話に興味があるようだ。


『そう、ああでも、親は違うの。』


『親御さん、違うんですね、、それでもよく似てますね、2人とも。』



『ああ・・・うん。』




前髪で顔を隠す。


『どうしたんですか??』


『いえ、、まあ似てますよね。』


『ええ。親御さん、2人とも亡くなったんですか?』


『うん、私は施設育ちでね。うん。』



頼んだコーラを飲む。


『わっ、ひゃっこい!』


『・・・・っ。』



ケイくんが不思議そうな目でみる。


『あ、、うーんと、冷たいね、これ。思わず方言出ちゃった。』


『京華さんは、どちらの出身なんですか?』



方言を聞いて、関心を持ってくれた。




『えっと、宮城です。宮城の施設で育ったんですよ。』


『そうなんですか。奇遇ですね、俺も宮城県で育ったんですよ。』


『えっ、そうなの!!?』


『同郷とは知りませんでした。そうだ、今度ご飯いきません?同郷のよしみで。あ、今からでもいいですよ!』



ケイ君がご飯に誘ってくれている。

だったら。





『あ、うん。行こうか。』


『やった!』


少年のような笑顔。

紳士のようにスマートに食事に誘う。

銀髪の髪にすらっとしたスタイル。




私は彼の全てに蕩けていた。





♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

〜ケイの憂鬱〜



『えっと、八柱くん、相談とはなんだい?』


『はい、鏑矢先生。俺、、迷っていて。』


『迷っている、、とは?』


『はい。前伝えた、会いたくて堪らない人に会えているかもしれない、、のですが、そのいまいち踏み込めなくて、、』


『ほほう。なんとも、、複雑だね。』


『はい、、2人いて。』


『ははあ。』


『その2人から1人選ぶとしたらどうしたらいいかなと思ってまして。』


『ふーん、両手に花だね。』


『はい。』


『ははあ、なんとも罪な男だね。だったらさ。その2人の愛のどちらが深いか確かめるといいよ。』


『はあ。』


『その二股なキミを知っていても、、キミを愛してくれる人が本物じゃないかな。』


『なるほど。』



『だからね、、見せつけなよ。』



『わかりました。』


『またいっそ、相談きてくれてええよ。』



『はあ、、、先生。そういや、、、』


『なんだい?』











『先生は宮城の方がご出身ですか?』



『ああ。そうだけど、何か?』


『いえ、、懐かしいと思って。』 


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

〜京芽〜


何回か。

八柱ケイを家に呼び、泊まり仕事をさせた。


『きゃっ!お風呂、入ってるわよ!』


『ちょっと!今着替えてるから!』



古典的なラッキースケベを仕掛けても

一向に手を出してこなかった。



あの青髪女にはもう手を出したのかしら。

青髪女はしばらく学校に来てない。

学校辞めて、ケイの子どもでも身籠もったのかしら。

それともズタズタに調教されて。




『アホくさ!』



官能小説の見過ぎだ。




『そういや、遅いわね。』


待ち合わせは11時だ。

なかなかケイは来ない。

すでに12時。



チャットを送っても返事がない。




『これなら、、減給ね。』





その時、来訪者を告げるブザーが鳴る。

監視カメラを見る。




『やっと来たわね。』


すると、そこには八柱ケイとお姉ちゃんがいた。


『どういうこと?』













『じゃあ京芽、私は部屋にいるから。』



お姉ちゃんはいつものようにだらしない格好で

部屋に入る。


ケイは特に目を覆うわけでもなく、その様子を見ていた。




『さて、、、@kyoyaさん。作業します。遅れた分を取り返しますね。』


『ああ・・・うん。』



ケイはPC。

私はオンラインゲームの実況配信を始める。



『ひゃっほう!2000キル!』



チラリと横目でケイを見る。



無表情でPCをカタカタ打っている。

さっきからスマホはバイブを頻繁にしている。


その度にフリックを素早くし、すぐPCに戻る。




『ちょっとトイレ休憩するわ!』



配信画面を切る。




『ねえ、ハシラ。携帯なりすぎ。仕事中よ。』


『ああ、すみません。企画の参考にしている動画チャンネルの通知が多くて。』


『あ、そう。仕事熱心ね。』




配信を再開する。

しばらく経つと、ケイがトイレに立つ。

スマホを置いていった。



バイブが鳴る。

画面を見た。











『どういうこと・・・?』



画面には、



鯨井京芽の名前が何件も映っていた。







『ふわぁああ。あ、@kyoyaごめんね、ちょっと通るよ。』


お姉ちゃんがわざとらしく。

私の視界を横切る。


今日は配信を中止できない。

大型企画なのだ。


お姉ちゃんは冷蔵庫からビールとウーロン茶を取る。



あのウーロン茶は誰に飲ませるのだ。



ケイがトイレに出て10分以上が経つ。

お姉ちゃんは寝室へと消えていく。


缶が開く音がした。


数秒後、もう1つの缶が開く音がする。




お姉ちゃんは、、誰と飲んでるのだ。

配信は切れない。

何百万と金が動く企画だ。

でも、、



ケイは帰ってこない。

10分、20分、30分。


労働時間だよ?

なんで、雇用主の管理下から抜け出す?

否、そうじゃない。



お姉ちゃんとケイは、、、、!







1時間が経つ。

ケイが帰ってきた。



・@kyoya,今日キルされ過ぎじゃね?

・@kyoyaちょいちょい固まる。



明らかに配信に影響が出ている。



『すみません、親からちょっと急な連絡がきて。』



携帯は机に置いたまま。

嘘つき。

そしてお姉ちゃんの部屋の匂いがする。


私は、、、


どうしたらいいのだろうか。

たまたまなのだろうか。




・@kyoyaの今日の配信微妙。

・登録外しますた。








私が好きな人は、

お姉ちゃんの恋人・・・。


体を重ねたの・・・!?




配信はそのあとも続く。

何せ今日はオールナイト配信だ。


SNSの更新、投げ銭を煽るコメ、全てケイに任せている。


気が抜けない。




『@kyoya、ちょっと配信のクオリティ落ちてる。もっと叫んでキルして。』


ケイがチャットを送ってくる。

お姉ちゃんを抱いた指でタイピングした、文字。

さっきまでお姉ちゃんのことを考えていた脳みそから発信された言語。




全てが、、

全てが汚い。





視聴者数がみるみる減っていく。


1万人いた、視聴者は5000人にまで落ちていた。















明朝。

配信を終えた私は、、

焦っていた。



今ここで、ケイを押し倒さないとお姉ちゃんに、

でもそれはお姉ちゃんへの裏切りだ。

お姉ちゃんに見限られてしまうのか。



それは嫌だった。

でも、ケイがお姉ちゃんに抱かれるのも

耐えられなかった。





『じゃあ俺は帰りますから。』



『あ、、、うん。』


嫌だ。

でも、、、

抱かれていないかもしれない。

さすがに私がいる家で、そんな不埒なことはしないはずだ。










〜京弥〜


『ねえ、最近、京芽と仕事してないの?』


『ああうん。』



彼に腕枕をしてもらう。



『なんか、、最近京芽の配信、、下品なのよね。』


『ああそうですか。』


『マネージャーでしょ?見てないの?』


『ああうん。』


『ほらほら。』



スマホで京芽のチャンネルを見せる。




・マイクロビキニ着て踊ってみた


・お風呂から配信


・ノーブラ散歩






明らかに過激になっている。


『ああすごいね。』


『冷たいわね。それだけ?』


ケイは私の胸元に顔を埋めてくる。

京芽に比べると、豊かな双丘だと我ながら思う。

ああ、そういうことか。


『あなたって結構ゲンキンな人ね。』



そのまま私はケイに蕩けていった。












〜同窓会〜


『懐かしいわね。』


『ホント久しぶり。』


青髪の婦人警官。

黒髪の看護師。



遠目に彼女らを見る。


今日は『せんだい まごころはうす』の卒業生の同窓会である。



俺は、そこにいた。

そこにいて支えていた。

大人になった彼女らを遠目に見る。



1人会場の端で、ワインをちびちび飲んでいると

2人がやってきた。



『やあ、、京弥と京華じゃないか。』


『懐かしいわね。元気してる?』


『まあね。2人とも息災なようで。きれいになったじゃないか。』


2人は無言だったが、こんな言葉で喜ぶ女たちだ。



『わ、私何かご飯取ってくるわ。』



こういうとき京華は恥ずかしがる。

京弥と2人で残る。





『懐かしいわね。』



ふわりと匂わす香水のかおり。

手を伸ばせば抱きしめられる距離まで近づく。



『あいかわらず、積極的だね。』


『だって・・・・。』


『まあいいさ。昔から、京華が沼って、そんな沼っている京華を見下しながらキミは、、』


『・・・・うるさいわね。』


『今の男もそうなのかな?』





京華も京弥もまだまだ俺に未練はありつつも

人に依存しないと生きていけない人種だ。

だから、男は側にいるはず。


昔、俺は2人から言い寄られて2人とも関係を持った。



だからわかるのだ。

2人はいつも一緒で、男のタイプも一緒で。


でももういい年齢だ。

このまま沼として生きていくか、

どこかで妥協していくか。






『き、今日・・・一晩だけなら、、抱かれでもいいわ。』


『男がいる・・・しかし、どうやら他の女の影もある。だったら昔、恋した男なら、、火遊びできるかなって感じだね。でも、悪いね。俺、今・・・・・』


そう。俺は・・・・





『今は、聖職者みたいなもんだからさ、ちゃんとしたいんだよね。』


『チッ・・・・・。』




『お待たせしましたあ!!』


京華が帰ってくる。



『そういや。お前らさ。』


俺は苦い球を喉奥から搾り出すように伝える。





『身内の動向くらい、把握した方が、、

身のため、、、だからな。』



『は・・・?どういう・・・・。』 


『そんなに良いんだな。今の男もな。』





〜ケイの憂鬱〜



『先生。』


『なんだ?』



『先生は、鏑矢ケイというのがフルネームですよね?』


『ああ・・・そうだが。』








『先生はかつて、きょうくん。そう呼ばれていた。』


『・・・・だとしたら?』


『見落としてました。鏑矢京。幼い俺は、きょう、と読んでいた。でも。』


『まあ、小さい子なら間違えるさ。』


『でも、性別まで間違えていたなんてね。』


『つまり?』


『俺はきょうくん、に恋していた。でも異性に恋をしていたんだと思っていた。』


『・・・・。』


『鏑矢京くん。あなたに恋をしていた。』


『どうして思い出せたのかな?』



『どちらとも寝たんです。でもきょうくんのような逞しい頼りになる腕ではなかった。』


『ほう。』


『さすがにその感触くらいは覚えていたみたいなんですよ。』


『・・・。』


『で、かつてのまごころ はうすの関係者を当たりました。ケイくんをきょうくんと呼んでいたこと、、京華と京弥と寝てみてかつてあなたに抱かれたように、かつてあなたにされたような手技は彼女らにはなかった。つまりきょうくんは、もう1人いる。俺が女に恋をしていたことは思い込みで、しかも俺が相談した時に、かつて自分も同性とそういう中になった。それをつなげるとあなたしかいないんです。』


『そうかい。』


『会いたかったよ、きょうくん。』




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


〜京弥〜

あれから、

ケイくんはチャットに反応しなくなった。


『ねえ、今日安全日だよ?』


『今日は朝までいけるよ?』



卑猥な写真も自撮りして送った。

チャットを見た形跡すらない。




『なんで?私何かした?所詮、体目当てだったの?』



何も反応しない。

私は荒れた。

不倫関係にあった、医師とも関係を解消した。

医師からもらっていたお小遣いでなんとかあのバカ高いタワマンの家賃代にあてていた。

京芽は配信で稼いだ分は使ってしまっていた。





『鯨井さん、内科の先生と別れたらしいよ。』


『それでもまだあのバカ高いタワマン住みだってさ。』


『サラ金にでも手を出してんじゃない?』






私は、私のプライドを捨てられなかった。

しばらくしていよいよ、サラ金の限度額と借金が返せなくなってきた。





インターフォンが鳴る。

電気は節約の為に止めていたはずなのに?

なぜ?





『は、、い?』


そこにいたのはケイ君だった。
















『はーい、キョウヤちゃん!ご指名入ったわよ!えっとオプションもモリモリね!助かるわあ、NGがない子は助かるわね。』





『き、キミがキョウヤちゃんかあ、、かわいいねえ。NGなしの子って結構かわいさがちょっと微妙だからさあ、、、ふふ、、じゃーん!見てみて!!お馬さん用だよお!』




私は今日も拘束具をつけられてアブノーマルな趣味を持つ、客に好き勝手されている。




思えばどこで人生が狂ったのか。






インターフォンに立っていたケイくんは、白いスーツでいつもとは違い、オールバックで私を汚いものを見るような目つきで見てきた。




『京弥さん。金、返してくださいよ。』


『え?どういう・・・』


『サラ金、、ウチの組のフロント企業なんですわ。八柱金融書いてありますよね?』



サラ金のカードを見る。




『代表取締役 八柱 京』




『え、、そんな、、、』


『返せるんすか?返せないんすか?』




腰が抜けた。

私は、、私は、、ヤクザの組長を抱いて、、、

しかも、この街を仕切っている八柱組の、、、



『ヤクザ映画の見過ぎ!』


寝物語でそう伝えた、私はヤクザ映画に出てくる人そのものと対面していた。



『返せないんなら、、落とし前、つけてもらいやすよ。』



私はそのまま目隠しをされ、縄で縛られた。










ケイくんは、なんで私に近づいてきたのだろうか。何の為に、私は抱かれたのだろうか。

私が、、、


私のことを知っていた?

私が不倫して、その金でタワマン住んで。

でも彼に恨まれるようなこと・・・





やってないよね?








♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


〜京芽〜



久々に帰宅すると、家はも抜けの殻だった。

『お姉ちゃん、、どこ?』



お姉ちゃんのスマホだけ落ちている。

そして。



『ねえ、今日安全日だよ?』


『今日は朝までいけるよ?』


『なんで?私何かした?所詮、体目当てだったの?』






送り先は全てケイだった。





やっぱりお姉ちゃんは、、ケイ君と。

も抜けの殻の家を見る。


『かけ落ちかな、、、、』



私はしばらく来なくなっていたケイに振り向いてほしくて、過激な配信をした。





やめろ、そんな裸を晒すのは、俺だけにしろ。


自分を大切にしろ




そう言って欲しかった。


でも結局お姉ちゃんを選んで、お姉ちゃんはケイ君とかけ落ちして。





足に何かふれる。




それは縄だった。



首に巻くにはおあつらえ向きな縄。





『はは・・・はははははは!』


お姉ちゃんとケイからのメッセージだ。

それを巻いて死ね。



『わ、私、要らないんだあ・・・。』








縄を天井に吊るす。

踏み台を置く。



スマホを置き、動画配信サイトの『ライブ配信を始める。』のボタンを押した。






かけ落ちしたのなら。

要らないなら。

せめて、死にゆく私だけでもみて。



そシテ、オマえタチハワタシヲステタコトヲコウカイスルガイイ!!





ガタン!!




ぎゅっとしまる。

目の前が真っ赤に。

染まっていく。




ライブ配信のコメントが目に入る。





アカウント名:kei

お疲れ様でした。










コウカイスラシテイナイノカ・・・・



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


〜京華〜


あれからケイ君とは連絡が取れなくなっていた。

私はまたこのワキガ臭い職場でつまらない日々を過ごしていた。




悶々とする日々であった。





『おい、山下。またチンピラが出たぞ。行くぞ。』


チンピラは久々だった。

もしかしたら、ケイ君に会えるかもしれない。











『・・・おい!おい!山下!しっかりしろ!』



『え?』


気がつくと病院にいた。

ただ、声は出ない。

体も全く動かない。




『ああ、よかった。部下が死んだら責任問題だからな。』



私は、、

視線だけが動く。

包帯が巻かれている。

動くのは指先のみ。





何が、、





『いやあ、良かった。チンピラを取り締まっていたらダンプカーが突っ込んできてな。ったく。』




そうだ、私は、、、




八柱組と書かれたダンプカーに轢かれて。




『いやあ、、まああれだ!事故!事故!労災もたんまりおりるし、生活には困らんだろう!』


ガバガバと巡査部長は笑う。




『しかし、あのダンプカーの八柱組。若い頭が取り仕切っているからか、フロント企業のマネジメントが微妙なんだよなあ。名前なんだっけ?ああ、八柱京。これでケイって読むらしいんよな。』



そんな。

ヤクザ、、、?




『運が悪かったな。まあ、二階級昇進だし、金は出るしいいんじゃねえのか?』




巡査部長はそのまま病室を出る。




『はあ、、最近溜まってるからなあ。風俗でも行くかあ!』






彼は体が動く。

だから、こうやってスッキリしなければ性欲は解消できる。



私はどうだ?

好きな人はヤクザで、、しかも私は彼に、、


口封じだろうか。

彼の指示なのか?

ああ疼く。

彼を思うと、蕩けていく。

この手さえ、この足さえ動けば、、

真実も、性欲も、、全てスッキリさせられるのに。





ケタケタ笑う巡査部長が扉をゆっくり閉める。





お願い!

行かないで!

私の為に、、

真実を。






病室は沈黙につつまれた。




『あ、そういやあよ!』


巡査部長が扉を開く。




『山下の妹さん、学校から飛び降りたらしいぜ?』


それだけ告げて閉められてしまった。

今の私には、、

妹の生死すら、、1人で知る方法すらなかった。






♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

〜京〜


『しーね!しーね!』


なんでこんな風に私は死にかけているのか。








私は久々に、彼の支えもあり学校に来た。




『先生。』


『ああ、京。来たか。とりあえず席に座れ。』


私のはじめてを奪った、鏑矢京先生。

もう彼なしでは生きていけない。




『先生、私、先生と・・・・。』



『おい!山下あ!ちょっとツラかせや!』


『え?でも授業が、、、』


『じゃあ授業、始めるぞお。』



私に声をかけたのは、あの日私を汚した男どもを送りこんできたいじめっ子。


先生は授業を始める。



私はいじめっ子と他数人に、引っ張っていかれた。





先生、、なんで?











私は屋上のフェンスの外に立たされていた。





『さっさと飛び降りろよ!この股ゆる女!』


いじめっ子は目が血ばしっていた。



そして耳元で囁いた。


『お前がな、体を預けた男がな、お前を蹂躙しろって指示を出したんだよ。弱っていた生徒なら抱けるだろうって。そんな奴なんだよ、自分よりも一回りも下の子に手を出す為ならなんでもやる奴だからな!』




私は目の前が真っ白になった。

私は、、、

初恋の人にも見限られ、捧げたくない男にはじめてを捧げて、傷物の体をそんな企みを考えた男に、、、




『お前が学校に来るなんて言わなけりゃなあ、お前はずっと抱かれて、私らもこんな真似せずにすんだんだ。お前は、鏑矢からもう捨てられたんだよ。お前が死ねば、私の罪も鏑矢の罪も、なかったことになるからなあ!!』



私は、、

誰に必要にされていたのだろうか。

ケイくんはパタリと来なくなり、

傷物にされて、担任に傷を舐め回されて。




私は何の為に、、、、





ブワッと強い風が吹いた。

私は気がつくと、地面に叩きつけられていた。




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


〜きょうくん〜



小さい頃。

俺はこの銀髪の子に恋をした。

恋とはなんなのだろうか。

がっちり抱きしめて、嬌声が出るような営みをして。


俺にとっては恋愛はそのくらいだ。




自分より年下の子を絶望に叩きつけて

そこからメシアのように現れて傷物を舐めとる。


京はそれで、病院送りになった。



ああいう発言権なさそうな陰キャを叩きのめすのが堪らない。



男子に慰み物にされ、絶望の淵にいる時に

救いの手をさしのべれば、もう縋り付いてくる。

京は依存していた。



では?

八柱ケイはどうだったか?

確かに彼を絶望に叩きつけて

そのあと彼の全てを包みこんだ。



最後には、仕事の関係で捨てた。




追ってくるとは思わなかった。

彼には後ろめたさがある。



八木山橋に2人で来た。

思い出の地。




『きょうくん、懐かしいね。』


『そうだな。よくここでさ。』



冥土の土産だ。

彼を抱きしめて快楽を味合わせてやる。


『きょうくん、懐かしいね。こうやってさ。俺ももう大人になったよ。』


『俺に取ったらまだ、小さなかわいいケイだよ。』


『きょうくんがいなくなってか大変だったよ。施設に入ってさ。』


『あの時は家族も俺らしかいなかったもんな。』



『うん。』




そう。

『まごころ はうすに置いていってしまったからな。』


『仕方ないよ。あの時はきょうくんも事情があったんでしょ?』


『大人になったな。』



『そうだね。俺も大人になったよ。だからね。』



ケイは強く抱きしめてくる。












『たぶん今なら、きょうくん君を殺せるよ?』







♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


〜全ての終わり〜



『カシラ良かったんですかい?』



『何が?』


『ミンチにしても良かったんでは?』


『ああ。まあ、でもさ。見つからないよ。八木山橋から落ちたらさ。』



『でも、これでカシラのご家族の敵は取れましたね。』



『ああ。』


『覚えてますよ?八木山一家殺人事件。生還したのは山田ケイの2人。』



『うちに養子に来た、鏑矢はさ、サイコパスなんだよ。』


『まあ、今回、カシラのクラスメイトの女をまわさせて、ズタボロになったタイミングで自分の女にして。足が着きそうになったら、自分の手は汚さず。』


『ああ。同じ手口さ。ただのロリコンのショタコンが、ただやりたいってだけで家族を殺して、やりやすい環境を作ったからな。まあ、山下姉妹にも、鯨井姉妹にも悪い事をした。濡れ衣だからな。』



『いやあ、まあでも1人は多重債務者、1人はカシラの正体を知ってしまいましたからね。』



『年齢的にきょうくんはどちらかかと思ったけど、まさか俺自身男に恋して、傷物にされていたとはな。』



『思い込みは怖いですね。』


『ああ。ただやっぱさ、幼い頃とはいえ、抱きしめられた感触はやはり男性だったんだろうな。京華も京弥もがっちりはしてないし。』


『八柱組の操作網もまだまだ甘いな。』


『カシラ、これからどうするんですか?』


『そうだな。家族の弔い合戦は終わったし、鏑矢は竜の口渓谷に落ちた。あとは拾ってもらった八柱組を大きくするだけさ。』


『ま、自殺扱いですかね。ここは自殺の名所ですし。八柱組を大きくすか、いいっすね。』



『俺にはもうそれしかないからな。』



八木山橋を後にする。



俺にとって会いたくてたまらないきょうくんとは会えた。




ずっとずっと会いたくて、殺したくてたまらなかったから。

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