第41話 オスカーの恩返し
「本当に本当に本当にごめんなさい!!」
二度目の朝池を回避した後。
今度はオスカーに、アメリアは全力で頭を下げた。
「それから、助けてくれてありがとう……!!!!」
心の底からの、誠心誠意の謝罪。
もはや何度目かわからないデジャヴである。
「いえいえお気になさらず。むしろ私の声がけのタイミングが悪かった故、あわや大惨事になるところでしたね、申し訳ございません」
「あっ、頭を上げて、オスカー」
わたわたと、アメリアはオスカーに言う。
「完全に私の浮草を取りたいという強欲が原因だから、オスカーが謝る必要は全くないわ」
「なるほど、浮草ですか」
オスカーは池に目をやって、合点のいったように頷く。
「植物好きは、今日も健在ですな」
「あはは……」
いくら好きとはいえ、それで周りが見えなくなるのは直さなければいけない癖だと、アメリアは思った。
「ところで、アメリア様はなぜここに?」
「キャロルさんという、ローガン様の遠縁の方と会っていたの」
「ほう、キャロル様……」
オスカーの目が細くなる。
「どこか掴みどころのない、飄々(ひょうひょう)とした老婦人であったりしますか?」
「そう! その方がキャロルさんです! お知り合いですか?」
アメリアが尋ねると、オスカーは顎に手を添え考え込む仕草を見せた。
(……何か、変なこと言ってしまったかしら?)
アメリアが疑問に思うも一瞬のこと。
「ええ、もちろん。キャロル様ですよね、存じ上げていますとも」
にこりと、オスカーは微笑みながら頷きアメリアは安堵した。
「彼女は我がへルンベルク家と古くからご縁がありまして、時たま我が邸にいらっしゃるのです」
「なるほど、そうだったのね」
公爵家と古い縁……というと、同じ公爵の位を持っている方かもしれない、とアメリアは思った。
公爵は原則として王族の親族しか与えられない、貴族の中では最も高位の位だ。
例外として、国家に莫大な利益をもたらす業績を残したり、戦争で多大なる功績を残した場合に公爵の爵位を授けられる場合がある。
確かへルンベルク家は後者の経緯で公爵の位を授与されたと、アメリアは記憶している。
先代か、先々代か、どのような業績を収めたのか気になるところではあった。
「して、キャロル様とはどのようなご縁で?」
オスカーが尋ねてくる。
「えっと……」
アメリアは昨日の大浴場でのキャロルとの出会いと、肩の痛みの薬を渡したことの一幕をオスカーに説明した。
「なるほど、そんな経緯が……」
神妙な顔つきで呟くオスカー。
また顎に手を添えて、黙考の姿勢に移る。
今度はやけに長い。
「オスカー?」
「ああ、失礼いたしました。少し考え事をしておりまして」
「考え事?」
「いえいえ、お気になさらず」
「そう?」
気にしないで良いというなら、気にしないでいいか。
根が楽観的なアメリアは、そう結論づけた。
「そういうオスカーはどうしてここに?」
「シルフィに聞きましてな。アメリア様はこちらにいらっしゃると」
「シルフィに?」
「ええ」
「ということは、オスカーは私に用があって?」
「左様でございます」
「珍しいわね。オスカーが私に直接来るなんて」
「用は二つございます。ひとつは、アメリア様に直接お礼を言おうと思いまして」
「あ、お腰! 良くなったの?」
「ええ、お陰様でバッチリ効果がありました。以前はしゃがむ動作に痛みがございましたが……」
オスカーが池のほとりに歩を進める。
それからしゃがみ込み、手を伸ばした。
「おかげさまで、取れるようになりました」
オスカーはにっこりと笑って、水を切った浮草をアメリアに差し出した。
アメリアの表情にぱああっと笑顔が咲く。
「ありがとう、オスカー!」
浮草を受け取って、アメリアはとてもご満悦だ。
「お安い御用です。むしろ、お礼が遅くなって申し訳ございません。そして、ありがとうございました」
深々と頭を下げるオスカー。
「どういたしまして。こちらこそ気にしないで、お腰が良くなって何よりだわ」
余裕そうに言うものの、浮草を手に入れられた事と自分の能力がオスカーの助けになった事。
嬉しさ二倍で、アメリアは口元の緩みを抑えることが出来ない。
(本当に良かった、お役に立てて……)
心底、アメリアはそう思った。
「そしてもう一つの用の方が本題なのですが」
「はい」
本題と言われて僅かに身構えるアメリア。
どこか微笑ましげに、オスカーは言った。
「ローガン様がお呼びですよ」
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