表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/188

第28話 美味しい、を分かち合う

 美味しいものを食べていると、誰かにその美味しさを分かち合いたくなるというのは人の性である。


 アメリアも人の子なので、美味しいものを食べているうちに沸々とその欲求が湧いてきた。


 普段の料理はここの屋敷の人たちにも馴染みのあるものだろうと思っていたのだが、雑草とのコラボレーション料理は無いだろう。


「……アメリア様、何か?」


 そばに控えるシルフィをじっと見つめて、アメリアは言った。


「シルフィも食べてみない?」

「え?」


 予想外の言葉だったのか、シルフィが虚を衝かれたように目を丸める。


「ヨモキのサラダは苦味があってちょっと癖があるから、ノビーのパスタが良いと思う! オイルパスタとの相性が最高なの」

「あ、いえ……どんな味かと興味はあるのですが……私は従者の身分ですので、おいそれとアメリア様のご夕食をいただくわけには……」

「いいの、いいの。シェフのみなさんには調理場で味見してもらって、とても好評だったわよ」


 シルフィが振り向き、後ろで控えているシェフをキッと見やる。

 シェフはわざとらしく口笛を吹きそっぽを向いた。


 今この場に、シェフとシルフィ以外に人はいない。


 シルフィは何やらグルグル頭の中で考えるような素振りを見せた後、最終的にため息をついて言った。


「アメリア様がお望みであれば……」

「うん、食べて食べて!」


 アメリアが当然のように席を立つ。

 シルフィは逡巡する素振りを見せたが、ニッコニコなアメリアに促されておずおずと席に腰掛けた。


「では……いただきます……」


 予備のフォークとスプーンを器用に使い、ノビーのパスタをぱくり。


「……っ!!」


 シルフィの目が大きく見開かれる。


「美味しい、です」

「でしょう!?」


 ぱああっと、アメリアが百点満点の笑顔を浮かべた。


「ガーリックと唐辛子の刺激の中に、ノビーの葉の爽やかさが合わさって……語彙力がなく申し訳ないのですが、なんというか、ずっと食べていたい味です」


 ──嬉しかった。


 母が死んでからは、あの離れの殺風景な家屋でずっと一人で食べていた。

 一緒にいてくれたのは、屋根裏で走り回るネズミか窓に根城を構えた蜘蛛くらいだった。


 自分が美味しいと思ったものを、美味しいと言ってくれる共感。


 長らく忘れていた、誰かと『美味しい』を分かち合う嬉しさだった。


 アメリアの胸に、じんじんと熱いものが湧き上がる。


「アメリア様、ありがとうございました」


 いつの間にか席を立ったシルフィが、頭を下げて言う。


「大変美味しゅうございました」

「ううん、どういたしまして! よかった、口にあって」


 屈託なく笑うアメリアに、シルフィが言葉を続ける。


「ローガン様にも、作ってあげないとですね」

「うっ……そ、そうね! 作って、是非食べていただきたいものだわ……」


 アメリアが言い淀んだのは、パスタやスープはシェフに手伝ってもらったからだ。

 料理歴十年とドヤ顔をかましたものの、複雑な調理器具や火を使うタイプの料理をした事がなかった。(離れに無かった)


 わざとらしく聞いていない風な顔をするシェフを見て、アメリアは料理の上達を決意するのであった。


 席に座り直し、夕食を再開するアメリア。

 

 スープにつけたホクホクのパンをもっちゃもっちゃと頬張りながら、ふと思う。


(ローガン様……お仕事頑張ってるかな……)


 あのベッドでのドタバタ以降、ローガンとは顔を合わせていない。

 日中は仕事で屋敷を留守にする事が多く、なかなか会えずにいた。


 とはいえ、寂しさは無い。

 数日したら忙しさがピークを抜けて時間を作れると言っていた。

 その約束があるだけで、十分だった。


 十年も一人だったのだ。

 数日なんて秒である。


(ふふ……楽しみだなあ……)


 隣の空席を見やって、アメリアは次にローガンに会えるのを心待ちにするのであった。

ここまで読んで「面白い!」「更新頑張れ!」「アメリアちゃんいい子!」など思っていただけたら、ブクマや↓の☆☆☆☆☆で評価頂けると励みになります……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓タイトルをクリックすると新作漫画のページに飛べます。

【漫画原作】花紡ぎの聖女は初恋の皇太子に溺愛される【1話無料】



― 新着の感想 ―
[良い点] 何度読ませて頂いても、主人公のキャラクターの濃さ(特に笑い方)に引き込まれます! 主人公との会話でのシルフィのツッコミ具合も最高です♪ [一言] こちらの作品を他のサイトでずーっと読ませ…
[良い点] シルフィさんがちゃんと侍女をしているのが、前の話との対比になっていて、いかにまともかがわかりますね。 [気になる点] あらすじに継母と義妹からの嫌がらせが激しいと書いていますけど、正直父親…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ