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第177話 攫われたアメリア

 へルンベルクの本邸は蜂の巣を突いたかのような騒ぎに覆われた。

「アメリアが攫われた!?」  


 帰宅して間もなく執務室で書類仕事に取り掛かっていたローガンに、衝撃的な知らせが飛び込んできた。

 思わず椅子を蹴って立ち上がる。


「どういうことだ! 状況を説明しろ!」


 ローガンは鋭い目で報告に来たリオに詰め寄る。

 普段の冷静な彼からは信じられないほど荒々しい声だった。


「アメリア様とライラの花屋に向かう途中、突如襲撃を受けました。なんとか撃退しようとしましたが、腕に矢を受けてしまい、その隙をつかれてアメリア様はさらわれました……」


 腕には深く矢傷を負ったリオが、シルフィの手当てを受けながら絞り出すように言う。


 リオはただひたすら悔しげに顔を俯かせていた。


「現在、現場に残された男たちを尋問していますが、一向に吐く様子はなく……衛兵たちが領地内を全力で捜索していますが、居場所が掴めるかどうかは……」


 リオの言葉に、ローガンは目の前がぐらりと揺れるような錯覚に陥った。

 心臓が荒々しく鼓動し、血が逆流するような熱さが全身を駆け巡る。


「くそっ……!」


 ローガンは拳を握りしめ、机に叩きつけた。

 怒りが収まらず、彼の眉間には深い皺が刻まれている。


(一体誰が、こんなことを……いや、今は犯人探しの時間ではない……)


 自身が冷静さを欠いている事を自覚して、ローガンは一度大きく息をついて気持ちを落ち着かせる。


「報告、感謝する。ひとまず、よく無事で帰ってきてくれた」


 リオは重傷を負いながらもアメリアを守るために戦ってくれたのだとローガンは理解している。


 故に、領主としてここですべきは叱責ではない。

 そんなローガンの労りに、リオは自責の念を抱き堪えきれない表情で言葉を詰まらせた。


「申し訳ございません、ローガン様……僕がついていながら……本当に、申し訳ありません……!!」

「謝罪は後だ。今はアメリアの居場所を突き止めることに尽力しなければならない」


 頭を切り替えて、ローガンは思考を走らせる。


(へルンベルク家の領地は広大だ……しらみつぶしに探し出すには時間がかかりすぎる……)


 ローガンの頭の中で、数々の可能性が猛スピードで浮かんでは消えていく。


 なぜアメリアは攫われたのか?

 誰に攫われたのか?


 という問いは後回しにして、『どこにアメリアはいるのか?』に全ての思考を注ぎ込む。


 かつて神童と呼ばれた頭脳の持ち主であるローガンの脳内では、緻密な計算と分析が行われていた。


(捕縛されたということは、まだアメリアに利用価値があるということ……だが、猶予はない。早く見つけなければ、どうなるか……)


 考えている今この瞬間も、アメリアがどこかで恐怖に怯えているだろう。


 そう思うと怒りと焦燥が胸を焼き尽くしそうになる。


 冷静になれと何度も自分に言い聞かせるが、愛する人が危険な目に遭っていることを想像するだけで感情が乱されてしまう。


 焦りと苛立ちの中で無意識に頭をかきむしり、どうにかして打開策を見つけようともがいていた。


「くうん……」


 不意に小さな鳴き声が耳に届いた。

 振り向くと、ユキが不安げな表情でこちらを見上げている。


 ユキのつぶらな瞳には、アメリアがいないことに対する不安と心配が宿っているかのようだった。


 ローガンは膝をつき、ユキの頭を優しく撫でながら低く呟く。


「大丈夫だ、必ずアメリアを連れて帰る」


 その言葉にユキは静かに目を細め、ローガンの手の温もりにほんの少し安心したかのように見えた。


 ローガンもまた、少しだけ冷静が平静が戻ってきて……。


「あっ……」


 ──瞬間、ローガンの頭の奥で何かが閃いた。


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― 新着の感想 ―
 ユキ、出番だ…いや、馬車の匂いなんて判別つかないか…。  行き先は実家か?
>──瞬間、ローガンの頭の奥で何かが閃いた。 マンガで言えば、電球が点灯したってヤツですな。 ホワイトタイガーの特殊能力と言えば…犬ぢゃないけど
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