第168話 別れ……?
「いやあ、見つかって何よりだ!」
湖畔でペンダントを見つけた一行は、戻ってくるなりクリフが迎えてくれた。
満面の笑顔両手を叩いているクリフは、ペンダントが見つかったことを心から喜んでくれた。
これでようやく心配事が無くなり、出発の準備をする事ができた。
「ペンダント、ありがとうね」
一通りの荷造りを終えたアメリアは、ホワイトタイガーのそばにしゃがんで頭を撫で感謝を伝えた。使用人によって首輪で繋がれたホワイトタイガーは静かに「くるる……」と喉を鳴らす。
まるでアメリアとの別れを悟っているかのように、大きな瞳にほんのりとした寂しさを浮かべていた。
猛々しいホワイトタイガーでありながら、その目には母親とはぐれた子どものような哀愁が漂っている。
「また来るわ。それまで待ってて、ね?」
アメリアは優しく言葉をかける。
しかし、ホワイトタイガーは小さく切ない声をあげ、しょんぼりとした目でアメリアを見つめ続けた。
(うう……家に帰りずらいわ……)
くるりんとした瞳がアメリアの心に刺さり、思わずこの子を連れて帰りたくなる。
しかし流石においそれと「連れて帰りたいです!」とは言えない。
そこらの捨て猫とはわけが違うし、環境も動物の扱いに長けたクリフの家の方が絶対に良いだろう。
「アメリア様、そろそろ」
「わかったわ」
シルフィに言われて、アメリアは最後にホワイトタイガーの首に抱きつき、わしゃわしゃと撫でる。
「それじゃあね……」
後ろ髪を引かれる思いながらもアメリアは背を向け、出発に向かう。
その後ろ姿を、ホワイトタイガーはいつまでもいつまでも見つめていたのだった。
◇◇◇
「短い間でしたが、お世話になりました」
大きな玄関前にて、ローガンがクリフとミレーユに深々とお辞儀をする。
「本当にありがとうございました」
と、アメリアも続く。
二人の声には惜別の情が籠っていた。
「こちらも普段とは違う刺激があって楽しかった、落ち着いたらまた来るが良い」
クリフが優しい眼差しで言う。
彼にとっても、ローガンとアメリアがもたらしたささやかな交流は、楽しいひとときのようだった。
「それはそうと、ローガン」
クリフがすすすっとローガンの元にきて、ローガンに耳打ちする。
「アメリア殿との新婚旅行を我がクリフ領にするのはどうだ? 領民総出でパレードを催すのも可能だぞ」
「そんなことに貴重な領費を使わないでください」
コソコソ話をする二人にアメリアが頭上に「???」を浮かべていると、ミレーユが名残惜しげな表情で言う。
「アメリアさん、今度お会いした際にはゆっくり紅茶についてお話ししましょうね」
「はい、是非! あの……」
「どうしたの?」
「差し支えなければ……動物たちともまた交流をさせてくださいっ」
もふもふたちに囲まれたあの至福の時間を思い出しながら、アメリアは言った。
「ええ、もちろん」
くすりと笑って、ミレーユは快諾してくれる。
(二人とも、良い人だったな……)
先日のお茶会の時とは違う、プライベートの二人はとても優しく、一緒にいて楽しい人たちだった。
(また来たいな……)
と、心底思うアメリアであった。いよいよ出発の時が訪れた。
最後にクリフとミレーユと硬い握手をして屋敷を後にしようとしたその時。
「ちょっ、待って……そっちに行っちゃダメ!」
不意に使用人の慌てた声が響いた。
見ると、ホワイトタイガーがだだだっとこちらに向かってきていた。
「がるるっ」
「わわっ!?」
「アメリア!?」
ホワイトタイガーはアメリアの胸に飛びつき、やっと母親を見つけた子供のように甘える。
その姿はまるで「行かないで」と懇願するように見えた。
「あ、あの……えっと……」
おろおろと困惑するアメリア。
「何がなんでも離れない勢いだな」
器用に後ろ足で立ち上がってアメリアの胸に縋るホワイトタイガーを見て、ローガンもどうしたものかと額を抑えた。
そんな様子を見て、ミレーユが微笑みながら言う。
「ホワイトタイガーは、一度主と決めた相手に深い忠誠を誓う習性があります。どうやら、助けてくれた恩義を感じて、アメリアさんを主と決めたのでしょうね」
「わ、私が主……!?」
アメリアは驚きに目を丸くしながらも、ホワイトタイガーが見せる真っ直ぐな愛情表現の懸命さに想像が走る。
密猟者から一人で逃れてきたこの子はおそらく、ずっと一人ぼっちだったのだろう。
今までどんな場所で、どんな暮らしをしてきたのかと想像すると、胸が締め付けられる思いだった。
「あの、ローガン様……この子、連れて帰ってはいけませんか?」
くるりとアメリアはローガンの方を向いて許可を求める。
虎を飼う許可を求められるとは予想外なのか、ローガンは「ちょっと待ってくれ」と掌をアメリアに見せてタンマをした。
そこにクリフが助け舟を出す。
「まさか天下のへルンベルク公爵家が、虎一匹買える余裕もないとは言わんだろう?」
クリフの言葉と、アメリアの懇願するような瞳。導かれる結論は一つしかなかった。
「……まあ、なるようになるか」
息をついて、ローガンは言う。
「わかった、連れて帰ろう」
「ありがとうございます、ローガン様!」
ぱああっとアメリアは表情を明るくして、ホワイトタイガーに言った。
「これからも一緒によろしくね!」
握手するかのようにホワイトタイガーの手を取るアメリア。
すると、ホワイトタイガーは見るからに嬉しそうな声を上げた。
こうして、アメリアとローガン、そしてホワイトタイガーは、クリフの別邸を後にしたのだった。
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