第165話 あれ!?
起床後、アメリアとローガンは、シルフィが運んできた朝食を向かい合って取ることになった。
アメリアにはいつものバランスの取れた朝食が並んでいたが、ローガンには病み上がりを考慮して、温かく消化に良いものが用意されていた。
しかしローガンはそんな配慮を余所に、目の前の料理に手を伸ばし勢いよく食べ進めている。
「も、物凄い食欲ですね……」
アメリアが驚いたように声をかけると、ローガンは口のものを飲み込んでから答える。
「昨日はほぼ何も食べてないに等しいからな」
「確かに、すぐ寝てしまいましたもんね」
一心不乱に食べ続けてるローガンに、アメリアはくすりと笑う。
食欲を満たすだけではなく、生命の力を取り戻すために食事を摂っているように見えた。
「もうお身体は本当に大丈夫なのですか?」「お陰でほぼ全快した。ありがとう」
ローガンが元気さをアピールするように、腕や肩を大きく回して見せる。
その動作を見て、アメリアは心底ホッとしたように微笑んだ。
そのやり取りを眺めていたシルフィは、紅茶を注ぎながら話しかけた。
「帰る前に回復して良かったですね」
「まったくだ。もし、帰宅が遅れたり仕事に穴が開いたら、スケジュールが崩れて厄介だったからな」
ローガンは軽く息をつきながら、安堵の色を見せた。
もともとローガンの仕事の都合で、今回の外出は船での移動を除くと、二泊三日という短い予定だった。
今日は帰宅する日であり、船で帰途に就かなくてはならない。
もし不調が長引いていたら、体調の優れない中で船旅をしなければならなかっただろうと考えると回復して良かったと思う。
「あっという間でしたね」
旅の終わりを惜しむように柔らかな声で呟くアメリア。
「楽しい時間はすぐ過ぎるというからな……帰ったら待っているのは仕事だ……」
「ふぁいとですよ、ローガン様!」
少し気が重いとばかりに息を吐き出すローガンに、アメリアは胸の前でぎゅっと拳を握って激励するのだった。
そうして、穏やかな食事を続けている時。
ふとローガンが、アメリアをじっと見つめて声を上げた。
「そういえば今気がづいたのだが……」
「いかがなさいました?」
ローガンがスッと、アメリアの胸元に指差して言う。
「ペンダントは、今日はつけてないのか?」
「え?」
その言葉の意図に気づき、自分の胸元を見る。
「あれ!?!?」
いつもつけていたはずの、アクセサリー。
ローガンから贈られたクラウン・ブラッドのペンダントが、首元から忽然と消えていることに気づき、アメリアは上擦った声を上げた。




