第13話 公爵様の困惑 ローガンside
「……あれが、まともに読み書きすらできない無能か?」
「ご冗談を」
夕食の騒動を終えて、執務室に戻るなりローガンとオスカーはそんな会話を交わす。
「むしろ、逆かと」
「下手すると、王都に激震が走る天才だな」
ローガンが椅子に深く腰掛ける。
「一体、何がどうなっているんだ」
さっぱりわからんと、大きくため息をつく。
「読み書きに関しては今日、契約書をしっかりと読解できていたことから噂とは違うと思っていたが……あんなとんでもない物を作ったとなるとな……」
もはや、噂の真偽どころではない話になった。
「いや……まだアメリアが薬の自作を偽っているという可能性もある」
「その線は残されておりますね」
あの薬を自分で作ったというのは真っ赤な嘘という可能性だ。
むしろそう思う方がまだ信憑性があった。
それほどまでに、アメリアが使用したあの薬の威力は桁外れだった。
今になって事の重大さがじわじわと現実感を伴ってくる。
本当なら先の時間に真偽を確かめたいところだったが、今日中に処理しなければいけない書類が多くあったため後日改めて話を聞くことになっていた。
「あのリアクションからして、嘘を言っているようには思えませんが……」
「重々承知だ」
もし、本当にアメリアが作ったものとしたら。
「ハグル家は……とんでもない逸材を手放した事になるな」
ローガンが考えていると、オスカーが髭を撫でながら思い起こすように言った。
「妙なことに、アメリア様は自身がお作りになった薬の価値を、全く把握していないように見えました」
「同感だ。だとしたら、ハグル家の人間は彼女に薬の価値を知らせていないとか?」
「もしくは、知らない、とか」
「考えられるな」
薬は調合の過程において非常にデリケートで手間暇のかかる代物だ。
大量生産ができないため、ひとつでも非常に高価である。
加えてあの効力となると、ざっと見積もっても一つで庶民の平均月給分の価値はあるだろう。
金に腐心することで知られるハグル家の当主が、アメリアの能力を知っていてあの支度金の額を提示したとは思えない。
確かに少々強気な提示額だったが、法外というものでもなかった。
薬一つで莫大な利益を出す娘を、あの額で嫁がせるわけがない。
「そうだ……支度金のこともアメリアと話さねば……」
諸々のタスクに埋もれて抜けていた。
折りを見て、手続きを進めなければならない。
(やることが盛り沢山だな……支度金のことは、アメリアから話が出たタイミングで詰めるとしよう)
物事には優先順位がある。
今は目先の書類処理が第一優先だ。
いま判断を下すのは不可能だった。
「とにかく、今日のことは他言無用だ。あの場にいた使用人、全てに口止めを頼む」
「もちろんでございます」
「それと、アメリアの実家についての調査を急がせろ」
「かしこまりました」
ローガンは頭を乱暴に掻いた後、机に聳え立つ書類の山に目を向けて深いため息をついた。
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