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第105話 アメリアの危うさ

 深夜、王立カイド大学のウィリアムの研究室。


「出来た……」


 小瓶に入った液体を見て、ウィリアムは言葉を漏らす。 

 アメリアから貰ったレシピをもとに調合した、紅死病の新薬だ。


 色も、匂いも、今日アメリアが作ったものと同じもの。

 あとは実際に紅死病の患者に飲んでもらって、効果を測定するだけである。


「こんなに簡単に作れるとは……大量生産が出来る日も、そう遠くなさそうですね」


 ウィリアムの言葉の通りアメリアの考案したレシピでは、国内では採取できないザザユリに変わって、スーランで薬を作ることができる。


 スーランは道端を歩いていても目にする植物なので、材料不足に悩まされることはないだろう。


「まだ、夢を見ているような気分ですね……」


 長年、自分を含め何人もの研究者が解決に取り組んでいた難問を、研究者でもない17歳の少女がたった一日のうちに解決してしまった。

 自分では足元にも及ばない圧倒的な才を目にした高揚感で、油断したら手が震えそうになる。


 そんなウィリアムの研究室に、ゴンゴンッと重い音が響く。

 息をつき、ウィリアムは椅子ごと音を出した主に身体を向けた。


「斧でノックしろとは言いましたが、本当にする人がいますか?」

「しないような常人が研究者なんざなるわけねえだろ?」


 ウィリアムの視線の先で、リードが斧を手にニヤニヤ笑っていた。


「俺も、無理はするなと言ったはずなんだがな。今日も朝まで徹夜か?」

「私の仕事が朝までかかるのであれば、朝までやる。ただそれだけです」

「お前、その生活してると長生きしないぞ……?」


 心配を含んだ声で言いつつ、リードが椅子に座って尋ねる。


「そういえば、今日もへルンベルク家に行ってたそうだな。何か収穫はあったか?」

「収穫……」


 収穫どころか、業界を揺るがす出来事があった。

 その経緯を口にしようとし……寸前で、ウィリアムは飲み込む。


「まあ、ぼちぼちですかね……」


 そう言いながらウィリアムは、先ほど完成した新薬を後ろ手に隠した。


「おっ、そうか。まあ、貴族の令嬢にしちゃ、悪くはなかったと評価を受けるだけでも御の字だな」


 何も知らないリードが呑気にそんなことを言っている。

 一方で、ウィリアムの頭の中ではパズルが組み合わさるような感覚が生じた。


「そうか、そういうことですか……」


 合点がいった。

 昨日から抱いていた、アメリアに対する違和感の正体。


「どうした?」


 リードの言葉には答えず、ウィリアムは思い出す。


 ──新薬のレシピです。走り書きですが、その手順で作れると思います

 ──……良いのですか?

 ──と、いいますと?

 ──私がこれを元に新薬を作って、開発者は私ですと言い張るかもしれませんよ?

 ──そ、その発想はなかったです……!!


(あの時、アメリア様は私を全面的に信用していた……)

 

 昨日、初めて会った人間に、業界を揺るがすような薬のレシピをサラッと渡してしまう無防備さ。


(アメリア様は、純粋過ぎるんですね)


 よく言えば、人懐っこい。

 悪く言えば、すぐ人を信用してしまって警戒心がない。


(それは、この世界において諸刃の剣となる可能性が高い……)


 商品の世界と切っても切り離せないのが、『金』だ。

 薬学の分野も漏れなく、利権の世界と密接に繋がっている。


 この世界は多くの人々の思惑や欲求で複雑に絡み合い、そこら中に悪意が散らばっているのだ。

 そんな中、自分の発明した薬の重要性を認識せず、ほいほいとレシピを手渡すような真似をしているとどうなるか。


(アメリア様を手中に収めようと、碌でもない連中が、碌でもないことを考えるに違いありませんね……)

 

 想像に容易いことだった。

 今回の紅死病の新薬だって、どのような形で発表をするのか、アメリアと話し合ってしっかりと考えていかなければならない。


 研究者でも薬学界の権威でもない、17歳の少女が開発したなんて発表をなんの根回しも無くしようものなら大混乱になることは目に見えていた。


「おーい、ウィリアム。おーい」


 考え込むウィリアムの前でリードが手を振るも、反応はない。

 リードは「だめだこりゃ」とばかりに肩を竦め、静かに部屋を出ていった。


 何か新しい閃きが降りてきて考えに没頭し始めたのだろうと、リードは判断した。


 しかしウィリアムの頭の中は、アメリアの今後についてどうしていくかでいっぱいだった。


「アメリア様が学ぶべきは学問ではなく……社会常識や処世術といったものかもしれませんね」

 

 ウィリアムの呟きが、ぽつりと落ちた。

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