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エピローグ

 引き絞るアクセルに合わせ、速度とエンジンの回転数が上がっていく。いままでで一番の快晴の下、俺はGANGAN400を走らせていた。


 クラスメイトをぐしゃぐしゃにし、数学教師が引きつった笑顔で暴れ出したのを見て、俺は学校を後にした。

 溜まりに溜まった圧縮された可燃性ガスは、ついに爆発した。きっと誰もが望んでいた点火プラグの役を、俺はやってやった。もしかしたら、圧縮され過ぎたがゆえの自己発火と言った方が良いのかも知れない。どちらにしろ、待ち望んだ着火だ。


 すでに遠く離れた、港北ニュータウン第二地下シェルター街。旧センター北駅の方向で、爆発音が響いた。その轟音が、俺の行為を肯定しているように思えた。

 しかし、是非なんて関係ない。意味がない。結局、俺は西茂森と一緒だった。圧縮されていくシリンダの中で生まれた、化け物だ。


「どこ行くの?」


 短距離通信で黒岩の声が聞こえた。でも、ドローンは飛んでいない。


「どこがいいかねえ……」

「圧し折れた横浜マリンタワー。輝く海も見てみたい」


 ガレージに現れた、血まみれの俺と防護服姿の黒岩を見て、店長はげらげら笑った。モヒカンも揺れていた。そして、沢山の交換パーツや工具、食料を俺たちに渡してくれた。

 黒岩もデカいバッグパックを背負っている。ドローンや機材が詰まっているらしい。車体のサイドには馬鹿デカいモンキーレンチも括り付けられていて、想定外の重量にGANGAN400はスペック以下の速度しか出ない。200ccのままだったら、まともに走れていなかっただろう。


「横浜マリンタワーなんて、近付いたら即死もあるぞ」

「ギリギリまで。カウンターは持ってきてある」

「準備良すぎだろ……」


 黒岩は、バックパックもずっと前から用意していたらしい。別れも済ませてあると言っていた。そうなると、地上を走る俺は、黒岩にずっと目をつけられていたのかも知れない。そんなことを考えてしまう。もしかしたら、後ろ(タンデムシート)にいるのは、とんでもない化け物なのかも知れない。


「鶴ヶ坂が犯人。それが私の“希望”ってやつだった。ねばって良かった」

「なんて身勝手な」

「え……。ごめんなさい。鶴ヶ坂がそれを言うとは思わなかった」


 予想外に、しょんぼりした声が返ってきて、俺は慌てた。


「い、いや。すまん。いまのは皮肉だ」

「分からん」

「気にすんな。楽しいから、良い」


 そうだ。楽しい。化け物だろうと構わない。俺の行為が、もうすぐ終わる人類の歴史に名を残すほどの悪行であったとしても構わない。


 廃墟になったガソリンスタンドや整備工場を漁ろう。ガソリンや交換できるパーツが見つかるかも知れない。幸いなことに、黒岩には整備の技術もある。

 汚染されていない食料やフィルター。もしかしたら、多少は綺麗な場所もあるかも知れない。それを探そう。

 別の地下シェルター街に立ち寄って、持ち物で取引してもいい。そうやって、俺たちはどこかへ走り続ける。行けるなら、どこまでも走ろう。


「私も楽しい」

「そうか」


 道中、俺たちは呆気なく死ぬかも知れない。可能性は、かなり高い。

 でも、たとえ次の瞬間に死ぬとしても、地下で圧縮され続ける惰性の終末よりは、ずっと良い。


 身勝手の果て、俺たちの当てのないモーターサイ(チキン)クル・()ツーリング(ース)が始まった。

 先に待つものが何であろうと、その“不確定な未来”を“希望”と呼ぶことにする。それさえあれば、きっと俺は死ぬまで生きていける。


「もっと飛ばせ、義兼」

「テンション上がってるとこ悪いが、このバイク遅ぇんだよ」

「あはは!」









 ―おわり―

モンキーレンチで人を殴るのはやめましょう。

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