オチャコ感無量
あたしはすべてを語り尽くした。いわゆる「感無量」という心境よ。
「さすがっすね、チャコちゃん」
「いやあ別に……」
「あ、自分もチャコちゃんのこと、《オチャコ》って呼んでいいっすか?」
「はい。もちろんいいっす! あはは」
「ふふっ」
この夏、穂波お姉さんとも凄く親しくなれたわ。
「それじゃオチャコに推理クイズを出してみるっす」
「え、なんですか?」
「自分は一度も結婚したことないっすけど、母と名字が違うっす」
「へ、そうだったんですか!?」
「麦斗じゃなくて、寿間なんすよ。それはどうしてっすか?」
「そうねえ、お父さんの名字ですか?」
「正解っす! やっぱしさすがっす、オチャコは」
「いやあ別に……」
二度も褒められて、照れてしまうあたしだった。
この翌々日、寿間穂波さんは横浜へ帰っていった。その次の日、夜、彼女からメッセージがきた。それには「プロポーズ受けて貰えたっす!」と書いてあって、あたしは「寿間穂波さん、おめでとうっす!」と返したのよ。
ホントによかったわね、穂波お姉さん。幸せになって下さい、あたしは心から祝福するのだった。
そうして、いよいよお婆ちゃん家滞在の最終日、八月二十六日を迎えた。
十三歳のオチャコ、初めての独り旅は無事に終了。あたしは今日もまた感無量よ。
夕方になる前、近所のスーパー「オウミバリュー」まで、お使いに出掛けた。夕食の材料を、お母さんから頼まれたからね。
スーパーの中、お菓子コーナーに知り合いの女子が二人いた。
先に見つけたあたしが呼び掛ける。
「マサミちゃん、テルモっち、見っけ!」
「あ、オチャコ!!」
「ちわー、オチャコ」
伊達正美音さん、毛利輝母さんよ。去年は同じクラスだったけど、今年は三人、バラバラになっている。
マサミちゃんが言う。
「ねえオチャコ、聞いた?」
「なに、なに?」
あたしは興味津々。こういう場合って、たいてい面白いネタに決まっているもの。
「トシヨンがね、仔猫ちゃんを飼ってるのよ」
「ええーっ!」
トシヨンというのは、あたしのクラスメイト、前田利代さんのこと。
「昨日、見に行ったの」
「そう、私もよ」
マサミちゃん、テルモっちは、既に接見済みだって。羨ましい!
「可愛かった?」
「うん、もちろん」
「そうそう。優しい声で、《なぁーお》って鳴くの」
「きゃあ~、なにそれっ、あたしも見たい!」
すぐ見たい! 絶対見たいし、「なぁーお」って鳴いて欲しい!
二人ともう少し話を続け、別れて、急いで必要なお買い物を済ませ、走って浅井家に帰宅した。