事件発生!
頼んだ品がくるのを待つ間、あたしは両親を問い質すことにする。
「ねえそれでお母さん、お父さん、事件ってなによ?」
「あのねオチャコ、お父さんが東京の本社勤務になるのよ」
「え、それじゃお父さん、いわゆる《単身赴任》とかになるってこと?」
「違うわ。浅井家の三人が揃って、東京へ引っ越すのよ」
「ええっ、ちょっと待ってよ!! あたしイヤだよう」
そんなことになれば、トシヨンとも明智くんとも離れ離れになるじゃん!
「無理を言わないの。お父さんにとっては栄転になるのよ。オチャコに分かるかしら、栄転って」
「それくらい知ってるってば! そんなことより、あたし一人暮らしするわ。だから今のまま北琵琶学園に通って、大学は東京にすればいいのよ」
「ダメです! あなたが一人で生活できる訳ないでしょ」
「そんなあ……」
ああ、北琵琶学園が全寮制の学校だったらよかったのに。
こんなこと、今さら願っても遅いけど、そう思わずにはいられなかった。
あたしは、自分でアルバイトして自活するだとか、色々言ってはみたけど、どんな案を出そうとも、ことごとくお母さんが却下するのよ。
今回ばかりは、お父さんも、あたしの味方にはなってくれなかった。
「済まないなオチャコ。お父さんの都合で、お前につらい思いをさせてしまうことは、お父さんにとっても結構つらいんだ。ここは一つ、どうか聞き分けて貰えないかなあ?」
「うーん、お父さんから、そこまで言われちゃあねえ……」
既に万事休す、といったところだわ。
こうなったらなったで、先のことを考えるしかない!
「ねえ、そうしたら、あたしは東京で、どこの学校へ行くのよ?」
「聖アガサ女学院という名門校があるのだけど、そこと北琵琶学園とが横の繋がりを持っていて、互いに無試験で生徒を受け入れる体勢ができているの。今回のように急な転勤とかあった場合に備えてね」
「聖アガサって、聞いたことあるわ。そっか! そうなのよ、玉紗さんが、そこから転校してきたのだった!」
「細川さんという、お嬢さんのことね?」
「うん。二学期の初日、北琵琶学園にやってきたのよ。それで今度はあたしが、あちらへ行くことになるのかあ……」
それが少し奇妙で、不思議に感じるあたしだった。
「ねえオチャコ、冬休みのうちにもう東京へ行っちゃう? それとも、三学期の始業式に出て、クラスの皆にお別れしてからにする?」
「そうね、あたしは黙って二年梅組を去るなんてイヤだから、始業式には出ることにするよ」
「分かったわ。そうしなさい」
「うん」
オチャコ十四歳の、つらい冬が始まったのだわ……。