素敵なパーティー
十二月二十四日の夕方、あたしがトシヨンと一緒に、明智くんのお家にやってきて、二人同時に驚くのだった。
「うわっ綺麗、なのよこれぇ~、素敵!」
「本当だわ、とってもロマンティック!」
ここがお寺の境内だとは思えない光景が広がっているから。
敷地の中央に、五メートルくらいもの高さがある、大きなクリスマス・ツリーが立っていて、その周囲にも、作り物だけど、二メートルくらいのツリーが円を描くようにして、沢山並んでいる。
それらすべてにイルミネーションが施されていて、白、赤、緑の光が、交互に優しく煌めいているのだもの。とても幻想的よ。
「いらっしゃい。二人が一番乗りだね」
「あ、光男さん。こんばんは」
「明智くん、今日はお招き下さってありがとう」
「どう致しまして」
「ねえ光男さん、この大掛かりな飾りつけ、凄いね!」
「これらはね、毛利さんのお父さんがやっている会社で、今年処分することになっていたみたいなんだよ」
「え、毛利さんって、菊組、テルモっちのこと?」
「そうだよ。毛利さんの家は、家の檀家さんなんだけど、輝母さんのお父さんは、イベント用品をレンタルする会社をやっているんだ。それらレンタル品は、流行に合わせて数年で入れ替える必要があるから、僕の父が聞いてね、その古い方を譲って貰ったって訳なんだ」
そっかあ、明智くんと毛利さんがそういう繋がりがあったとは。
世間は広いようでいて、結構狭かったりもするわね。
「あ、あたしたち、なにか手伝おうか?」
「いや大丈夫だよ。今日は皆、お客さんなんだし」
突如、いつもの乱暴な大声がする。
「おいコラッ光男、なんだよ、この派手な演出は!?」
「綺麗だっぴ。うきゃきゃきゃ!」
「さすが明智家だな」
ここに現れたのは、北琵琶学園中等部、二年梅組の、いわゆる「迷惑三傑」という異名を持つトリオ、織田くん、十吉、松平くんだった。
「ちょっと織田くん、パーティーに招待して貰って、そんな言い方って、ないんじゃないかなあ?」
「お浅井、馬子にも衣装ってか」
「オチャコ、綺麗だっぴ!」
「ほう、浅井にしては洒落た格好だぜ」
「あらま、そうなの。おほほ」
今日のあたしは、赤いパーティ・ドレスを着ているのだからね。
お父さんが一足早く、クリスマス・プレゼントとして買ってくれたの。
「お世辞だってぇの! つーか気色悪い笑い方やめろ!」
「オチャコ変顔だよ~ん。きゃきゃきゃ!」
「あははは!」
織田くんに突っ込まれ、十吉、松平くんに笑われるあたしだった。
それでもめげずに、こちらも突っ込んでやることにする。
「そ・れ・よ・り、お三方さん、クリスマス・パーティーに体操服でくるって、それこそどうなのよ!」
「焼肉パーティーだろ、汚れてもいいようにな」
「オチャコも体操服に着替えればいいきゃ」
「そうだぜ浅井、合理的な服装だからな」
「合理的でも、着替えないわよ!」
「おい浅井! お前こそ、そんな格好してたら、焼肉のタレとかついちまって、台無しになるんじゃねえか?」
「平気平気、食べる時には、ちゃんとエプロンつけるんだもん」
この後も順次、招待されているお客さんたちが、大勢やってきた。
松組から、荒木くんと武田くん。竹組の滝川くん。
梅組は、先にきたあたしたち五人の他には、大福くん、玉紗さん、柴田さん、大谷さん、小早川さん、蜂須賀さん、竹中くん、黒田くん、丹羽くん、佐久間くん、そして担任の足利先生までやってきた。あと桜組の伊達さん、菊組の毛利さん。
千客万来とはまさにこのことね。
粉雪もチラついてきて、いわゆる「ホワイト・クリスマス」になりそう。
こうして、賑やかで盛大なクリスマス・イブ・バーベキュー・パーティーが始まるのだった。
でもね、こんなにも楽しく嬉しいことばかりが続くように思えた、オチャコ十四歳の冬が、つらい季節になっちゃうだなんてこと、いくら名探偵でも、この時のあたしは、露ほども予感できやしなかったの。