オチャコの名推理!
あたしは、今度こそ探偵オチャコの出番だと思った。
「あの、先生!」
「おお浅井、なんだ?」
あたしの声を聞き、現実に戻ってきた足利先生だった。
「先生のお兄さんが借りた本って『浅井長政』ですか?」
「いや違うな、兄貴の机の上に残されていたのは『足利義昭』だった」
「えっ!?」
そうすると、『浅井長政』は謎のミステリー本じゃないってこと?
あ、そっか! 謎本って、複数あるってことなのよ。まさに謎だわ。
この時、あたしの推理脳が、なにかを感じ取りそうになった。
「足利先生は、三十六年前に近江女学院で起きたという、生徒が消えた事件のこと知ってますか?」
「ああ、知っているとも」
「その犠牲者は、守邦さんという人なんですよね?」
「そうだよ」
「やっぱりね。先生は、その事件の引き金になった謎のミステリー本がなんという書名だったのか、知ってるんでしょ」
「うん知っている。その謎本は『守邦親王』だ」
これによって、あたしの推理脳はハッキリと感じ取ったわ!
「それなら松平くんは無事です」
「おいコラッ浅井、なにを根拠にそんなことが言えるんだ!!」
「織田くん、あたしの推理を聞かせて欲しいの、か・し・ら?」
「当ったりめえだ! 共康の命が懸かってんだぞ。さあ浅井、早く言いやがれ!」
「言うわよ。昨日ね、附属図書館で、叫び声を上げて松平くんが消えた時、床に、開いた状態で落ちていた本は『浅井長政』だったわ。でも、それは謎のミステリー本じゃあないの」
「なんだと!?」
織田くんは開いた口が、ふさがらない顔をしている。
他の生徒たちと足利先生は、固唾を飲んで、あたしに注目している。
「もし松平くんの姿が消えちゃうような謎本があったとするなら、それは他のどの本とも違って、紛れもなく『徳川慶喜』でなければなんないからよ」
「なっ!?」
「三十六年前が『守邦親王』で、十八年前が『足利義昭』、それぞれ鎌倉幕府と室町幕府で最後に征夷大将軍になった人なの。だから、次に謎ミステリーが起こるなら、それは江戸幕府最後の将軍の伝記本だわ。どうよ、あたしの推理、完璧でしょ?」
「是非もなし!」
織田くんは開いたままだった口で、そう発した。
突如、教壇側にある引き戸が開いた。
「さすがだな浅井、見事な推理だぜ」
そう言って入ってきたのは、松平くんだった。
織田くんが真っ先に声を掛ける。
「おお共康、無事だったか!」
「うん。心配させて悪かったよ」
「是非もなし。この俺様は、お前が生きてるって信じてたぞ」
「そうかい」
織田くんってば、調子いいわね。
まあ松平くんが無事でなにより。これ名馬、じゃないか名生徒ならぬ迷惑生徒。
丁度ここでショート・ホームルームが終わった。
一時間目の授業が始まるまでの短い時間のうちに、あたしは明智くんのいる席へ走った。
「光男さん」
「茶子さん、さっきの推理は冴えてたね。僕、脱帽したよ」
「そんなあ、光男さんだって、バッチリ分かってたのでしょ?」
「うん。でも茶子さんに先を越された。今日は僕の負けだね。あはは」
「ううん、勝ち負けじゃないの。あたしは、常に真実を明らかにしたいだけなんだもの。浅井の名に懸けてね」
「その通りだよ。よくぞ言ってくれた」
彼のメガネがキラリと光った。
このクール・ボーイめ! でも、あたしは凄く嬉しかったの。