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恋や事件やオチャコの騒がしい物語  作者: 水色十色
図書館のミステリー
63/72

足利先生の談

 梅組担任の足利先生が入ってきた。

 教室にいる生徒たちは、全員が着席している。空席は一つだけ。


「皆、おはよう。あ、松平はまた遅刻か? 本当に仕方ないやつだなあ」

「先生!」

「おお黒田、どうした?」

「松平は昨日の夕方、図書館で姿を消したんです。それ以降、連絡がつかない状態が続いてます」

「なに、図書館で姿を消しただと!?」

「そうです、叫び声を一つ残して、忽然と姿を消しました。松平のやつ、ウワサのミステリー本を見つけてしまったみたいです」


 黒田くんの話を聞いて、生徒たちがドッと沸く。「なんだそれ!?」とか、「超こえぇー」とか、「おおっ、そのウワサ俺も聞いたことある!」などと多くの声が飛び交う。

 それで足利先生が口調を厳しくして言う。


「おい皆、静かにしろ! ここは劇場でも遊園地でもない。動物園でもない。皆は理性ある人間じゃないか。だから落ち着いて、僕の話を黙って聞け!」

「先生、クラスメイトが一人消えたんですよ。それを知った今、落ち着いてなんかいられますか?」

「いや黒田、そしてクラスの皆、お前たちの気持ちは痛いほど分かる」

「先生、適当なこと言ってませんか?」

「黙れ黒田! 僕は真剣に話しているんだ。実はな、僕の兄貴あにきも、十八年前に同じ目に遭い、行方不明になって、しまったのだよ……」


 この言葉で、教室内が騒然となった。


「先生、それマジですかっ!!」

「足利先生のお兄さんって、ここの生徒だったんですか??」

「死んだってことですか!」

「姿が消えて、どこかで死体になって発見されたんですか?」


 二年梅組では、蜂の巣を突いたかのような、ブンブンと騒がしい状況になってしまったの。この場は、あたしがビシッと引き締めないといけないかもね。


「皆、静かにして下さい。勝手な発言をやめて下さい! 立っている人は、すぐに着席して下さい。クラス委員として皆に命じます。さあ静まりなさい!」


 先を越されちゃった。

 クラス委員が、彼女の役目を立派に果たしたのだもの。


「柴田、ありがとな。そして皆、どうか落ち着いて、僕の話を聞いてくれ」


 これで教室がようやく静まった。

 少しは冷静さを取り戻した生徒たちは、十八年前に起きた事件について、聞きたいと思っているはず。だから静かにするのは道理よ。


「十八年前、僕はこの学園の初等部三年生だった。僕の兄貴もここの生徒で、中等部の一年だった。ある日、兄貴は附属図書館から本を借りてきたのだが、その翌朝、僕らの家の二階にある勉強部屋、兄貴の机の上に、その本が開かれた状態になっていた。しかし、彼の姿はなかった。忽然と消えたんだ。警察や消防がどんなに捜しても、兄貴は見つからなかった……」


 足利先生は、まるで昨日そんな悲しい事件に遭遇したかのように、とても悔しそうな表情をして、うつむき黙り込んでしまった。

 クラスの皆も、たぶん、どういう言葉を掛ければよいのか分からないのだろう、誰一人として声を上げる生徒はいなかった。

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