明智くんの証言
ここは、彼の彼女として優しく声を掛けてあげて、バッチリ対応しなきゃね。
「光男さん、どうしたの? もしかして風邪? 保健室行く?」
「いや大丈夫だよ、ありがと。実はね、あ、他の皆も聞いて欲しい」
「あ、なんだポンカン! お前、言いたいことがあるなら、今日だけは特別に言わせてやろうじぇねえか」
織田くん、いちいち偉そうよ。でも今それを指摘をすると、余計に話がこじれちゃうから、黙っておくけどね。
「松平くんのご両親は温泉旅行中なんだよ。そのことを一昨日、彼から直接聞いたんだ。なんでも、彼は商店街の福引きで一等賞を当てたそうだよ。その賞品として得ることのできた、《ペアで熱海温泉旅行に二泊三日ご招待》を、ご両親にプレゼントしたのだって。丁度、結婚記念日だということもあってね」
へえ~、福引きで一等賞だなんて、松平くんもラッキーな男だね。まるで「棚から天下餅」みたいな感じよ。
兎も角、明智くんの証言は百パーセント信憑性があって、黒田くんたちの証言の裏づけとして、百二十パーセント有力な情報よ。
「そうか、それなら共康の家が留守なのは合点がいくなあ。おい佐久やん、もう一回共康のスマホに連絡入れてみろ」
「合点承知、電話の介」
佐久間盛信くんが、そんな風に戯けたことを言いながら、携帯電話を使って松平くんに掛ける。
十数秒待っても、佐久間くんはしゃべらない。つまり相手が出ないってこと。
「信仲様、共康のやつ電話に出んわ」
「であるか。是非もなしだ」
このコンビも、なかなか妙に滑稽なのよね。まるで、お屋形様と、その家臣みたいな感じでね。ふふ。
そして、ここであたしはピンときた。
「分かったわ。松平くんは親が不在だから、寝坊してるのよ」
「うん。可能性として十分にあり得ると、僕も思うよ」
あ、明智くんがあたしの推理に賛同してくれた。これは心強いこと。
「だがなあ明智、お前、昨日付属図書館であった怪現象について知ってるのか?」
「え、織田くん、それはどういうこと?」
「ははは、光男、まだ浅井からも知らされてないのか。お前ら破局が近いな」
「織田くん黙ってよ。光男さんには、彼女である、このあたしから話す」
「ふん。イチャついてんじぇねえぞ、ボケナスども!」
あたしは、織田くんの暴言を無視して、昨日の夕方に起きた、あの奇妙な事件について説明した。
周囲にいる男子たちも、茶茶を入れず黙って聞いてくれた。
「そんなことがあったんだね」
「うん。どうせ松平くんたちのイタズラだと思ったから、光男さんには伝えるまでもないかなって思ったの。ごめんなさいね」
「いや別にいいよ。茶子さんが謝る必要はないから」
少ししてチャイムが鳴り、朝のショート・ホームルームが始まるのだった。