大事件!!
十二月二十二日、金曜の朝。
いつもと同じくらいの時刻、二年梅組の教室に入ってきた。
トシヨンは先にきている。あたしの姿を見つけ、こちらへやってくる。
「おはよう、オチャコ」
「うん、おはおはぁ~」
「ねえオチャコ、松平くんが行方不明になったこと、知ってる?」
「え、誰がそんなこと言ってるの!?」
「黒田くんよ。ほらあっちで、男子たち集まってるでしょ」
トシヨンが指差す方向に、小さな黒山の人だかりができている。
いるのは、黒田くん、十吉、織田くん、竹中くん、佐久間くん、丹羽くん。
あたしはその現場へ行ってみることにした。黒田くんと十吉が変なウワサを流しているなら、とっちめてやらなきゃだからね。
「ちょっと、黒田くん、十吉、もしかして昨日の図書館でのこと話してるの?」
「おいコラッ浅井、いきなり入ってきて、俺様に挨拶なしかよ!」
「あー、もう煩いわね。織田くん、おはよ」
「おう、最初から筋を通せ。それよりもなあ浅井、大事件だぞ」
「えっ?」
「共康のやつ、昨日の夕方からずっと連絡がつかないんだ。官平と十吉が、あいつの家まで行ってみたらしいが、誰も出てこないんだってよ」
「え、それってホントなの!?」
「当ったりめえだ! この俺様がウソつく訳ねえだろがっ!」
まあ確かに、織田くんってイタズラはしても、ウソついて人をダマすようなやり方はしないタイプだわ。たぶん彼は、そんなことするのは、いわゆる「セコいやつ」だと思ってるのでしょうよ。
突如、知的でクールなボイスがあたしの耳に届く。
「皆おはよう、事件が起きたそうだけど――」
「おいコラッ光男、いきなり入ってきて、俺様に挨拶なしかよ!」
「あ、ごめん。織田くん、おはよう」
「おう、最初から筋を通せ。それよりもなあポンカン、大事件だぞ」
「え?」
「共康のやつ、昨日の夕方からずっと連絡がつかないんだ。官平と十吉が、あいつの家まで行ってみたらしいが、誰も出てこないんだってよ」
織田くん、あたしに話したのと一字一句同じことを明智くんに伝えている。
「ねえねえ、松平くんの家が留守だったとしても、それは、家族でお出掛けしてただけのこと、じゃあないのかしら?」
「あ、なんだと! 俺様が早とちりでもしてるって言いたいのか?」
「そうよ。連絡がつかないだけで行方不明になるなら、携帯電話の電波状況が悪くなったり、電池切れになったりしてる人が皆、そうなるでしょ」
「あのなあ、俺はそんなこと言ってるんじゃねえ。つーか、お前も昨日、図書館で共康の叫び声聞いて、妙な本見つけたんだろ? 官平たちがそう言ってるぞ」
「うん、それは、そうなんだけど……」
「ちょっと待ってよ、茶子さん。それ本当なのかい?」
「うん、ホントよ」
あたしの返答を聞いて、普段は笑顔の多い明智くんが、表情を曇らせる。
まるでメガネのレンズまで、曇ってしまったかのようにね。