金田一お兄さん
突如、アルバイトのお兄さんが、あたしをフォローしてくれる。
「おうそうだ! 俺も、その犯人を絶対に捕まえてやる! キミの名は?」
「あたしの名前は浅井茶子だよ。仲のいい友だちからは、《オチャコ》って呼ばれているの」
「そうか、オチャコっていうのか」
「うん。それで、お兄さんは?」
「俺の名は金田一大作。オチャコ、俺と一緒に犯人を見つけようぜ!」
「うんっ!!」
あたしは、十二年の人生で一番に激しく奮い立ったわ。
こういうシチュエーションは初めてのことだけど、これこそ、あたしの推理脳をフルパワー全開モードで活かす、絶好の好機なのだもの。
それで、あたしは問い掛ける。
「防犯用の監視カメラは?」
「おう、それは店の出入り口に一つある」
金田一お兄さんがそう言った。
犯人は、それに映っているはず。だから、捕まるのも時間の問題よ。あたしは、既に勝った気でいた。
突如、お母さんが怖い顔をして言ってくる。
「オチャコ! ちゃんと最後まで食べなきゃダメでしょ!」
あたしは、まだ食べ掛けているままの「冷やし海老天うどん」を、取りあえず済ませることにした。凄くおいしい逸品なのだから、残そうだなんて気は、サラサラないのだもの。
そうしている間に、目撃者のお客さん二人と金田一お兄さんが、監視カメラに映っている犯人を特定して、その者が写った姿をプリントアウトしてくれていた。
あたしはお父さんにお願いすることにした。
「犯人を逮捕するまでは、ここにいさせて。あたしだったら、もう一人で列車に乗ってちゃんと帰れるわ。だからお父さんたちは先に出発してくれていいから」
ここにお母さんが割り込んでくる。
「そんなのダメよ。三時になったらお婆ちゃん家を出るのだから、それまでには、オチャコもさっさと帰り仕度をしておきなさい。分かった?」
「だってお母さん、事件なんだよ!」
「事件も糸瓜もありません!!」
「そんなあ……」
ここへお父さんが割り込んで、あたしをフォローしてくれる。
「まあそんなにガミガミと言うなよ」
「はっ? 誰が、ガミガミ言うですって!?」
「お前だよ」
「私は……私はただ、オチャコが心配で、だから言っているのよ」
「オチャコだって、いつまでも子供じゃないんだ。それに、可愛い子には旅をさせよ、とかってよく言うだろ?」
「それは、そうですけど……」
お母さんは勢いをなくしているようだった。
だから、あたしは立ち上がり、心を込めて訴え掛ける。
「お母さん、心配してくれてありがと。でもね、お父さんが言ってくれたように、あたしはもうすぐ大人になるのだから」
「オチャコ……」
「お母さん……」
お母さんが、あたしをギュッと抱き締めてくれたの。
お化粧品の匂いが、「ちょっときついわ」と思うあたしだった。