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恋や事件やオチャコの騒がしい物語  作者: 水色十色
図書館のミステリー
59/72

十吉の歪んだ恋心

 今度は、この場に残った十吉が話し掛けてくる。


「オチャコ、まだ信じないのきゃ?」

「その本がホントに存在するって、ハッキリした確信が得られない限りはね。でも書名どころか、作者とかジャンルすら知られていないのなら、とてもじゃないけど探しようがないわ」

「その本、見つけたいぴょ」

「ねえあんた、十八センチと一ミニを計って、一冊ずつ本の前に立って、見つけようとしてたのでしょ?」

「そうだっぴ。オチャコ、なんで分かったおー!」

「あんた、三十センチ定規を持ってたじゃん。そんなの推理なしで分かるわ」

「そうだおー、おれっち順番に探してたぴょ」


 こんな暇な人は、中等部の中で十吉くらいなものね。


「ここの図書館の蔵書が十万冊近くあるってこと、知らないのね」

「ええーっ!」

「それを一冊一冊、十八センチと一ミニを計って調べてたら、もの凄い時間が掛かると思うよ」

「そうなのきゃ?」

「たまたま最初の百冊くらいの中に見つからない限りはね。そもそも三十六年もの昔からあった本だとしたら、新しいやつは調べる必要ないのよ。あんた一体、何冊確かめたの?」


 あたしなら、十冊まででイヤになるだろうけどね。


「十四冊だおー。十五冊目をやろうとしたら、オチャコの声がしたっぴ」

「邪魔して悪かったわ。でもね、もしそのミステリーが真実で、もし十四冊目までに見つかってたとしたら、あんた今頃、この世に姿がないのよ?」

「えっええーっ!! おれっちが消えるのかぴょ!」

「あんた松平くんから、ちゃんと話を聞いたの? というか、さっき滝川くんが話したの、あんたも聞いてたでしょ?」

「そうだおー。でも共康ぴょんから聞いたのと、ちょっと違ってるんだよ~ん」


 まさか松平くんが意図的に話をすり替えて十吉に教えたのかしら。


「どんな風に違うのよ?」

「共康ぴょんは、人間を消す力のある本が図書館にあるって言ってたぴょ。それを見つけるには、十八センチと一ミニを計って確かめる必要があるって、おれっちに教えてくれたんだっぴ」


 松平くんは、言い方を変えただけで、話の内容は同じだね。


「そもそも、どうして十吉はその本を見つけたいのよ?」

「消したい人間がいるっぴ」

「えっ、まさか織田くんとか?」

「違うぴよ。おれっち、真田を消したいっぺな」

「どうしてよ?」

恋敵こいがたきだからぴょ」

「あはは!」


 そういうことね。よく分かったわ。

 歪んだ恋心って怖いものね。ライバルの人間を消したいだなんてさ。


「オチャコ、笑うなおー!」

「もし大福くんが消えたとしても、あの玉紗さんが十吉のことなんか好きにはならないと思うよ。なのに、それでも彼を消したいの?」

「そうだぴょ!」

「あんた大物になるのかと思ったけど、今はまだまだ小さいわね。男なら、恋のライバルとは、正々堂々戦わなきゃ」

「目的のためには手段を選ぶ必要なしだっぴぃ」

「それって、松平くんが言ってたのでしょ?」

「よく分かるんだおー。今日のオチャコは覚めてるっぴ」

「十吉、それを言うなら、《覚めてる》じゃなくて、《冴えてる》でしょう。まあ確かに目は覚めてるけどね」

「今日のオチャコは――」

「だから言い直さなくっていいから!」

「賢いっぴょ」

「あら、言い直そうとしたのじゃないのね。もう一回言ってもいいわよ」

「今日のオチャコは冴えてるっぴ」

「そっちじゃない!」


 兎も角、ムダに時間をロストしちゃったわ。

 あたしは、書架に戻って、『はてしない物語』を探すことにした。

 十吉は、自分が消えちゃうのはイヤなので、謎のミステリー本を見つけるのを諦めることにして、先に一人で帰っていった。

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