オチャコの推理と滝川くんの談
あたしは、なるべく上品そうな顔を作り、滝川くんに言ってやる。
「あらまあ、滝川一馬さんってば、ご冗談がお好きですこと。おほほ」
「冗談なものか。浅井が信じたくないのなら、別にそれはそれでも構わない。けどなあ、その気色悪い笑い方だけは、今すぐにやめてくれないか」
「オチャコ変顔だよ~ん。きゃきゃきゃ!」
「十吉、煩いわよ。他の人たちの迷惑になるでしょ」
「ごめんぴよ。でもオチャコは、謎のミステリー本のこと、まだ信じられないと思ってるのきゃ?」
「あのねえ十吉さん、ダマされちゃダメなの。なにしろ三十六年前には、この学園がなかったのだからね。ここは今年、創立二十五年のはずよ。この図書館だって、まだ建てられてなかったはずだから」
「へ~、そうなのきゃ」
「そうよ。だから三十六年前に誰かが消えたなんて大ウソなのよ」
突如、滝川くんが笑い声を上げる。
「あははは!」
「あんた、なにが面白いのよ!」
「探偵気取りの浅井だが、その推理も浅いなあって思ってな。それが面白くて笑っただけだ」
「はあ、それどういうことよ!」
「三十六年前、謎本は別の学校、近江女学院の図書室にあったんだ。そこで最初の謎ミステリーが起きて、守邦さんとかいう生徒が消えた。そして今から二十五年前、この北琵琶学園付属図書館が建つ頃に近江女学院は廃校となり、蔵書の一部がこちらへ持ち込まれた。その七年後、つまり今から十八年前、二人目の犠牲者が出たという訳さ」
「なるほどね。そういう深い背景があったのか。あ、でもそれは、あたしの推理の範囲外だもの。単に知っている情報の差に過ぎないわよ」
あたしは負けず嫌いだから、こういう屁理屈をこねるしかなかった。
「それじゃ情報を得られた今なら、このミステリーのこと信じるのか?」
「探偵という人間はねえ、ちょっとやそっと情報を得たからといって、軽はずみな結論は出さないものなのよ。分かる?」
「どの口がそれを言うか。たった一分くらい前に、お前は軽はずみな結論を出したばかりじゃないか。せせら笑いたい気分だぜ」
「さっきのは誘導尋問のためよ。滝川くんが情報を小出しにするものだから、あたしがミスをしたように装っただけ。そしたらあんたってば、ペラペラとしゃべったじゃない。つまりあんたは、あたしの巧みな戦術に、うまうまと乗ってくれたってことなの。ふふふ」
「詭弁だな。バカバカしいし、もう俺は帰ることにする。じゃあな」
滝川くんは、呆れ顔であたしを見下し、一人で去るのだった。