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恋や事件やオチャコの騒がしい物語  作者: 水色十色
図書館のミステリー
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漢字パズルと謎ミステリー

 どうせ理解しづらいだろう十吉のおバカ話を聞くよりも、滝川くんの説明の方がずいぶんと分かりやすいだろうから、ここは彼に話して貰うことにしよう。


「ねえ滝川くん、十八センチと一ミリの謎ミステリーってどういうこと?」


 彼はまず、あいているチェアに腰掛けた。


「話してやるよ。浅井、漢数字の《十》と《八》と《一》を組み合わせて、別の漢字を一つ作ってみろ。十吉、お前も考えろ」

「あたしに推理クイズを出すつもりね」

「おれっちにも推理クイズを出すつもりきゃ」

「推理クイズというほどのレベルじゃないよ。ただの漢字パズルだ。たぶん小学生でも分かるくらいのな」

「そうね。十、八、一で作るなら、それは《本》しかないわね。正解でしょ?」

「おおそうだ。簡単だろ」

「えぇ~、十と八と一で、どして本になるっきゃ?」


 中等部二年生の中で、こんなレベルのパズルに、すぐピンとこないのは、この十吉くらいなものね。


「いくらあんたでも、《本》くらい漢字で書けるよね?」

「去年くらいに書けるようになったぴょ」

「それじゃあ指を使って、ここに書いてみたら」


 あたしはそう言って、円卓の上面を指先でコツコツと叩いてみせる。

 十吉はその指示に従い、左手の人差し指で、まず横線を引き、次に縦線を引いている。


「はいストップ! 今なんの字が書けてる?」

じゅうだぴょ。十吉のだよ~ん」

「そうね。じゃあ続けてみて」


 十吉の指が「十」の交差点辺りから下に、「八」の形を描く。


「ストップ。今書いたのは?」

「木だぴょん。おれっちでもそれくらい分かるっぺ」

「十の次に書いたのがなにかって聞いてんの!」

「十の次? ええっと、八だがや」

「そうそう、尾張徳川家のマークみたいなのね。それで、仕上げとして、縦線の下の方に短めの《一》を書けば?」


 十吉は、「木」の下の辺りに、小さい「一」を加える。


「おおっ、確かに、十と八と一で《本》になるっぴょ!」

「やっと分かってくれたか。あたし、ちょっと疲れたわ……」

「羽柴は、いい感性を持っているなあ」

「えっ滝川くん、そこに感心するの??」

「将来、きっと偉くなるだろうな。大会社の社長とかな。その時は、この俺を雇ってくれよな」

「おっしゃあ! おれっちが社長になったら、一馬ぴょんを会長にするっぺな」

「ははは。よろしく頼むよ」


 よく分からないのだけど、十吉って、将来はホントに大物になるかもね。


「ねえそれより滝川くん、今の漢字クイズが、黒田くんから聞いたっていう、図書館のミステリーと、どう関係するの?」

「つまりだな、どの本なのかは分からないけど、その本から十八センチと一ミリだけの距離を隔てて立ち止まった人間が、突如この世から姿が消えてしまうんだ」

「ええっー、なによそれっ!? ミステリーというより、大事件よ!!」

「まあな。ただ、それにはもう少し条件があって、他に誰も見ていなくて、雨が降ってるか、やんでから十八分と一秒以内にしか起こらない怪現象なんだよ。なかなかに謎ミステリーだろ?」

「確かに謎ミステリーね。それで、誰か消えたことはあるの?」

「三十六年前と十八年前に一人ずつな」


 怪しい! あたしはピンときたわ。探偵オチャコをダマそうったって、そうは問屋が卸さないんだからね。

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