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恋や事件やオチャコの騒がしい物語  作者: 水色十色
北琵琶学園祭殺人事件
53/72

二年梅組の劇の結末!

 さあいよいよという、劇本番の土曜を迎えた。

 文化祭フェーズ最終の今日は、第一体育館で、午前中にニクラス、午後に三クラスが演じることになっている。


 午後一時、梅組演目『北琵琶学園祭殺人事件』の幕が上がった。

 タコ焼き屋さんの前で、クレームをつける大福くん、つまりチンピラ風のお客が、タコ焼き屋役の十吉を相手に、「タコが入ってないじゃねえかっ!」とわめいている。

 問答が少し続いてから、大福くんが、とうてい本物には見えない作り物の出刃包丁で、わざとらしく十吉の左胸を刺す。

 十吉の方も役者で、「ぐうっきゃきゃぴょおー!」と、普通ならあり得ない叫び声を上げ、地面に仰向けになって倒れる。血は一滴すら流れていない。観客の中で、これがリアルな殺人だと思った人は、一人もいないはず。

 すぐに警察官二人、玉紗さんとトシヨンがパトカーでやってきて、大福くんを逮捕し、パトカーに乗せて連行する。

 ここで、舞台を照らしていた照明が一度消えた。


 再び舞台が明るくなる。

 黄色地に黒い文字で「立ち入り禁止」と書かれたテープが、模擬店の周囲に貼られている。

 これは殺人事件などが起きた時、警察が作る規制線を表わしている。

 観客がそうだと分かるように、実物より十倍も太く作った紙製小道具よ。あくまで、これは劇なんだからね。

 規制線の外側に野次馬五人も集まっている。模擬店をやっていた三年生四人と客四人も、心配そうに眺めている。

 鑑識班の三人がせわしなく動いているところに、明智警部補と浅井巡査が登場する。

 少しして、鑑識班が立ち去る。二人の刑事が死体を調べ始める。

 このタイミングで、お髭を生やした戦国武将のような覆面を被った織田くんが、舞台下、観客席から見て右端に立った。

 白いスーツを着ているから、直接照明の光を受けていなくても、そこそこに目立つ。

 手に出刃包丁を握っている。それは作り物だけど、結構リアルにできているから、暗い体育館内では、本物に見えてもおかしくはない。

 観客の中には、異様な覆面男を一目見て、きっと変質者が現れたのだと、勘違いした人もいるに違いない。それが狙いなのだからね。

 白スーツ姿の織田くんが、檀上へ駆け上がろうとした時だ!

 突如、観客席から大人の男性が飛び込んできた。

 観客席がドドーッとどよめいた。

 それに驚いた織田くんが、思わず動きを止めてしまう。

 飛び入りの男性が、織田くんを後ろから捕まえ羽交い絞めにした。

 男性は叫ぶ。


「コラッ悪漢! 観念しろ!!」

「ああっ、斉藤さんじゃねえか!? 勘違いだぞ!」

「なに言ってやがる悪漢、黙れ!」

「うお、違うって! 俺だよ俺、信仲のぶなかだ! これは劇の演出なんだよっ!」


 織田くんは、自分が本物の悪漢ではないことを、必死で訴えた。


「へっ、お前、まさか信仲か??」

「そうだよ、俺だ! だから離せよ!」


 飛び込んだ男性は、織田くんの保護者代わりをしている、斉藤さんだったわ。

 彼は、織田くんの出演を知っていたけど、役柄までは知らなかった。それで、劇をぶち壊す本物の悪漢が現れたのだと勘違いしたのよ。

 それも無理はないこと。リアルな乱入者だと思わせる迫真の演出こそ、この劇の狙いだったんだからね。

 こうして、あたしたちの劇は、ラストシーン直前でぶち壊され、大失敗!

 あまりに真に迫り過ぎたため、想定外の結末になっちゃった!

 いわゆる、「過ぎたるは及ばざるがごとし」みたいなことにね。あー残念!


 それはそうと、今日、トシヨンも十四歳になったわ。

 あたしは、ケーキなんて作れないから、事前に確認して、トシヨンがまだ持っていない最新ゲームソフト『集まれ仔猫の皆』をあげたの。

 実は、もう一つサプライズ・プレゼントがあるのだけど、それがうまくいくかは分からない。決行は明日。ふふふ。

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