犯行の動機
松平くんが、明智くんに挑発的な視線を注いでいるわ。
「明智、俺が自分で企画した劇のリハーサルがこれから始まるというのに、なぜこの事件を起こしたのか、その動機をバッチリ推理できたか?」
「いいや、僕でも、そこまではまだ分からないんだよ」
「聞くまでもないが、浅井も分かってないよな?」
「くっ……」
ホント悔しいことだけど、その通りなのよ。
犯行の動機、それを推理するのも探偵として大切なことだし。それができていないあたしは、まだまだなのか……。
松平くんが、勝ち誇ったような笑顔を見せている。
ここに織田くんが割って入る。
「おい共康、この俺様を待たせてることを忘れるなよ。お前の犯行の動機、ちゃんと説明しろ!」
「済まないな織田。もう少しだけ時間を取らせて貰う。これも俺たちの劇を成功へと導くためなんだ」
「ちょっと松平くん、なんであんたと十吉がやったイタズラと、あたしたちの劇が関係あるのよ!」
「まああわてなさんな、浅井さん。今から浅井巡査の黒スーツ誘拐事件の動機を言うわよ。覚悟はいいかしら?」
ふん。いつもは呼び捨てする癖に、今は「さん」をつけたり、あたしの口調をマネしてみたり、ホントに腹立たしいこと!
「覚悟はあるから、もったいつけずに話したらどうかしら、共康さん」
「ははは。では話そう。俺たちの劇が成功するかどうかは、浅井の演技に懸っているんだ。白スーツの男に刺される浅井巡査が、いかに迫真の演技をして倒れるかが重要ということだ。観客に、本物の《北琵琶学園祭殺人事件》が発生したと錯覚させるためにな」
「そうね。あたしだってそのつもりにしてるわよ」
「どうだかな。自分たちのリハーサルに集中する気はあるのか?」
「あるわよ!」
「それだったら、どうして竹組のやる劇の視察が必要なんだい?」
「そ、それは……」
痛いところを衝かれちゃった!
確かに、自分たちのリハーサルに集中しているのなら、余所のクラスのことなんて、気にする必要ないものね。これは一本取られたわ。
「さあ、女子たち、今から準備を整え体育館へ向えば、丁度よい時刻になるだろうから、そろそろ着替えを始めてくれ。少しゆっくりでもいいからな。俺たちは廊下に出て待ってるぜ」
男子たちは教室から出ていった。
今回の犯行は、劇を成功へと導くためにやったのですって?
どうかしら、いつものように明智くんとあたしをからかって楽しんでるだけじゃないの?
いつもいつも、松平くんの心の内には、なにがあるのか計りしれないよ。
でも、少なくとも今、あたしがやるべきは自分たちのリハーサルに、フルパワー全開モードで取り組むってこと。それを教えてくれた松平くんには、感謝しないといけないかもね。チョッピリだけど、そう思うあたしだった。