オチャコたち捜査中
あたしは廊下へと跳び出た。
「おい浅井、着替えてねえじゃねえか!」
「浅井さん、どうかしたの?」
「明智くん、他の男子も聞いて。事件が発生したの。あたしの衣装だけが消えてるのよ。だから今すぐ、緊急捜査本部を設置するわ」
すると織田くんがまた吠えてくる。
「おいコラッ、リハーサルはどうする気だ! 今日はお前、別にそのままでいいじゃねえか! さっさと体育館へ行こうぜ」
「そうはいかないわよ。あたしたちに割り当てられているリハーサルの時刻まで、あと三十分くらいあるんだもの。それまでに事件を解決して見せるわ。探偵オチャコの推理で鮮やかにね」
今はまだ、竹組がリハーサルをやっている。
早めに準備しておいて、竹組がどんな劇をやるのか少しでも視察しようと言ったのは、他でもなく、このあたし自身なのだけどね。
「そうかよ。それなら勝手にやってろ! 俺は先に体育館へ行くぞ」
「ダメよ、あんた逃げる気?」
「なんだと!」
ここに明智くんが割って入る。
「まあまあ、今は浅井さんの方針に従おうよ」
「ポンカンは黙れ!」
「黙るのは織田くんの方よ。皆いったん教室に入ってよ。ね、お願いだから」
「チッ、仕方ねえなあ。だが長くても十五分以内だぞ!」
「ええ、それでいいわよ」
こうして劇に出演する全メンバーが、再び二年梅組の教室に戻った。
突如、松平くんが言う。
「実はさっき、俺たちの衣装箱の中に、こんなものがあったんだ」
松平くんがズボンのポケットから取り出したのは、白い封筒。
住所も名前も書いていないけど、裏返すと、驚いたことに、梅の花を模したような、五角形の形の紋所が描かれている。
それを見たトシヨンが声を出す。
「あ、それは!」
「うん。前田家の紋所、加賀梅鉢だね」
トシヨンだけでなく、明智くんも知っているみたい。余所のお家の紋所まで知っているなんて、やっぱりさすがだね。
「中身は見てないぜ。なあ前田、確認したらどうだ?」
「え、わたし!?」
「いいわトシヨン、ここはあたしに任せて」
松平くんから受け取った封筒には、紙切れが一枚入っていた。
印刷した文字で短く三行。これは犯行声明だね。
オチャコの衣装を誘拐した。
トシヨンに伝えろ。
これからはもっと真田としゃべれって。
これを読んだあたしは、誰が犯人なのかすぐに分かった。
「この手紙、十吉でしょ!」
「ううおー、おれっちじゃないぴょん! なんで疑うぴよ!」
「この文面のここよ。《衣装を誘拐した》なんて、おバカな表現するのは、あんたくらいしかいないもの」
「おれっち、衣装を誘拐なんてしてないぴょん!」
ここに松平くんが割り込んでくる。
「なあ浅井、またいつもの早合点じゃないのか?」
「へ、どういうこと!?」
「真犯人は、おバカを装って、わざと《衣装を誘拐した》なんて書いた可能性を忘れてないかってことさ」
「あっ、そ、そうよ。分かってるわ、あたし。ちょっと十吉に誘導尋問してみただけなの。そうやって、別にいる真犯人の心理を揺さぶったの。どうよ?」
「はははは」
「な、なに笑ってんのよ!」
「いや、別になにも。ははは」
松平くんの乾いた笑い声が、あたしを腹立たせる。
ここに明智くんが割り込んでくる。
「松平くん、イタズラが過ぎるよ。キミが企画した劇のリハーサルがこれから始まるというのに」
「お、明智、《イタズラが過ぎる》とは、どういう意味だ?」
「封筒が衣装箱に入っていたというのは真っ赤なウソで、キミがずっと、ズボンのポケットに入れていたんだ。そうでなければ、上質の紙で作られた封筒が、ここまでくたびれたりしないよ」
ええっ、明智くんってば、封筒の状態まで観察したの!?
「さすが明智だ。イタズラが過ぎたよ」
「ええっ、それじゃあ松平くんが真犯人ってこと!? あんた、あたしの衣装、どこに隠したのよ!」
「ああ、それは俺ではないぜ」
「は!?」
「羽柴くんだよね?」
明智くんが十吉の前に立った。
「ごめんよオチャコ、おれっちが考えたサプライズだぴょ~ん」
「あんたたちグルだったか! さっき聞いた時はしらばっくれて!」
「しらばっくれてないぴょ。おれっち、衣装を誘拐したんじゃなくて、隠したんだぴょん!」
「どこに隠したのよ!」
「オチャコの机の中だよ~ん!」
すぐ自分の机の中を調べた。あたしの黒いスーツ、あったわ!
この十吉めぇ、小癪なマネをしおってからに!