とてもいい劇になりそうね
司会進行役の脚本担当リーダー、松平くんが、キャスティングを続ける。
「チンピラ風の客Dをやるやつ、やっぱりいないか?」
「オレがやろう」
ここで手を挙げたのは、真田大福くん。
「よし、客Dは真田に決定だな」
「はい」
「お、細川、なんだ?」
「おほほ。わたくしも劇に出演させて頂けるかしら」
「どの役をやる?」
「大福様に刺される巡査ですわ」
「いやいや、それはもう浅井がやるって決まったんだぜ」
「いいえ、わたくしですわ」
またアグレスィヴお嬢様が始まっちゃったよ。やれやれね……。
ここに大福くんが割って入る。
「おい細川、いい加減にしろ!」
「分かりました。うふふ」
「それじゃ細川は不参加だな?」
「いいえ、大福様を逮捕する警察官1ですわ」
「そうか、警察官1が決まりだな」
「わたくしの階級はなにかしら。警視総監でしょうか」
「S県警に警視総監はいないし、仮にいたとしても、殺人事件現場へと走るような刑事の階級じゃないぜ」
「おほほ。それではなにかしら」
「そうだな、巡査部長でいいだろう」
「巡査部長、分かりましたわ。ふふふ」
玉紗さん、あたしより一つ上の階級か。まあいいけどね。
「次、警察官2だけど」
「ほーい」
「あのなあ羽柴、一人二役はなしだ」
「違うぴよ。推薦したいのおー」
「ほう、誰をだ?」
「前田さんだっぴよ!」
「え、わたし!?」
おおっ十吉、超ベリー・グッジョブ!!
大福くんを逮捕する役、玉紗さんに負けてないで、あんたもやらなきゃね。
ここは大親友オチャコが背中を押してあげないといけないわ。
「トシヨン、ファイト!」
「え、オチャコ? あの、うん。わたし、やってみるよ」
「そうそう、その調子よ!」
「警察官2は前田。階級は巡査でもいいか?」
「はい喜んで。オチャコと同じなのだもの」
トシヨン、あんたいい子だわ。オチャコ、涙流しちゃいそう。
「残りは、模擬店にいる三年生四人、客四人、鑑識班三人、野次馬五人だ。それらはセリフがほとんどないし、楽な役だから、誰か手を挙げてくれ」
「はい、タコ焼屋三年梅組、生徒1をやります」
「生徒1は柴田」
「そんじゃ俺は、タイ焼き屋三年竹組、生徒2をやってやる」
「黒田が生徒2」
「金魚すくい屋三年松組、生徒3は、この僕がやりましょう」
「竹中は生徒3」
「はーい」
「私も!」
「僕だって!」
生徒役、客役などの脇役たちも次々と立候補があり、キャストが全員決まった。
あたしたちの二年梅組、とてもいい劇になりそうね。ふふふ。
劇に出演するメンバーは三週間近くを掛けて、練習をする。
必要と判断したなら、土日も登校して頑張るわよ。下校時間は厳守しないといけないけど、時間のギリギリまでやる。中学生活で一度限りの劇だもの。
あたしたちの練習と並行して、模擬店のセットやパトカーなどの大道具、衣装や包丁などの小道具を、各担当者が作ってくれている。梅組の生徒一人一人が、最低一つの役割を担って、一致団結して進めている。皆が、やるべきことを熱心にやっているわ。
担任の足利先生は監督役で、時々進行状況をチェックしたり、アドバイスをしてくれたり、困っていることがないか聞いてくれている。
この先生は、柴田さんからの情報によると、学生時代に演劇をやっていたということで、劇については特に気合いを入れてアドバイスをくれるから、凄く助かる。
普段はやりたい放題の大うつけ者、織田くんにしても、やるとなったらトコトンやるタイプの男なので、今は、白いスーツを着る覆面男の役に徹している。
特に、彼は背が高いから、ホントに大人のヤクザ者が劇に乱入したみたいな大迫力を、きっと出せると思う。