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恋や事件やオチャコの騒がしい物語  作者: 水色十色
北琵琶学園祭殺人事件
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松平くんの筋書き

 スケジュールも定まったことだから、松平くんがさっき口に出していた、筋書きについて話すことになった。


「模擬店の舞台セットをいくつか並べた、楽しい学園祭の風景で幕が上がる。中央の店は三年梅組がやっているタコ焼き屋だ。そこで制服を着た生徒たちがタコ焼きを作り売っているのだが、外からきたチンピラ風の若者が、《タコが入ってないじゃないか!》とクレームをつけてくる。それで口論になり、カッとなった若者が近くにあった出刃包丁を手に取り、タコ焼きを売った羽柴十吉の胸をメッタ刺しにする。羽柴は血を出すこともなく倒れ、少しの時間だけ苦しみ、絶命する」

「つまり、学園祭殺人事件が発生したってことね?」

「ああそうだ。まあそこまでは、浅井でも猫でも猿でも分かることだな」

「猿は兎も角として、《浅井でも猫でも》って、どういう意味よ?」

「猿って、おれっちのこときゃ。きゃきゃ?」

「言葉通りの意味だ。まあ浅井も十吉も、話の続きを聞けよ」

「そうよ浅井さん、羽柴くん、またすぐ脱線してしまうでしょ?」

「それもそうね。分かったわ」

「うっきー!」


 あたしと猫ちゃんを、お猿と同レベルに見られているのは不服なんだけど、取りあえず今は、松平くんの話に耳を傾けた方がよそそう。

 トシヨンは黙って書記をしているし、明智くんもクールな表情で聞き手に回っているのですもの。


「殺人事件現場に、警察官の衣装をきた二人が駆けつけて、チンピラ風の若者はその場で逮捕される。それから県警本部から鑑識班がやってくる。少しして、刑事一課の明智警部捕と部下の浅井巡査も現れる。そして――」

「ちょちょ、待って! なんで明智くんが警部捕で、あたしが巡査なのよ? あたしだったら警視総監でしょ?」

「浅井、県警に警視総監なんていないぜ」

「ああ、そうだった。あたしウッカリしてたよ。県警本部は《警視庁》じゃないものね。へへへ」

「だろ、だから浅井は出世できない巡査なんだよ」

「じゅんさー、オチャコじゅんさー!」

「十吉、煩いわよ!」

「浅井さんもよ!」

「ごめんなさい」


 また柴田さんにたしなめられちゃった。あたしが一番煩かったね。てへへ。


「鑑識の仕事が終わって、明智警部捕と浅井巡査が死体を調べ始める。その時、よくできた本物ソックリの出刃包丁を手に握った覆面姿で背の高い男が、体育館の観客席から舞台へ走って駆け上がり、叫びながら明智警部捕を刺そうとするんだ。それを浅井巡査が庇って心臓を刺される。即死だな」

「えっ、あたしが殺されちゃうの!?」

「そうだ。犯人の男は白いスーツを着ているのだが、隠している血糊袋ちのりぶくろを破いて、スーツが赤く染まる。もちろん浅井巡査の胸からも血が流れるように細工しておく。この演出、観客はどう感じるだろうか。学園祭で殺人事件の劇をやっている最中に、本当に殺人事件が起きてしまったかのように錯覚する人が大勢いるだろうよ。これぞまさしく《北琵琶学園祭殺人事件》という訳だ」


 え、なにその斬新な筋書き! さすがあたしが一目置く松平くんだわ。

 あたしは、その続きを聞きたくてたまらなくなっちゃったの。


「うんうん。それでどうなるの?」

「近くにいる先生三人が舞台へ飛び込んで、三人掛かりで犯人を捕らえるんだ」

「なるほどね! そうすれば、さらに真実味を帯びた《北琵琶学園祭殺人事件》になるわね! 松平くん、普段はトボけた顔をしていながら、そんなアイディアがあるなんて、将来あたしが私立探偵になったら、あんた助手になってよ?」

「断る。断じて断る」


 即答ですか。オチャコ、ちょっとヘコんだわ。

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