決まった劇は?
柴田さんが黒板に「シャーロック・ホームズの作品で英語劇」と書いた。
「他に意見はありませんか。なければ、この二つで多数決をしようと思います。それでいいですか」
「意見あるぜ」
「松平くん」
「俺は、歴史上の出来事や既存の作品なんかじゃなく、オリジナルの脚本でやるのがいいと思う」
「例えば、どんなのです。なにか案がありますか?」
「案はある。知りたい?」
「そのようにもったいつけず、早く言って下さい」
「分かった。俺の案というのは、『学園祭殺人事件』だ」
また教室内がドッと沸いて、「なんだそれ!?」、「面白そー」、「おおっ、それいいかもね!」などと多くの声が飛び交う。
「殺人事件とかって、こっえぇー!」
「誰が殺されるんだ?」
「そりゃ明智でいいんじゃね」
「おっしゃ、被害者は光男で確定!」
「佐久間くん、丹羽くん、黒田くん、織田くん、勝手な発言はやめて下さい」
「柴田さん」
まだ立ったままの松平くんがそう言った。
「なんですか」
「勝手な発言というより、活発な意見と考えてみてはどうかな。佐久間たちは、ある意味、俺の案に賛同してくれて、そういう意見を言ってくれてるんだよ。そう思わないか?」
「分かりました。でも、今後は手を挙げてから、発言して下さい。それが会議のルールだと思いませんか?」
「まあ、それもそうだがな」
松平くんは座った。
また黒板にもう一つの案、「学園祭殺人事件」が追加されることになった。
「他に意見はありませんか?」
柴田さんが教室を見回す。
誰も手を挙げないし、勝手な発言もしない。
「では多数決をします」
「戦国時代劇をやりたい人、挙手願います」
「ほーい」
「一人」
柴田さんが、黒板に書いてある「戦国時代劇」の下に「1」を書き加えた。
「次、シャーロック・ホームズの作品で英語劇をやりたい人」
「はーい」
あたしは元気よく手を挙げる。
もちろん明智くんもね。あと何人かいる。けど少な過ぎるわね。
「七人」
柴田さんがそう言って、黒板に「7」を書き加える。
「では、学園祭殺人事件をやりたい人」
これには大勢が手を挙げた。
「一目瞭然、過半数になりますね。よって、学園祭殺人事件に決まりました。それでは、脚本について、どうしましょうか?」
「はい」
「松平くん」
「俺がやるよ。けど一人ってのもしんどい。明智、手伝ってくれるか?」
「うん、いいよ」
あたしも手伝いたい。だから迷わず手を挙げちゃう。
「はーい!」
「浅井さん」
「あたしも脚本担当したいでーす」
「そうか浅井、頼むな」
「うん、任せて!」
これで決まった。十四歳の秋、明智くんと共同で一つのことができる。
松平くんも合わせて三人でなんだけど、もちろん構わないよ。
《これはなかなか面白くなりそうだわ。うふふ》
「あ、はぁい」
「なんですか前田さん」
「あの、わたしも脚本とか、ちょっとやってみたいです」
「あー、トシヨン! ありがとぉー!」
さすがあたしの親友だわ。こういう時も二人は一緒でなきゃね。
「よろしいかしら」
「細川さん、なんでしょうか?」
「わたくしも、脚本の担当を希望しますわ。よろしくて」
玉紗さんが松平くんの顔色を窺う。
「おう、頼む」
「そうですか」
玉紗さんがそう返し、すぐ左隣りの席にいる大福くんに話し掛ける。
「あの大福様、一緒に脚本を担当しませんこと?」
「オレはパス」
「そうですか。残念ですわ」
そう言ってから、玉紗さんは教壇にいる柴田さんの顔を見る。
「わたくしも、脚本は辞退させて頂きますわ。ごめん遊ばせ。おほほ」
ええーっ!? 自分で立候補しておきながら、自分で辞退するって!!
このお嬢様もなかなかに癖のある子なのよね~。
だから言動が読めない。あたしの推理でも通用しそうにないわ。
兎も角、決まった劇は「学園祭殺人事件」で、脚本は、松平くん、明智くん、それとトシヨンとあたし、四人が担当することになった。
どんな劇になるんだろ? ホントに楽しみだよ。