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お部屋に誘われて

 空の食器類を載せたお盆をカウンターへ返却する。

 浪江さんとアルバイトのお兄さんに向かって「ごちそうさま」を言ってから、お店を後にしようとした。

 突如、穂波お姉さんがまた出てきた。


「チャコちゃん、暇ある?」

「うん。あたし、ちょっと退屈してたんだ」

「そうだったっすか。それなら自分の部屋で話さないっすか?」

「ええっ、いいんですか!?」


 三度目の正直というか、なんとかで、初めてお部屋に招待して貰えた。

 実は、この穂波お姉さんって、神奈川県警で刑事さんをやってるの。

 だからなにか面白そうな事件のお話とか、聞けちゃったりするのかも。ちょっとワクワクだね。


「いいっすよ。さあ、こっちっす」

「うん。おじゃましまーす!」


 靴を脱いで、お店の奥にある部屋へ上がる。

 そこからお姉さんに連れられ、廊下へ出て階段を上がる。

 二階にはお部屋が二つあるみたい。奥にある方に入る。

 いい香りがする。石鹸の匂いを含む、若い女性の柔らかな芳香といったところ。

 お部屋は綺麗に整頓されているし、穂波お姉さんの性格が読み取れる。普段からこうやって散らかさず整った状態を保っている、そういう人は几帳面で真面目な気質だって、相場が決まっているもの。少なくとも、あたしの推理脳すいりのうはそう囁いている。


「性格が表われてますね。お部屋を、いつもこんなに綺麗にしているのは、やっぱり心根も綺麗っていうことでしょ。穂波お姉さんそのものです」

「いやあ、照れるっす。でも、一昨日帰ってきてすぐ散らかしてしまったもんすから、今朝、母に叱られたっす。それで今日はチャコちゃんを呼ぼうと思って、午前中のうちに整理整頓したばかりなんすよ。うふふ」

「あは、そ、そうだったんですか。てへへ」


 がっーん! あたしってば、推理ハズしちゃってるしぃ!


「チャコちゃんは、こっち椅子の座ってくれるっすか?」

「はい」


 学習デスクの付属椅子を勧められたので、あたしはそれに座る。

 穂波お姉さんはベッドの上に腰掛ける。

 でも彼女はすぐに立った。


「あっ、飲み物用意するっす」

「どうぞお構いなく」

「遠慮しなくていいっす。ブドウジュースとサイダー、どっちがいいっすか?」

「それじゃ、サイダーお願いします」

「了解っす」


 穂波お姉さんは部屋を出ていった。

 あたしは椅子に座ったまま、周囲を見回す。

 置いてある物が少ない。穂波お姉さんは横浜で一人暮らしをしているそうだから、そちらへ持っていってるのだろう。それは、推理なしで誰でも分かること。

 少し待っていると、お姉さんが戻ってきた。

 あたしに、氷とサイダーの入ったグラスを渡してくれる。彼女は紫色の液体が入ったグラス。これも推理なしにブドウジュースだって分かる。


「ところで、チャコちゃん」

「はい」

「去年は、チャコちゃんの推理で、お手柄だったそうっすね?」

「あ、別にお手柄だなんて、そんな……」


 去年ここへきた時に、ちょっとした事件があったのよ。

 あたしの推理で、その日のうちに犯人を見つけた。今、口では遠慮してるみたいに言ったけど、心の内では、まんざらでもないよの。へへへ。


「母から少しだけ聞いたんすけど、直接チャコちゃんからじっくり聞きたいなって思うっす。だから、話してくれるっすか?」

「はい、もちろん喜んでっ!」


 実は、こういうことを期待して、今日もここへきたの。

 うどんを食べたかったのもホントだけど、去年ここのお店であった事件のこと、穂波お姉さんに話したくて、結構ウズウズしていたんだよ。

 あたしはサイダーを飲みながら、あの事件の顛末を話すことにした。

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