明智くんの推理
少し不安になっているあたしに、明智くんが厳しい言葉を投げ掛けてくる。
「浅井さん、いつもいつも早とちりが過ぎると思うよ」
「へ?」
「実はね、羽柴くんは犯人ではないと考えているんだ」
「ええっ、そうなの!?」
「うん。そういうことになるね。僕の推理が正しければ」
あたしの推理と、明智くんの推理、二つが真っ向から対立している。
雲ゆきが怪しくなってきたわ。
あたしは、どこで推理の道を、どのように誤ったのだろうか?
いやいや、まだあたしの推理が間違っていると決まった訳じゃないもの。
「明智くん、詳しく聞かせてよ。あなたの推理をね」
「うん。松平くんたちも聞いてくれるかな?」
「いいぜ」
「おう光男、さっさと話せ!」
「おれっちの無害を消滅してくれろー」
十吉それを言うなら、「無害」じゃなくて「無罪」、それと「消滅」じゃなくて「証明」だよね。たぶん、こいつはその意味で言いたかったはず。
それは兎も角として、二年梅組の「迷惑三傑」も、あたし同様、明智くんの推理を聞きたいらしい。さあ、聞こうじゃないの!
「松平くん、ズボンのポケットの中に、なにか隠していないかな?」
「あ、なに言ってるんだ、ポンカン!」
「悪いけど織田くん、僕は今、松平くんに尋ねているのだから、少し黙っていて欲しいのだけれど」
「ポンカンの癖に俺様に命令するな、と怒鳴りたいところだが、今は特別に許してやろうじゃねえか。おい共康、光男の言ったこと、どうなんだ?」
「やっぱりさすがだな、明智は」
そう言いながら、松平くんは、自分のズボンのポケットから紙切れを取り出す。
「これのことだろ。ほら羽柴、返すよ」
「あー、おれっちの書いた手紙だおー! なんだ、拾ってくれたのか。てゆーか、おれっち、どこで落としたぴょ?」
「十吉、お前は猿か! 共康は拾ったんじゃねえ、お前の手紙を盗んだ犯人だってことなんだよ」
「うえぇー、そうなのかおー!」
「そうだぜ」
松平くんは自分の犯した行為を素直に話したわ。
金曜の五時間目の後、挙動不審な十吉の後ろをコッソリつけて、彼が玉紗さんの靴入れに忍ばせた封筒を盗み出し、お家に持ち帰った。シールを慎重に剥がして、中身を取り出し、同じシールを張り直したそうよ。それから今朝、自宅のポストに、封筒を半分だけ見えるようにして入れてから、学校にやってきた。
お弁当を忘れたのも計画のうちで、そうすればお母さんが、十吉の手紙も一緒に持ってきてくれると、想定していたのよ。
松平くんのお母さんにしてみれば、はた迷惑ね。こんなイタズラをしでかす息子を持って、ホント気の毒なことだと思うわ。
「これで、《消えたL》事件は解決だね」
「そうね。それについてはあたしの負けだわ」
「別に勝ち負けを競っているつもりはない。僕は、常に真実を明らかにしたいだけなんだよ。明智の名に懸けてね」
彼のメガネが、丁度キラリと光ったように見えた。
このクール・ボーイめ! あたしは凄く悔しかった。
「でもね、まだ《消えたR》事件があるんだから」
「それなんだけど、たぶん犯人は――」
「え、ちょちょ、待ってよ明智くん! もしかして犯人分かってんの!?」
「そうだよ。僕の推理では、羽柴くんの弟、小梅男くんが犯人だ」
「えっ!?」
「小梅男のやろおー」
十吉が叫んだ。
突如、トシヨンのスマホにメッセージの着信があった。
彼女は、すぐにそれを確認する。
「ああよかった。爛丸がお家に戻ったのだって」
「トシヨン、それホント!?」
「うん、ホント」
今日のあたしは、驚かされてばかりね。