突然の来訪者
突如、二年梅組の皆が一瞬静まった。
その理由は、黒板側の出入り口に、突然の来訪者があったからよ。
現れた成人女性が、廊下から教室内に向けて、叫ぶのだった。
「共康、忘れ物よ! お弁当!」
要するに、あの人は松平くんのお母さんってことね。
さすがは宿題忘れの常習犯だわ。お弁当まで忘れてくるなんてね。ふふ。
「ああ俺ともあろう者がしまった。こんな失敗するなんて。危うく昼メシを食いそびれるところだったなあ」
松平くんは、決まりの悪そうな表情をして、女性の方へ駆けていった。
「ねえ共康、ポストの中に、こんな封筒が入っていたわよ。あんたの友だちのイタズラじゃないの?」
「いや、俺は知らないことだけど、誰かのイタズラなのかもな」
松平くんはそう話しながら、彼のお母さんが持ってきてくれたお弁当と、淡い黄色の横長い封筒を受け取っている。
それを見た十吉が大声で叫ぶ。
「あー、あれはおれっちの書いたラブレターだおー!」
これを聞いた教室内の生徒たちがドヨメキを起こす。
多方面から、「えーっ、十吉の癖に!!」とか、「なにそれ、羽柴くん!」とか、「誰に渡すラブレターなんだ!?」、「いや共康に渡したんだよ。松平家のポストに入れたんだから」というような言葉が飛び交った。
ますます墓穴を掘る十吉ね。
でも彼はそんなことを気にするよりも、いち早く手紙を取り戻したいのだろう、出入り口のところへ走った。
松平くんのお母さんがまだそこに留まっていて、話し掛ける。
「十吉くん、おはよう。その手紙、あなたが家のポストへ入れたの?」
「違うぴょん! 誰かに取られてしまったおー」
「そう。でもあなたは相変わらず、おかしな話し方をするのね。もう中学生なのだから、もっとまともに話したら?」
「ほーす!」
「ダメね。もういいわ」
松平くんのお母さんは、呆れた表情をして立ち去るのだった。
「共康、それおれっちのだから、返してチョンマゲ」
「ああいいよ」
松平くんが持っている淡い黄色の封筒が十吉の手に渡る。
その二人があたしたちのいる場所に戻ってきたので、あたしは十吉に声を掛けてやることにした。
「あんた、手紙が戻ってきてよかったじゃないの」
「うん、よかったぴょん。でもこれ、共康の母ちゃんの読まれちゃったかもしれないおー」
「おい羽柴、よく見ろよ。それシールが剥がされてないだろ?」
「あ、そうか。これは共康の母ちゃんが中身を見てない証拠だっぴぃ!」
十吉は封筒を裏返し、封印を確認している。
お猿の顔のシールが貼ってあるのだった。