目撃者の証言
兎も角、あたしは十吉に最終確認をすることにした。
「十吉いいわね? あたしが玉紗さんに手紙のこと聞くよ?」
「分かったおー。でもおれっちの名前は出しちゃアカンベー、だよ~ん!」
「了解よ。心配しないで」
「あら、なんの密談をなさっていらっしゃるのかしら?」
突如、横から割り込みが入る!
「あ、玉紗さん。今の聞こえてた?」
「ええ。その通りですけれど、羽柴さんのおっしゃった、《名前は出しちゃアカンベー》とは、どのようなことかしら?」
「ああそれねえ、特別な事情があって、名前は伏せておかないといけないのだけど、イニシャル《T.H.》の男子が、金曜の午後、玉紗さんの靴入れの中に、手紙をコッソリと入れたのよ。その封筒、あなた見たのかしら?」
「いいえ。そのような物は、なに一つ見ておりませんことよ。ところで、T.H.というお方は、羽柴十吉さんのことでしょうか。ほほ」
突如、十吉が叫び声を上げる。
「おれっちじゃないおーっ! おれっちなんも関係ないぴょ。関係ないったら関係な~い! あ、そうだ、そのT.H.くんは、竹中飯平太くんのことだよ」
ここに、十吉から名指しされた竹中くんが割り込んでくる。
「僕がどうかしたのか?」
「うぉ、なんでもなぁーい、関係な~い! 竹中飯平太くんでもないおー!」
「そうかい。それならいいのだけど、実は僕、キミが金曜の午後、細川さんの靴入れに、なにか入れているところを見ていたのだよ。まさか羽柴くん、それを僕のせいにする気ではないだろうね?」
「わー、わー、ふにゃー!」
「あんた、もう観念すれば? 皆にバレちゃってるのだから。あんたも男でしょ、潔く自分のやったことを認めなよ。ねえ十吉さんってば?」
竹中くんが決定的な瞬間を見たのだもの。彼、真面目でウソをついたりしない男子だから、目撃者の証言として、今の言葉は有力なのよ。
「仕方ないなー、こうなったら正直に言うおー! おれっち、金曜の五時間目が終わって、細川さんの靴入れに手紙を入れたんだ。でも、やっぱりやめようって思ったから、六時間目が終わってすぐに走って、その手紙、取り戻しに行ったおー。なのに、もうなかったんだぴょん。それで、《もしかしたら細川さんが先に取って読んだのかな》とかってこと、共康ぴょんたちが言うんだがや」
「あら、そうでしたの。けれどもわたくし、なにも見ておりませんから」
「そうか、よかったぴょん。でも、その手紙が消えたんだおー。だからやっぱり、よくないおー!」
そりゃそうね。ラブレターが他の誰かに見られるだなんて、恥ずかし過ぎるに決まってるもの。