明智くんと織田くんと柴田さん
そして入れ替わりでやってきたのは、知的なメガネ男子。
「浅井さんに前田さん、おはよう」
「うん、おっはよ~」
「明智くん、おはよう」
「どうしたの前田さん、また顔が真っ赤だけれど、もしかして風邪?」
「えっ、真っ赤!?」
「体調が悪いのなら保健室に行く?」
「ううん、風邪じゃないから。わたし、平気よ」
人に親切にすることは感心なのは分かる。
だけれど明智くん、胸キュンどきどき全開モード、今のトシヨンのことは、その余韻に浸らせておいてあげてよ。
ここへまた一人、別の男子が入ってきた。織田信仲くんよ。
「おいコラッ光男! また朝っぱらから軟派しよっとかーっ! そんなのは、お前のキャラじゃねえんだよっ!!」
「あの、僕は別に、これといってその――」
「あ? なんだコラッ!」
「いや、その……」
あー、また始まっちゃったよ。
「おいポンカン頭、ハッキリしろ!」
「だから、軟派などではなくて――」
「大ボケこいてんなよ、あからさまに軟派だろがぁ!」
「いや、だから」
「お前、前田の顔を見てみろっ! こんな真っ赤になってるじゃねえか。お前が無理やりに、迫ったんだろがっ!!」
「そんなことはないよ。織田くん、そういう暴言はよくないよ」
「ぬぅあんだとぁ、こんにゃろーっ!!」
織田くんが、今にも明智くんを蹴り飛ばそうとしている。
ここには、あたしが割り込まなきゃね。
「あー、はいはい、お二人さんとも、そこまでよ。ストップなの」
「おうおう浅井、お前は、またしゃしゃり出てくる気なのかっ!」
「そうよ、しゃしゃり出るわ。だって、そうでもしないことには、あんたたちの口論が、いつまでも長引くことになるでしょ?」
「うぜぇ! あっあ~、チョーうっざいわあ~」
「もう一つ、あんたがうっざいと思うことを言うよ。織田くんが自分で自覚していないみたいだから、教えてあげるわ」
「はあ? なんのことだ!」
あたしは以前気づいて、言いそびれている真実を話すことにした。
「実はあんた、トシヨンが好きなんでしょ。隠さなくていいわよ」
「え、わたし??」
あ、ごめんトシヨン、別にあんたを驚かせようという意図はないのよ。
この時、織田くんが凄く怖い顔であたしを睨む。
「おいコラッ浅井!」
「なに?」
「なんで俺様が前田なんかを好きにならなきゃなんねえんだ!」
「えっ違ってる? あたしってば、推理ハズしちゃった?」
「当ったりめえだ! まあ前田は、お前よりずっとマシだがなあ。それでも、この俺が好きになるレベルじゃねえ!」
「え、好きになるレベルとかって、一体あんた何様のつもり?」
「俺は、《俺様》に決まってるだろがっ!」
そうだったわ。今さらだけど、この人は、いわゆる「俺様男子」なのよ。
あたしとしたことが、すっかり忘れていたわ。今日は調子が狂うね。
「それじゃ、織田くんが好きになるレベルって、梅組の女子なら誰よ」
「そうだなあ、少なくともクラス委員より上でないとな」
クラス委員というのは、柴田勝恵さんのこと。
丁度自分の名前が出たので、彼女が怪訝な表情をして、こちらへくる。
「私がなにか?」
「なんでもねえよ。お前とお前以下に用はない」
「そう。それなら気やすく名前を呼ばないで下さい」
「分かったよ。あっち行け」
「言われなくても行きます。私の名前が呼ばれたから、なにか用があるのかと思ってきただけなので」
「ふん。用はねえんだよ、鬼柴田」
柴田さんは、悪口を言われても気にせずに、さっさと自分の席に戻る。さすがクラス委員といった感じね。
だって、織田くんのような乱暴な男子を相手に、ここまで毅然とした態度を取れる女子は少ないのだもの。
男子たちにしてもそう。織田くんに逆らおうというような人は、このクラスには明智くん以外に一人もいない。大福くんならやれそうだけど、彼の場合、織田くんを相手にしていない。別のクラスだと、例えば、松組にいる武田信健くんくらいかな。