穂波お姉さん
あいているテーブルへ行って、その席で座って食べていると、お店の奥から背の高い女性が出てきた。
スレンダーで、顔が引き締まっている。女性歌劇団の中なら、間違いなくトップスターを張れるほど、凛々しく美しいお人なの。
だから、今から七年前だったと思うけど、初めて知り合った時には、あたしの目を釘づけにしてくれたもの。会うのは今回三度目で、前回から五年ぶり。
「――そんなこのお人は、浪江さんの一人娘、頭脳明晰にして、正義のヒロイン、穂波お姉さんです。あれから五年経ったから、今はたぶん二十九歳。美しさにますます磨きが掛かってます、みたいな感じ。凄く憧れちゃうなあ~」
「チャコちゃん、いらっしゃいっす。大きくなったっすね。あと自分のこと、そんなに褒められると、照れるっす」
「お久しぶりです、穂波お姉さん。それと今の、ごめんなさい。思ってることがそのまま口から滑り出しちゃって。あたしってば、自分の気持ちに正直だから、ついつい調子に乗ってしまって……」
「いいっすよ。そこがチャコちゃんのチャーム・ポイントすから」
「えへへ。褒めて貰えて、あたしも照れるっす。あはは」
あっ、あたし、またつい穂波さんの口癖、移っちゃった。てへへ。
「今年のチャコちゃん、いつまでいるっすか?」
「二十六日の朝までです。穂波お姉さんは?」
「自分は、明後日までっす」
ここに浪江さんが割って入る。
「聞いてチャコちゃん、この子プロポーズしたのよ」
「ええっ、されたんじゃなくて、穂波お姉さんがしたんですか!?」
「そうっす」
「おめでとうございます!」
「いやあ、まだOK貰ってないっすから」
「え、そうなんですか。あたしってば早とちりしちゃって、ごめんなさい」
「いいっすよ」
こんなに素敵なお姉さんからのプロポーズを、即OKしないだなんて、その男性も、よっぽどのイケメンさんなのかなあ。それか超大金持ちだったりして。
「でも、女の人からプロポーズするって、カッコいいと思います」
「自分は勢いで告白しただけっす。相手は職場の大先輩なんすけど、《二十二歳の差だぞ。テメエのお袋さんが反対するに決まってるだろがっ!》って怒鳴られてしまって、それで休暇取ってきて昨日、母に話したっす」
「それを聞いて私も驚いちゃったわ。でも、二十二歳の差なんて、どうということはないと思うし、もちろん私は賛成の立場よ」
「それだったら、OKを貰えるってことですね!」
あたしは、穂波お姉さんのプロポーズを、少しでも応援したい。
「そうっすかね。先輩は《テメエが、休暇を終えて戻ったら返事してやる》と言ってくれたっす。自分、明々後日にはまた職場へ戻るっすから、結果が分かるっす」
「いい結果だと思います、あたしは!」
「ありがとうっす。あ、うどん食べるの邪魔してゴメンっす」
「ああ、いえそんな」
浪江さんと穂波お姉さんが一旦、この場から立ち去る。
あたしは、冷やしキツネうどんの残りを、全部おいしく食べた。