朝一番に
ここは私立北琵琶学園、中等部、二年梅組の教室。
今日は九月十八日、月曜日。あたしの使命は、トシヨンの仔猫ちゃんを捜す捜査本部設置の準備をしてあげること。それとなによりも、傷心の彼女を少しでも勇気づけてあげること。
今朝早く、「爛丸まだ戻らないの。ヘ(;ω*)ノ, 4949...」と書かれたメッセージが、トシヨンから送られてきたの。あたしは、すぐに「オチャコにお任せ!」と返信したわ。
だ・か・ら、またまた久しぶりに、張り切って一番乗りしちゃったよ!
あたしってやっぱり友だち思いで早起きできて感心だわ。えへへ。
「――というか、あの子のハートは、まるで細長く立った、ゼリーで作られた塔のように脆いのだし、それを崩さないように、どう元気づけてあげるかが重要。探偵としてのあたし、そこんとこ、よ~く考えてケアしないとねっ!」
「ちょっとオチャコ、誰と話してるの?」
「おおっと、びっくり! なんだぁ、あんたきてたのか~」
二番手で教室に入ってきたのはトシヨンだった。
「そうよ。そしたら他には誰もいないのに、オチャコがまた窓に向かってしゃべってるから」
「ああ今のはねえ、まあなんというのか、今日のあたし自身へ向けての声援、つまり自己叱咤激励エールってとこかな」
「はあ?」
「だ・か・ら、今日はあたしがトシヨンのこと、ちゃ~んとケアしてあげる。オール・ライト、オーライ! そんでもってOK、あんたは大船にでも乗ったつもりでいてよね、トシヨン」
「……意味、分かんないし」
今日も、チャーム・ポイントのおかっぱ頭が綺麗に梳かしてある。迷子の仔猫ちゃんのことが心配なはずなのに、やるべきことはバッチリやってから登校するところが立派。やっぱり健気で可愛い子なの。
「あと、あんたが大福くんと仲よくできるようにサポートすることだって、あたしはちゃんと忘れてないからね! 好きなんでしょ?」
「だから、そんなのじゃないって! わたし、別に大福くんとつき合うとか、そこまでのことは考えてないんだからぁ!!」
以前のトシヨンは、大福くんのことを、下の名前で呼べずに「真田くん」と呼んでいたのだけど、今はもう違う。一歩前進できてるの。うふふ。
「それでトシヨン、状況に変化はないの?」
「うん。もし爛丸がお家に戻ったら、お母さんがすぐメッセージで連絡してくれることになってるんだけど、まだそれはきてないから」
「あたしが捜査本部を設置するわ。事件名は《消えたR》ということで」
「そのアールって、爛丸のこと?」
「そうよ。イニシャル《R》なの。つまりね、捜査は極秘で行うの。一匹の仔猫ちゃんの命に関わることだから」
「でもそれって大袈裟なんじゃ?」
「ううん、あたしはトシヨンのためなら、たとえ日本の総理大臣から《それは大袈裟ですよ、お嬢さん》とか、たとえアメリカの大統領から《そりゃ過剰反応だぜ、ヤング・レェディ》とか、たとえロシアの大統領から《そいつは無謀過ぎるぞ、モロダヤ・リィディ》とか、言われたって、それでも全力で対処するわ。他ならぬ大親友のためだもの」
「オチャコ!」
「トシヨン!」
あたしは、この子をギュッと抱き締めてあげた。
いつものように石鹸の香りを漂わせ、清潔感は梅組で一番か二番よ。もう一人、玉紗さんというお金持ちのお嬢様がいるからね。彼女と、いい勝負になると思うよ。
でもね、もし「二年梅組清潔女子選挙」があったなら、あたしは、迷わずトシヨンに清き一票を入れてあげるわよ。