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恋や事件やオチャコの騒がしい物語  作者: 水色十色
消えたRと消えたL
27/72

事件の次の大事件!

 やるべきことをキッチリ終えたあたしは、二階へと上がり、お部屋に入る。


《早くトシヨンに連絡してあげないとね》


 ベッドに座って、スマホであの子に電話を掛けることにする。


「もしもしトシヨン!」

「ああオチャコ」

「さっきはごめんね、あたし手が離せなくて」


 実際は、手を離してしまってグラスを割っちゃったのだけどね。


「ううん、それはいいの。でもわたしね、ちょっと……」

「あんた、どうしたの??」


 トシヨンは、借りてきた猫のように大人しい子で、いつも物静かなのよ。

 でも、今電話越しに感じられる彼女の静かさは、いつものとは雰囲気が違っている。あたしの推理脳すいりのうが、あたしの胸に警鐘アラームを鳴らしているかのように思えくるの。きっと事件が起きているのよ、とね。

 些細な用件なら、SNSを使ってメッセージを送ればいいのだけど、そうしなかったトシヨンには、直接あたしに伝えたい、なにか大切なことがあるはずだもの。

 そんな彼女が黙っているので、あたしは優しく話す。


「あんたに、なにかあったのね。トシヨン、そうでしょ?」

「オチャコ、どうしよう!」

「どうしたの? 遠慮なく言ってみて」

爛丸ランマルが、爛丸が……」


 爛丸というのはトシヨンが夏休みの終わり頃から飼っている、ロシアンブルーの猫ちゃんよ。爛々(ランラン)と緑色に輝く真ん丸な瞳をしているから、トシヨンがそう名づけたの。


「爛丸がどうかしたの?」

「いなくなったの!」


 ほうら、やっぱり事件だったわ。

 あたしがお父さんの大切なグラスを壊したのも事件だけど、こちらの方が、より重大な事件なのよ。

 静かな優しい口調でトシヨンに言ってあげる。


「つらい気持ちはよく分かるわ。でも、落ち着いてね」

「うん。でも……」

「爛丸を最後に見たのはいつなの?」

「夕方、六時前には、わたしのお部屋にいたの。でもさっき六時半頃に戻ったら、いなくなってて」


 六時半頃というのは、あたしのスマホに着信があった時刻。


「ねえトシヨン、きっと、お部屋の窓が開いていたよね?」

「えっ、オチャコ見えていないのに、どうして分かったの!?」

「あたしは、名探偵オチャコなのよ」


 あっ、「名探偵」というのは、ちょっとおこがましいかもね。

 次からは、やや控え目に「探偵オチャコ」と名乗ろう。へへ。


「ええ、そうだったわ。今オチャコが言った通り、窓が少しだけ開いた状態になっているの。その狭い隙間をすり抜けて、爛丸はお外へ出ちゃったみたい……」


 今は七時二十分だから、いなくなって一時間といったところね。


「トシヨンはあたしに電話して、あたしが出なかったから、あんたは一人で外へ捜索に行った。それとも、弟かお母さんかに頼んで、一緒に捜して貰った。その、どちらかでしょ?」

「そうよ。松彦まつひこと二人で捜したの」


 松彦というのはトシヨンの弟で、北琵琶学園初等部の五年生よ。

 それで、近くを捜してみたけど、見つからなかったという訳ね。


「ねえトシヨン、あんたのお部屋の窓はそのままにして、爛丸が戻るのを祈って待つのがいいと思うわ。猫は気まぐれだから、そのうちヒョッコリ戻ってくることが十分に考えられるもの」

「そうね」

「あたしもこっちで祈るわ」


 この時、軽々しく「きっと戻ってくるわ」とは言えなかった。そんな言葉を掛けて、少しでも安心させてあげたいのは山山(ヤマ・ヤマ)よ。

 だけど、探偵としてのあたしは、確信もないのに適当なことを言えない。


「でもオチャコ、もし爛丸が戻ってこなかったらどうしよ」

「万が一そんなことになって、明日の放課後になっても戻らないなら、あたしが捜査本部を設置するわ。探偵としてのオチャコが見つけ出すからね」

「ありがとオチャコ」

「お礼なんていいのよ。トシヨンはあたしの、一番の親友だからね」

「オチャコ!」

「トシヨン!」


 もし目の前に、この子がいたら、あたしはギュッと抱き締めてあげたはず。

 今はそれができないから、スマホを介して、温かい言葉だけで、トシヨンを優しく包み込んであげているの。

 あんたにとって、あたしは、あんたの仔猫ちゃんを捜してあげようとする探偵オチャコであるだけでなく、それよりも以前に、あつい友情を大切に守り抜く一人の親友オチャコなんだからね。

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